第二部 事件

第8話 売れないライター

「人生の悲劇は、人は変わらないということです」 アガサ・クリスティ


 ◇


『田代広大。四十五歳は逝去された。そのことで関東連合と博識連合はにらみ合いを続ける羽目になった。

 当初、この二大勢力は友好な関係を築いていたが、拓也という関東連合のなかで重鎮の位置にいる彼が、博識連合に対して、殺害予告を送ったことで状況は一変したと言えるだろう。』


 俺は売れないライターの斉間さいま孝二こうじだ。

 上記の文章を書きながら、俺は顎に手をやった。


「田代広大。こいつは何者なんだ・・・・・・」


 こんなニュース記事、誰も取り扱ってはくれない。だからこそ、俺はある漫画家に連絡を取った。その人物は、裏社会をディープに描き、定評があり、この前の弁護士の漫画で五千万部は刷ったとか。俺も画力があれば漫画の一本、描くんだが才能が無いから仕方ない。その漫画家に、今現在裏社会はどうなっているかを伝えて、取材料を貰うことでなんとか生計を立てているのだ。


「あっ、もしもし、夜中先生?」


 夜中よなかうり(もちろんこの名前はペンネームだ。本名は教えてもらっていない)は咳払いをして、なんですかと答えた。風邪だろうか。


「以前お伝えした、田代のことなんですけど、どうも関東連合の拓也が動いたことが引っ掛かる。奴のことでなんか分かったらまた再度、お伝えしようと思うんですけど、その前に現状の本件の擦り合わせをしませんか?」


「いいですよ。まず、田代広大にはが残されていた」


「あれ、遺書って言うレベルですかね。『また逢おうね』とか、ラブホで寝てるあの女に単に充ててる置き手紙じゃないですか」


「雪野香里奈ですよね。あの風俗嬢の」


「夜中先生は、風俗とかに行かれたことはあるんですか?」


「・・・・・・どうしたんですか、急に」


 失礼な発言だと我ながら思う。それでも聞いたのは風俗嬢のある事実を認知しているか把握しておきたかったからだ。


「風俗嬢は、普通は客と寝ないんですよ。キャバ嬢とかだったらウリぐらいはするでしょうけれど、雪野が働いていたのはソープランド。普通だったらセックスは金にさせた方がいいんです。知ってました? 彼女、博識連合に借金していたんですよ。なら、尚更――」


 すると電話越しでも分かるぐらい、夜中が嗤うのが聞こえた。それに少し虚を突かれる。


「分かってませんね。女心を。ラブホでやるからこそ、普段味わえないプレイだったり、雰囲気があるんですよ」

 返ってきた変態チックな言葉に、思わず苦笑してしまう。

 そして、通話も後半に差し掛かり、その際に夜中からとんでもない提案をされた。


「関東連合の渋谷事務所に行ってみませんか? あの拓也が占めてる場所です」

「本気ですか? もしかしたらその場所で博識連合とカチコミに遭ったら」


「大丈夫ですよ」

 どうしてここまで、この夜中という人物は人脈があるのか、謎でしかなかった。

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