第10話 荒海

 海は永遠の祖母の忠告通り荒れていた。

 瓶の水を取り替えるために履き物を脱ぎ、海に入った。


 脹脛が海水に浸るくらいの位置まで来ると、瓶の中の水を半分捨て空いた分の海水を入れる。

 砂利が大量に入ったがこの波では綺麗な水はいれられない。

 砂はいずれ沈むだろうと瓶に蓋をしたところで波の中にゴミを発見した。


 空き缶である。

 空き缶だけではない、木材やお菓子の袋に洋服。

 よく見るといろいろな物が漂って浜辺に流れ着いている。


「拾わないと……」

 ジャバジャバと波が永遠を襲う。

 足を取られ尻もちをついてしまい水浸しになる。


「永遠!! 何してるんだ!!!」

 防潮堤の上から祐樹が叫び、走り寄ってきた


「ゴミを拾わないと、海が汚れちゃう」

「何言ってるんだよ。そんなの潮が落ち着いてからでいいだろ」


「駄目だよ。お父さんがいつかえってくるか分からないのに」

「何言ってる居るんだよ」


「お母さんは綺麗な海を見にお父さんが帰ってくるっていっていたの。こんな海を見たらお母さんが悲しむ」

「さっき永遠の家に行ったんだ。ばーちゃんから連れ帰るように言われた。みんな心配している。さぁ帰ろう」


「嫌よ。東京に連れていかれてしまうわ」

「東京?」


「そうよ。店をたたんで東京の叔父さんの家で暮らすって言われたわ」

「えっ……」


「祐樹、私から離れないって言ったじゃない。私をかくまって!!」

「永遠……」


「永遠、たぶんだけど叔父さんのいう事を聞いた方がいいと思う」

「!!?」


「祐樹の嘘つき! 絶対に離れないって言ったじゃない!!!」

「待て!! 永遠!! 俺は永遠から離れるなんて一言も言ってないぞ」

「?」


「俺も東京に行く。進路を東京の高校にする! だから離れない。数カ月は離れる事になるけど必ず追いかける。俺は永遠から離れない!!どこまでもずっと一緒だ」


「嘘だったら私が地獄に落ちるわよ」

「地獄まで一緒だ」


 そういって抱きしめる祐樹

「たとえ世界が敵になっても、永遠の傍から離れない」


「うわぁああああああっ」

 感極まって泣き出す永遠。


「大好きだよ永遠。なにがあっても離れない」


 ファーストキスは潮の味がした。



 *** 引っ越し当日 ***


 学校の仲間たちやご近所さんが見送りに来ていた。


「祐樹、これお願いね」

 そう言って一枚の写真を手渡す。

 母の遺品の中から父の写真を抜いてきたのだ。

「これが永遠のとーちゃんか」

「イケメンでしょ。青い瞳なの」

「これだけ美形なら間違えようがないな」

 そして、もし父が帰ってきたら連絡が欲しいと伝えてもらえるように祐樹と真知子へ頼んだ。


 引っ越しの持ち物はあまりなくクティーラとオーディオプレイヤーと着替えと教科書位である。

 友人の松本美幸が号泣している。

「引っ越してもズッ友だよ」


「もちろんだよ。また会おうね」

「うゎあああああん」

 暑く抱擁を交わす二人。


 抱擁が終わると永遠は祐樹と向き合った。

「俺も東京行ったら、その時は東京タワー案内してよ」

「いいわよ。其れまでには都会っ子になってるはずだから任せて」


 叔父が近づいてきた。

「さぁ、もう行こう」という言葉で、永遠たちは車に乗り込んだ。


 車は発進し、道の角を曲がり見えなくなった。


 美幸は祐樹に行った。

「こんな悲しい事生れてはじめてよ」

「そうだな。」


「ん、あの人だれだ? あんな人この町に居たか?」

 道の角に見慣れない人が居る。

 顔の皮膚は垂れて重力に逆らえず、その瞳は死んだサバの様。


 鼻をすすりつつ美幸が答える。

「えー? すごい魚面。たまにいるよねあーゆう人」


 こうしてこの日は解散することになった。







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