第5話 関東連合

 俺はその日、関東連合の事務所に向かった。

 半グレのくせに一丁前に事務所を構えている連中。


 関東連合とは、東京都の世田谷区烏山地域や杉並区の暴走族の連合体として1973年に結成され、2003年に解散。ところが解散後もOB(元メンバー)同士が上下関係に基づく強い絆で結束しているとされ、2000年代から2010年代にかけて、東京・六本木周辺などで発生した各種事件の関係者としてたびたびその名が登場してきた。そうした解散後の状況下にあっては、このOBらの結び付きを指して“関東連合”と一般に呼ばれていた。


 その関東連合に友人の桐本きりもと拓也たくやはいる。そいつはその連合の幹部で、重要な決定権を持っている。


 ノックを二回して、俺は扉を開けた。


「拓也はいるか」

 壁に沿って直立していた頭髪を剃った男が頭を下げてくる。こいつは拓也の直属の部下だ。俺が拓也の親友だと悟ったあと、敬服を捧げてきた。


「あちらに」


 デスク用のテーブルに両足を付けて、ウォッカを飲んでいる拓也の姿が奥にあった。


「よお、同士。野暮用か」

「ああ、そうだ。博識連合について知りたい。どんな組織なんだ?」


「おいコラ、拓也さんに向かって何を言うんだ! ここでその名前はご法度だぞ」    


 室内にいた他五名のうち一人――たぶん新入りの若者が威勢のいいことを叫んでくる。それは単純なドスだしなら竦み上がるだろう。


「おいやめておけ、翔。そいつに敵うと思うな」

「なに言ってるんすか。こいつ普通のおっさんでしょ?」

「なら好きなようにやれ」

「うす」


 精一杯拳を振り上げて、俺を殴ろうとしてきた。その軌道を瞬時に避ける。そうして出来た鳩尾へのストレートのラインに軽いフックをしてやった。するとそいつの身体が軽く持ち上がり、嗚咽を溢しながら倒れ込んだ。うめきながら「こいつ何者だ?」と苦肉を漏らす。


「2004年に自衛隊の第一空挺団に付随して設立された特戦軍(特殊作戦軍)に所属していた肉体派だ。お前みたいな調子のいいチンピラが喧嘩で勝てるわけないだろう」


「それ・・・・・・先言ってくださいよ」


 俺は翔という青年の頭を足で蹴った。


「もうやめてやってくれないか。頼む」

 拓也が足を直して頭を下げた。俺は嘆息を吐いて、その拓也にバッグからコンビニ弁当を取り出し、それを渡した。シャケフレーク弁当だ。


「ありがとう。最近金欠でさ」

「博打と女遊びばかりやっているからだろ」

「そうだな。楽しいもんだぞ」

「で、博識連合の話だが・・・・・・どうなんだ?」


 パックを開けて、割り箸を割ってから弁当のシャケフレークが乗った白米を食べる。


「それについてはどうにも。っていうか、そもそも俺ら半グレごときが一大勢力の暴力団に何か出来ると思うか? お前もバカじゃないだろ。俺たちは――」

「分かっている。みかじめ料を連中に支払っているんだろ」

「そうだ。なら、何しに来た」

「俺が連中を嗅ぎまわっていると奴等の総代に吹聴してくれ」


 すると拓也の目の色が変わった。


「何を企んでいるか分からんが、あんまり連中を舐めるなよ。いくらお前だからと言って、潰せる相手ではない」

「分かっているさ。じゃあ頼んだぞ」


 俺は踵を返して去っていこうとする。それを制した拓也。

「この弁当の借り、いつか返すからな」

 俺は首だけ振り返って微笑んだ。

「わかったよ」

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