第14話 夜中瓜の正体
夜中瓜は、真夜中の公園でひたすらシャベルで土を掘っていた。
そこに鞄に敷き詰めたバラバラ遺体を二体、埋める。
夜中は嘆息を吐いて、空を見上げた。
胸にしこりを残すような、極めて不愉快な感覚だ。
人を殺すって、こういうことなのか。
◇
煙草を吸いながら漫画を描いていた。ひたすらにこうしたことを愚直にやることが不愉快な気分を慰めることに適しているのだ。
漫画の世界では殺人は軽く扱われている。殺人とは正義だと紐付いてもいる。かの有名な少年誌でもだ。
だから俺がやった行動は正義なんだ。
それが殺人を犯して虚像と現実の区別がつかなくなった夜中の、ありのままの姿だった。
◇
「夜中先生、これが今回の原稿なんですけど・・・・・・」
夜中先生と俺は、深夜のメキシコ料理店で漫画のネームを練っていた。
もちろん、俺は絵を描くことはできない。なので文章で書き起こした原稿を夜中先生に観ていただいているわけだが、普段なら即時に通る原稿も今日はすぐには通らなかった。
『博徒系暴力団の住吉会、構成員二名が某タワーマンションに侵入後行方不明に。警察は捜索中』
これが原稿の大まかなタイトルだ。
夜中の顔が先ほどからずっと険しく、手も微かに震えているように見える。
まさか、この某タワーマンションって――。
俺は、少し探りを入れるつもりで訊ねてみた。
「警察は捜索中とありますが、実際、その某タワーマンションのどこで、どんな犯行があったのか。それはもう既に調べあげているということはその道の筋が喋っていました」
「何が言いたい」
少し険悪な雰囲気になる。ということはもう確信的ということで。俺は身の安全も考えてこの場はお開きにしようと思った。
「たとえ、暴力団であっても人の子です。身の危険を感じたのなら、そういう手段に手を染めるのではなく、警察に通報しましょう」
俺は原稿を封筒にいれて、それからバッグに直し、手切れ金という意味も込めて一万円札を机に置いて立ち去った。
◇
そして夜中瓜先生は殺人と死体遺棄の容疑で逮捕された。
俺はそのニュースをどこか他人のように観ていた。
しかし、あるテロップに俺は驚かされた。
「田代俊介。四十歳。歌舞伎町で不審死を遂げた田代広大の弟か?」
俺はすぐに関東連合の現幹部の翔に電話を掛けた。
「なんだ、下積みライター」
「嫌みに付き合っている暇はない。端的に言うぞ。夜中瓜の正体を、お前らは知っていたか?」
少しの沈黙があって、その後肯定された。
「分かった。でも納得できないんだ。田代広大は拓也の兄弟分のような男だった。ということは弟の俊介とも交流があっただろう。しかし、博識連合に殺害され、拓也は報復に乗り出した。博識連合は所詮、どことも暖簾分けしていない、孤立組織だ。住吉会に勝てるわけがない。しかし奴等は拓也を殺し、住吉会の総長である久松も殺し、最後に全てに糸を引いていた夜中――田代俊介まで殺そうとした。奴等は何なんだ?」
「・・・・・・俺たちはチャイニーズドラゴンが関わっていると思っている」
「中国系のアジアマフィアか」
「そうだ。中国の闇社会は市場がデカイ。関東連合なんていう時代遅れの暴走族なんてすぐに解体される」
俺は舌打ちした。
「そんなことどうでもいい。ということは博識連合のケツ持ちはチャイニーズドラゴンということで合っているんだな」
「そのはずだ」
俺は礼を言って、通話を切った。
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