第8話 宣言
二人はすっかり雨の上がった夜道を無言で歩いていた。
街灯がチラチラ点灯している。
永遠は腕の中にさっき預かったイソギンチャクのような生き物が入っている瓶を大事そうに抱えている。
祐樹はさっきの話を思い出していた。
永遠は父親の件で恋愛不信の人間不信に陥っている。
一体どうしたらいいんだと思案を巡らせていると、
「家が見えてきたから、もうこの辺りで良いよ」
「えっ……」
永遠が祐樹に別れを伝える。
「また明日ね」
明日また会える。
しかし満里奈の言葉を思い出す。
ここはハッキリ自分の主張を伝えなくてはならない、いつまでもこのままの関係を続けるわけにはいかない、と祐樹は勇気を出した。
「……あ、あの! 新島永遠!! ……さん!!」
急に大きな声を出した祐樹に永遠は目を丸くした。
「お、俺は何処にもいきません!! ずっと
あっけにとられて目が点になっていた永遠の瞳がしだいに大きくなり潤いを帯びだした。
「本気で言ってるの?」
「本気です! 嘘でこんなこと言いません!! なにがあっても永遠が嫌だと言っても永遠の傍から離れません!!」
「絶対に?」
「絶対にです!」
「……」
「……」
沈黙が訪れる。
永遠は胸が張り裂けそうなほど苦しくなった。
永遠にとってそれを受け入れる事はこれまでの価値観が一変する事と等しい。
もし、幸せになる可能性があるのなら、もしその後不幸がまっていても縋ってもいいかもしれない。
母が父が帰ってくる可能性に賭けているように。
そう思えるほどに胸が焦がれているのを感じていた。
しかし、まだ踏ん切りがつかない。
「それって婚約って言う事よね」
「婚約??」
「違うの?」
「ち、違わない」
「よく考えさせて」
そう言うと祐樹を一人残し永遠は家に走り去ってしまった。
*** 永遠の家 ***
玄関を上がると母親の真帆が出迎えた。
「あら、永遠。おかえりなさい。ちゃんと真知子ちゃんに有難うございましたって言えた?」
「もう、何歳だと思っているの? それくらいできるわよ」
「あら、そう。お風呂焚けてるから入っちゃって」
「はーい」
廊下を進むと座敷で年老いた祖母がテレビを眺めているのが見えた。
「おや永遠や。おかえり。何かあったのかい? 顔が赤いよ」
「そんなことないよ。いつもと一緒」
「そうかいそうかい。いつもと一緒ならいいことじゃわい」
祖母の感は鋭い。
永遠は気分の高揚が停まらない。今だ胸がドキドキしている。
(どうしよう。明日、なんて声を掛けよう……)
その時だった。
ガシャーン、ドン。バタバタバタバタ
台所から食器が割れる鋭利な音と何か物が落ちたような鈍い音、そして何か暴れるような音がした。
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