第3話 海とゴミ

 丘の上中学校はその名の通り丘の上にある学校である。

 校舎から景色を見渡すと海が広がっており、漁港と小さな街並みが見る事が出来る。


 新島永遠はこの町で育った。

 ポニーテールにした艶やかな黒い髪と大きな瞳は母親譲りで評判が良かった。

 そして目立たない通った鼻と薄く形の良い唇は美人と言って差支えがないだろう。

 しかしその容姿の割に男子から告白されることはあまりなかった。


 なぜなら――。


「永遠、それ重いから俺が拾うよ」

「ありがとう祐樹」

 田代祐樹が新島永遠のそばを片時も離れないからである。


「ほんと、嫌になるほど暑いわ」

 浜辺でゴミを拾う二人の姿を見て松本美幸が掌で団扇を作り仰いだ。


「松本先輩、本当にあの二人付き合っていないんですか??」

 後輩の美化委員会メンバーである二年生の坂本一真さかもとかずまが美幸に尋ねた。

 無理もないだろう、祐樹は永遠にデレデレである。

 永遠の方はポーカーフェイスなのか単に好意が無いのか、いつも道理の様子である。

 しかし二人の仲が良いことは確かである。

 だが付き合っているわけではない。


 田代祐樹の目をかいくぐって永遠に告白する男子が居ないわけでもなかったが、永遠はその全てを断っている。

 永遠と学校一のイケメンが永遠から振られた、という話は学校を飛び越え町内の噂になったこともあった。


 なぜなんだと気になった美幸が「永遠は恋とか興味ないの?」と訪ねたことがある。


 その答えが「美幸はさ、永遠えいえんの愛とか信じる? 私はね――自信ないんだ」だった。


 そう言われた美幸は言葉に詰まった。

 永遠は失踪した父親の事を言っているのだろうと、そう悟るしかなかった。


「付き合ってはいないけど、不可侵領域だと思うよ」

「ですよねー。」

 一真はうな垂れている。


「なに? 永遠の事、好きなの?」

「え!? いや、そういうわけでは、僕、他の所見てきます!!」

 そう言って一真はそそくさと走り去っていった。


「顔が良いって得よね……」

 美幸はため息をついた。



 *** ***


「美化委員集合! 今日はこの辺で終わりにしよう! 荷車に乗せて運ぶからごみ袋をこっちに集めてくれー!」


 美化委員顧問の体育教師が防潮堤の上から砂場に居る生徒たちに声をかけている。


 生徒たちは各各集めたゴミを荷車に乗せた。


「先生! こんなに集まりましたよ!!」

 祐樹が得意げに報告をした。

「良くやった。 内申書に書いておくよう担任に伝えておくからな」

「あざーす!!」


「私もお願いしますね、先生」

「あぁ、松本の分もちゃんと伝えて置くぞ」

「ありがとうございます」

 ちゃっかりと美幸も内申書の点数を稼いだ。


 顧問の教師は集められたごみを一瞥し嘆いたようにつぶやいた。

「にしても昔はここも綺麗な砂浜だったんだけどなぁ」


 新島永遠は暗い顔をして訪ねた。

「……そんなに変わってしまったんですか?」


「昔はゴミ一つなかったからなぁ」

 永遠は何か気落ちしたように一旦視線を下に向けてから海を見た。


「永遠?」

 その顔色の変化を祐樹は不思議そうに見ていた。


「先生、坂本君がいません」

 誰か生徒の一人が一真の不在を報告した。

「あいつ、どこに行ったんだ?」


 美幸は思い出す。

「そう言えば防波堤の向こう側の方まで走っていきましたよ」

「なんでアイツはそんな所まで行ったんだ……。よし、皆で探しに行こう」

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