第12話 トー横キッズ

 俺は、夜中先生と共にトー横界隈に来ていた。

 地雷系ファッションに身を包んだ女子たちや、髪の毛を明るく染めた少年ら。それらが吹きだまりのように溜まっていた。


「気を付けてください。彼らのもとへ来たことはきっと博識連合にも流れるはずです。狭いアンダーグラウンドですからね」

 夜中は顎髭を触りながら言った。それを俺は睨み付ける。

「しかし、彼らがこの博識連合と関東連合との冷戦を止めると信じているんですか?」


 トー横に行きたいと電話してきたのは夜中先生のほうだった。俺はその意図を聞いたとき、


「関東連合に多く在籍している少年たちもいるし、少女たちは博識連合のもとでウリをやらされているはずです。あの界隈ですら大人たちの事情に巻き込まれている。けれど裏を返せば少年たちを攻略すれば、大人たちを変えられる」


 と能弁かはたまた博識とも区別がつかないことを夜中先生に言われ、説得された。


「いつだって、戦争を止めるのは民衆――子供たちですよ」


 そして、夜中先生が独りの少年に声を掛けた。


「誰だよおっさん」


 するとバッグから札束を取り出した。およそ十万円ほどだ。


「なんだよこの金」

「おじさんのもとで仕事をしないか?」

「時給は?」


 夜中はにこっと笑って、


「二千円だ」


 そしたら一気に少年の目が警戒心を帯びる。

「どんな仕事だよ。おっさんのチンコしゃぶるのかよ」

「そういうのは間に合っている。君はそっち系なの」

「ちげえよ。冗談だよ」


「だよな、分かっていたよ。おじさん、漫画家なんだ。冗談やギャグぐらい解るさ」


「漫画家って、なに描いてるんだよ」

「愚直な弁護士風靡っていう漫画だ」


 少年たちは豪快に笑った。


「少年院で読んだよ。凄くおもしれえ漫画だ」


 だんだんと目がキラキラとしてきた少年たち。それを見て凄いと思ったのはやはり漫画の力や影響力と夜中先生の才能だった。やはり弁が立つというのはこういうことか。相手のテリトリーにスッと入れる力を持っている。


「で、そんな先生が俺たちに何のようだよ。仕事って・・・・・・まさか漫画のアシか」

「ああ、そうだ。漫画家のアシスタントだよ。でもその前に条件がある」

「何だよ」

「もう足を洗え。こんな場所で溜まるのは辞めるんだ」


 少年たちは沈黙した。そうしたいのは山々なんだろう。しかし関東連合との決別は勇気がいる行為だ。ヤクザも辞めにくいが半グレはもっと辞めにくい。

 なぜなら、ヤクザは警察に逃げ込めば暴対法の存在でそいつに介入できなくなる。しかし半グレは暴対法が無く、辞めたいと幹部クラス以上の存在に物申せば最悪殺される。警察に駆け込まれると不味い情報を握っているからだ。半グレの一斉摘発、なんてことも珍しくない。このことが、俺の長年の取材人生から得た情報だ。


「覚悟を決めるんだ。君たちは若い。一生アウトローで生きるなんて嫌だろ?」

「分かった。やってみるよ」


 好ましい表情を少年は見せた。それはようやく見せた子供らしい表情だった。

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