第6話 失踪した父

「私ね、片親なんだ」


 満里奈はきょとんとした顔をした。


「父親は私が産まれる前に失踪したの。

 この町にふらっと現れた日米のハーフでね、アメリカのマサチューセッツ州にある港町が出身って言うこと以外何も分からない人だったんだって。

 母と父はこの町で恋をして永遠の愛を誓い合ったって言ってた。

 でもこの有様なのよ。

 ふらっとやってきてふらっと出ていったの。

 今、母は祖母の経営する民宿で働いて私を養ってる。

 母はバカなのよ。いまだに父が帰ってくると思ってる。そんな事あるわけないのに。

 町の笑いものよ。皆憐れんでるけど陰では酒の肴よ。

 だから私は恋とか愛とかしないの。信じてない。

 馬鹿にならないために一生独身でいる事にしたの」


「そっかぁ。話してくれてありがとう。」

 しんみりした様子で満里奈は聞いていた。


 階段では祐樹が聞き耳を立てていた。


 それで永遠は告白をしてきた男子全てを拒絶していたのだと。

 永遠の心中を初めて知った祐樹は悲しみを覚えた。


――俺はそんなことも理解してやれてなかったのか、と。


「でもさ、祐樹君は永遠ちゃんを置いて失踪なんてするかな? 祐樹君は祐樹君。お父さんと同一視しちゃだめだよ」


 永遠は言葉に詰まった。

 あたりまえの事なのになぜかこれまでそう受け入れる事が出来なかった事を満里奈は的確についてきた。


 時間が停まったかのように感じた。


「おーい、ジュース持ってきたぞ」

 祐樹が沈黙を破るように部屋に入って来た。


「わーい、有難う!」

 満里奈が元気いっぱいに返事をした。


「満里奈ちゃんはここに何日くらい滞在する予定なの?」

 祐樹が訪ねた。


「うんとね。一泊で帰るよ」

「一泊だけなのね……残念だわ。折角知り合えたのに」

 永遠が寂しそうに言うと「じゃぁさ、ライン交換しようよ。本当は駄目なんだけど。今後が気になるし」

 今後とは永遠と祐樹の関係の事だろう。


 二人は顔を見合わせてすまなそうに言った。

「あ、ごめんなさい。私たちスマホ持ってないのよ」

「ド田舎の中学生のスマホ普及率は以上に低いんだよ」


「えー! そうなんだ。じゃぁ音楽とか何で聞いてるの?」


 まず祐樹が答えた。

「それはテレビで流れているのを聞くくらいかな」

 続いて永遠が答えた。

「私はラジオで流れた物を貰いもののMP3プレイヤーで録音して聞いてるのよ。英語の勉強に重宝しているわ」


「へー。そうなんだ。皆の生活を垣間見れてなんだかおもしろいな」


 するとそこに一人のひょろっとした長身の男が声をかけてきた。

「やぁやぁ、満里奈。楽しそうにしているね」

 河合満里奈は親し気に話しかけてきたその男が目に入るや瞳を輝かせた。


「森さん!! 遅いじゃないですか! 今日の収録を見てくれる約束だったじゃないですか!!」

「あはは、すまないね。ちょっと用事があってね」


 永遠が満里奈に「どちら様?」と目で訪ねた。


「あ、紹介しますね。私のアイドルプロデュースをしてくれている森恵一さんです。孤児の私に収入源をくれるいい人です」


 祐樹が声を上げた。

「テレビで見たことある!! あく、握手いいですか?」

 森はにこにことして「いいよいいよ」と手を差し出した。

 その脇にはなにか水の入った大きい瓶の様なものをを抱えていた。


「森さん、その小脇に抱えている物はなんですか?」

「あぁこれかい?」


 森は瓶を座卓の上に置いた。


「わぁっ、綺麗……」

 そこに居た者の中でいの一番に永遠が反応を示した。


「これ、何かの幼生ですよね?」

 永遠は水の入った瓶の中に居る透き通ってキラキラ光る生き物を指さした。


「あぁ、これはクティーラ様。神の幼体だ」




「……神?」

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