第13話 博識連合対関東連合
その夜、歌舞伎町は静寂だった。
歌舞伎町と言えばあれほど通りすがる人間にキャッチが勧誘したり、ホストクラブのネオンボードは輝いていたりしていたのだが、本日はその傾向は見られない、文字通りの静かさだ。
不気味なことだった。嵐の前の静けさというべきか。
するとその通りに大名行列をする武装した少年たちが現れた。先頭に立つのは桐本拓也だ。黒装束に身を包み、ガンを飛ばしている。
その正面に、顔面に刺青を施した風貌で言えばヤクザらしい奴等が大勢歩いてくる。
「あんたらが博識連合のおやっさんたちか」
「そうだ。てめえのようなおっさんはガキのオムツ換えに必死で、逃げると思っていたんだがな」
そう言った白装束に襷を掛けているのは博識連合だ。
会敵した三十秒後、二つの組織はぶつかり合った。
殴り殴られ、ドスで引っ掻き殺し合う。
「拓也さん。多勢に無勢です。このままいけば負けちゃいますよ」
急遽二十人あまりの若者が関東連合を去った。それを裏で糸を引いていたのは例の胡散臭い漫画家だ。そのせいで、現在劣性に追い込まれている。
「敗けは死を意味する。ぜってえ引くんじゃねえぞ」
拓也の脇腹にナイフを刺される。吐血し、膝を折る。
「くそっ、ぜってえ負けるかよ。うっ」
拓也は目眩を実感する。そして吐血のあとは嘔吐し、傷口が痛む。
すると誰かが通報したのか、サイレンの音が聞こえだしてくる。
「ちっ、ポリ公か。全員逃げるぞ」
博識連合のやつらは尻尾を巻いて逃げ去っていった。
拓也は地面に倒れる。翔はその拓也をおぶって走る。
◇
関東連合お抱えの闇医者のもとへと向かう。渋谷の地下闘技場の傍に診療所はあった。
意識を失っている拓也をベッドに横にならせる。すると拓也は意識が戻った。しかし苦痛からか目は半開きで、全てにおいて判然としない。それでも、彼は翔の袖口を引っ張って言葉を遺そうとした。
「関東連合はお前に任せる。もとはと言えば俺が筋違いなことをしたのが原因だ。だからこれは報いだ。新入りであるお前に全てを託すことも悪いと思っている。しかしな、お前が幹部をこの病院まで連れてきたことである意味箔が付いたといってもいい」
ドスンと拓也が翔へ拳を突きつける。
「頑張れよ。”大”翔」
大きく羽ばたけという意味の言葉を遺し、息を引き取った。
◇
「親父、関東連合から連絡です」
「貸せ。――なんだ。なに、拓也が自殺した? 筋を通すために? ふーん。分かった。手引きしてやる。もう二度と曲がったことすんなよ」
博識連合の親父は次に総代に電話を掛けた。
「総代。関東連合の拓也が死んだそうです。はい。もう引いてもいいじゃないかと。はい。かしこまりました」
親父は、電話を切って煙草を咥えた。若手が火を付ける。
「なあ
空気がピリッとする。文也とは博識連合の若頭であり、年齢は三十五歳。この道二十年のベテランだ。
「それはどうしてですか?」
突飛な発言すぎて理解が追い付かなかった。懲役だと? と。
「上から住吉会幸平一家の総代を殺せと命令が下った。それでてめえ、鉄砲やれ」
否応でも理解が出来てしまった。関東連合のケツ持ちが住吉会なのだ。今回、関東連合の重鎮を殺したことによって、それらの組織に奴等が頼ることも十分考慮出来る。しかし、親父は分かっているのだろうか。住吉会幸平一家は、所詮暖簾分けした会派だとしても、影響力は凄まじい。文也もただでは済まないし、親父や総代も潰される危険性も孕んでいる。
文也はこの地位に登りつめるまで、必死な思いで努力してきた。時には親父の靴を舐め、時には人を半殺しにして懲役を課されたこともある。そんな思いをしてまで親父に忠誠を尽くしてきても、結局は良いようにこき使われて、死ぬまで
ぼろ雑巾なんだ。
「うちもただじゃあ済みませんよ」
その言葉に、親父は叫び声をあげた。「おい!
若手が親父に、壁に掛けられていた竹刀を渡す。それを持って文也の頬をはたいた。猛烈な痛みに怯んで、屈むと背中をそれで殴打された。
「俺らは舐められ続けていいと思ってんのか文也。ああ?」
「すみません。俺が間違ってました。すみません!!」
◇
チャカ(鉄砲)に銃弾を詰めて、築地久松が住吉会事務所から出てくるのをじっと待つ。
すると三人の護衛を引き連れてビルの階段を降りてきた。
文也は引き金を絞り、弾丸を解き放つ。しかし弾丸は護衛の大腿に当たり、的が外れてしまった。緊張で冷や汗をかく。どうしよう、はやくケリをつけないと・・・・・・もう自分の居場所は発砲によって知られてしまったのだから。
「おんどらぁ、そこか。てめえは誰だあ」
中に知らせてこいと護衛のひとりが言う。それを聞いた同じく護衛の者が階段を駆け上がる。
「総長、早く車に」
築地は促されてミニバンの後部座席に乗り込む。
俺は焦っていた。このままでは築地を殺すことが出来ず、任務を完遂できなかったら、今後アウトローの世界では生きられなくなる。
文也は、息を吸いながら車のガソリン貯蔵部分を狙った。もうこれしかチャンスは残されていない。
この一発に賭ける――。
◇
「続いてのニュースです、住吉会第十二代総長、築地久松が暴力団の抗争によって死去いたしました。逮捕されたのは蘭木文也。三十五歳――」
煙草を吸う夜中は微笑を湛えていた。
「次は加藤創業かな」
バァン、扉が破壊される音が響いた。
「おいコラ田代。いるんだろ。出てこいや」
夜中は煙草を灰皿に擂り潰して、中国から輸入したこの筋の業界人間から入手出来た拳銃を、構えて夜中は玄関へと向かった。
会敵し、瞬時に引き金を引いた。なんの躊躇いもなく。そのことに、半グレだろうか、バッドを持っている男たちは驚いていた。
そして驚愕した者も殺害し、夜中はけらけらと笑った。
一体、彼は何者なのか。
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