第2話 少年
放課後、学校から海へ向かう坂道で美化委員会が一緒の松本美幸が嘆いていった。
「永遠はさ、受験しないんだっけ?」
「うん。実家の民宿で働こうと思ってる」
「いいなぁ、うちなんて家族みんなして『お前みたいなやつ中卒じゃ誰も娶ってくれないぞ!』って言ってさ、わざわざ都会まで行って高校進学しなきゃならないんだよね。どうせ都会に行くなら東京に行ってフリーターとか憧れるんだけどさ」
美幸は新島永遠と幼馴染で隣のクラスの3-Bに所属している。
肩にかかる位の長さをした天然パーマの髪をしており、トレードマークになっている赤いテニスゴムで前髪を一本に結わえている。
その前髪が歩くたびにピョコピョコ跳ねている。
「フリーターは高校卒業してからでもいいんじゃない?」
永遠は歩きながら美幸の顔の方を軽く覗き見た。
美幸はそれに応じるように顔を向き合わせ両掌を天に向けた。
「それがさ、高校卒業したらすぐに婿養子を貰って家をつげって言うのよ。いやになっちゃう」
それには永遠も驚いた様子で「確かに其れは強要されると嫌かも」と答えた。
美幸は三人姉妹の長女で家業は漁師である。
祖父は漁業組合の会長もしている。
引き継ぎ手不足を不安視しているのだろう。
だが、それにしても話が急務すぎる。
「でしょ?
今時、晩婚なんて当たり前なのになんなんだと思ったら『お前みたいなブスは若さだけが取り柄なんだから』ってハッキリ言い切ったのよ。うちのジジイ。」
「えー。美幸のおじいちゃんそんな事いうの?」
「言う言う。滅茶苦茶言う」
美幸は一息ついてから空を見上げこう続けた。
「あぁ~あ、せめて恋愛は自由にしたいな。いいよね、その点、永遠はさ」
「え? 何で?」
「何でってそりゃぁ……」
「おーい!! てやぁ!!」
新島永遠は背後から後頭部へ打撃を受け振り返った。
「祐樹!!?」
「今から美化委員の活動だろ? 俺も会員だから一緒に行こうぜ」
振り向いた先には美幸と同じく幼馴染の少年・田代祐樹の笑い顔が見て取れた。手はチョップの形をしている。
「祐樹はもっとか弱い女子に優しくできないの?」
永遠は不服げに祐樹を睨んだ。
すると祐樹は手のひらで目の上に
「あれれ~? どこにか弱い女子が居るの??」
と完全に馬鹿にしたように挑発してくる。
「ここに居るでしょ失礼ね!!」と永遠は手にしていたトートバッグに遠心力を加えて力いっぱいに祐樹の顔を強打した。
強打したと言っても中に入っているのは着替えの下着と制服だけなので痛くはない。
今日は海でゴミを拾う作業をするために濡れてもいいように、学校でジャージの下に水着を着こんできたのである。
「うわぁ~!! 暴力女だー!! ひゃっはー!!」
そう言って祐樹は我先にと目的地の海に向かって走って行ってしまった。
永遠は呆れ返っていた。
「もう、子供過ぎなんだから……。で、何の話だっけ?」
「あーぁ、良いよねぇ永遠は」
「だから、何でよ」
「自分の胸に聞いてみなさいっ!」
そう言って美幸は永遠の頭を小突いた。
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