第7話 傭兵には新しい愛を、そして悲しみには死を

 ソルジャーとしての自覚。そしてコンビニのバイト店員としての自覚。空っぽな自分に、そんな自覚ばかりが増えていく。覚えているつもりはないが、希死念慮を自覚した日々もあった。「殺し合い」にしか興味がない、軍隊に属していた頃の俺は、ある意味では未熟者だった。そんな俺に、当然かもしれないが周囲は英雄になり損ねた男として称していた。


 俺に女は必要はない。そう思っていたのに、出逢ってしまった。無自覚にも。

 いや、本当は自覚的だったかもしれない。その人にコンビニ弁当を故意に渡し、出逢いを手繰り寄せてしまったのだから。

 

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 俺は、父親と確執があった。家族愛なんて嘆いている曲やアニメに、映画にも反吐が出る思いで達観していた。実際は、俺にとったら家族なんて虚構でしかないのに。


 だからこそ、士官学校に入学し防衛の任を着いたのかもしれない。しかしそれも失望することになってしまうが。


 まあつまりは他人の家族を護ることで自分の家族など省みる必要がないと思っていた。


 しかしそれは間違っていた。当時、兵庫県に住んでいた父親から帰省するようにという手紙が届いた。けれど無視した。そしてその行為を俺は死ぬまで後悔することになる。それは阪神淡路大震災だった。父親の家は土砂崩れで下敷きになった。逝去してしまった父親の葬儀に出向くと、親戚中から冷酷な目で見られた。


 なんだよ。仕方ないじゃないか。

 それから俺は特戦軍に移動になり、父親のことなど忘れてしまった。

 俺に親はいない。けれど、それで困ることもないのだ。


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 目が覚めた。涼やかな空気が部屋中に溜まっている。俺は隣を見やると雪野がすうすうと寝息を立てているのが伺えた。彼女の頭を撫でてやった。可愛くて、愛おしくて、しかしどこか凛としてして。強い女性だ。

 俺は置き手紙を残して去った。


 また逢おう、と。


 まだ夜更けの午前四時。俺はわざと歌舞伎町へと向かった。


 ホストらしきウルフヘアのイケメンが、地雷系女子から怒鳴られている。酒に酔い、自分にも酔っていそうなスーツ姿の男性が、電柱の影で嘔吐している。これが歌舞伎町だ。


 すると俺は独特の嗅覚――それは特戦軍で養ったもの――で、尾行している奴の存在を認識した。

 そしたら背後を取られ、ハンカチを口許に当てられ失神しそうになった。これは催眠液が染み込んだハンカチだ。

 部隊にいた頃の忍耐力でなんとか堪える。

 だが、後ろから前方に向かって激しい痛みが走った。見やるとドスが肝臓部分に刺さっている。


「クソ。てめえら」


 黒づくめの男は笑いながら、一気にドスを引き抜いた。


「あんまり俺らを舐めんなよ。博識連合って意味知ってるか? 聡明な奴等の集まりってことだよ」


 俺は、そのまま意識を失った。

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