第9話 母親
何事だと永遠と祖母は台所に駆け付けた。
するとそこには母親の真帆が床に倒れてバタバタと大きく体全体が痙攣している姿があった。
「お母さん!!」
「永遠、救急車を呼ぶんじゃ」
永遠は祖母に促されて直ぐに玄関に置いてある電話の受話器を取った。
「救急です、母が倒れて痙攣しているんです。住所はXXX-XXXXXです」
救急車が来るまでの間も痙攣は引き続き起こり続けた。
*** 病院 ***
永遠と祖母は病院の待合室に居た。
看護師が来て集中治療室に呼ばれると、そこには落ち着いたのか静かに横たわった真帆の姿があった。
鼻にはチューブが繋がれ、しずかに寝ているように見える。
「先生、お母さんはもう大丈夫なんですか?」
永遠がすがる思いで医師に尋ねる。
「大変危険な状態です。ここの古い設備ではこれ以上の治療が行えません。すぐにでも都会の病院に移す必要があります。他に身内の者はいらっしゃいますか?」
祖母が答える。
「息子が東京に居ます。真帆の兄です」
「では息子さんに来てもらえるように伝えてください」
永遠はそのやり取りから一命はとりとめたが現状が良くない事を理解した。
すると横たわって寝ていると思われた母の目から涙が零れ落ちた。
「お母さんが泣いてる……どうして」
「真帆はこの土地から離れたくないんだろうね」
返事はない。
しかし普段親しくしている身内には伝わるものがある。
母は父が帰ってくるであろうこの土地から離れたくないのだ。
今なら共感できる。
恋焦がれる相手を信じたい心境が。
「お母さん。すこし我慢してね。治療が済んだら戻ってきたらいいんだから」
母は大粒の涙を流した。
翌朝、早くに母は息を引き取った。
*** 葬儀後 新島家 ***
「嫌です。私、東京に何て行きません」
「分ってくれよ永遠ちゃん。母さんも歳だし、真帆がもう居ないんじゃ店が回らないだろ。ここと同じで海も近いしいい家なんだよ。」
永遠の叔父である
「行きません。私はこの店を継ぎます」
「何を言っているんだい。永遠ちゃんまだ15歳じゃないか、お店の経営ってそんなに簡単な物じゃないんだよ。お店がやりたいなら進学して経営を学んでからでも遅くはないんだよ」
「この土地を離れたくないんです」
「そりゃぁ友達と離れたくはないだろうけど、今はインターネットで簡単に連絡取れるんだしそう意固地にならなくても」
「父が……父が帰って来た時、迎え入れる家族が居ないと悲しみます」
「驚いた……。君も真帆と一緒でアイツが帰ってくるって思っているのかい。無理な夢を見るんじゃないよ」
「無理な夢でも母の意志を継ぎたいんです」
永遠は泣きながら二階の自室に戻った。
机に突っ伏す。
机の上には森プロデューサーから預かっている瓶のなかの生き物がフワフワと揺れている。
その横にはコルクボードが立て掛けられ写真が数枚飾られている。
そのうちの一枚は綺麗な海の写真である。
撮影者は永遠の父親だと聞いている。
永遠は真帆から子供の頃よく聞かされていた話がある。
「あの人はここの綺麗な海が大好きだってよく言っていたわ。だからここの綺麗な海を見に、いつかひょっこり帰ってくるんじゃないかしら」と。
トントン。
「永遠や、考え直してくれはせんかね? 東京だって悪い所じゃないさね」
祖母が戸を叩きドア越しに声をかけてきた。
永遠はドアを開いた。
「お祖母ちゃん。わたしこの子の水を取り替えないと行けないからちょっと海まで行ってくるね。ずっとほっといていたから死んじゃうかもしれない」
そういってクティーラの入った瓶を抱え部屋を飛び出した。
「永遠や、台風が近づいてるから海が荒れてるかもしれんよ」
祖母の忠告を無視して永遠は海へ向かった。
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