第21話

「な~んだ。彼女持ちかぁ」

「こんなに可愛いんだもの。当然よね。邪魔しちゃってごめんなさい」


 残念そうに肩をすくめると、お姉さん達は立ち去った。


「助かった……。マジで食われるかと思った……」

「あははは! 危なかったね! てか、いきなり逆ナンされるとかヤルじゃん黒田君!」

「いや、新手の詐欺かなんかだろ……」

「イヤイヤ。アレは普通にガチの奴だから。明らか捕食者の目してたじゃん!」

「なわけねぇだろ……。どこの物好きがこんな貧弱な陰キャオタク相手にすんだよ……」

「まだそんな事言ってるし! 何度言ったら分かるわけ? あたしのテクで黒田君は生まれ変わったの!」

「いや、まぁ、前よりマシにはなったと思うけど……。髪切ったくらいでそこまで変わんねぇだろ……」

「髪だけじゃないし! 眉毛も剃って、ムダ毛も全部処理したでしょ!」

「バカ! 大きい声で言うなよ! 恥ずかしいだろ!?」


 慌てて人差指を立てる。

 朝比奈さんの言う通り、今の俺は髪の毛と股間の一部を除いて全身ツルツルだった。

 現状の俺が琢磨に勝つにはどうしても必要な事だと言われて押し切られたのだが。

 意味不明だし、普通に恥ずかしい。

 周りの男共はもさもさなのに、俺だけツルツルなのだ。


「だって黒田君ヒョロヒョロだし。意外に童顔じゃん? 全体のバランス考えると筋肉つくまで陰キャ系ショタ路線で攻めるのが最善だと思ったんだけど……」


 言いながら、朝比奈さんの視線が舐めるように俺の全身をサーチする。

 朝比奈さんはポッと赤くなり。


「……あ、あははは。ヤバいねこれ。自分でやっといてアレだけど、ハマりすぎって言うか、かなりエロい」

「え、エロい!? なんだよその感想は!?」

「だってエロいじゃん! 黒田君外出ないからその辺の女の子より肌綺麗だし! 肩幅もあんまりないって言うか、骨格がメス男子みたいな?」

「骨格がメス男子って、もはやそれは暴言だろ……」

「誉め言葉じゃん! あたしなんか骨太だからどう頑張ってもムッチリしちゃうし! ほら! あたしと並んだらオタクに優しいビッチギャルと可愛い陰キャ美少年みたいで超イイ感じじゃん!」


 朝比奈さんが俺の手を引き、近くの売店にある鏡の前まで引っ張っていく。

 そこに映るのは……。

 何度見ても見慣れない、別人みたいな俺だった。


 怪鳥の巣を載せたようなもじゃもじゃ頭はスッキリと刈り込まれ、爽やかな耳だしベリーショートになっている。生やしっぱなしの眉毛も細く薄く整えられ、お前は本当に俺なのか? と鏡に問いたくなるくらい印象が変わっていた。


 美少年と自分で言うのは憚られるが……。

 なんかこう、可愛い感じになってしまっている……。

 そういう意味では、男らしさの欠片もないひょろっとした無毛の身体は似合っているのかもしれない。


 というか、朝比奈さんの口ぶりから察するに、身体のイメージに合わせて髪型や眉毛を整えたようだが。

 ここまで変わるとまるで魔法だ。

 気分はまさにシンデレラといった感じである。


「俺はなんにもしてねぇし……。朝比奈さんのお陰だろ……」


 なんだか俺は急に胸がドキドキしてきた。

 朝比奈さんの褒め殺しと先程の逆ナンで、愚かにもちょっとだけその気になってしまったらしい。

 勿論それは朝比奈さんの手柄なので、素直に礼を言っておく。


「それはそう! だけどやっぱ、ここまで変わると気持ちーよね! これもある種のコスプレって言うか? これはハマっちゃいそうだわ……。本当良いでき……。てか黒田君おっぱい綺麗過ぎない? 普通にピンクなんだけど……」

「ぬぁ!? へ、変な所見んなよ!?」


 恥ずかしくなり、慌てて俺は胸を隠した。


「ぎゃああああ! そのムーブエロ過ぎぃ! ヤバいってマジで!」


 朝比奈さんは大興奮で悶えているが。


「エロいのは朝比奈さんの脳内だろ!」


 まぁ、脳外も普通にエロいのだが。

 朝比奈さんは派手なヒョウ柄のビキニ姿だ。

 ただでさえエロい身体に焼けた手足と真っ白い胴体が合わさって、とんでもくドエロイ姿になっている。


 風呂場で先に水着姿を見ていなければ、とてもじゃないが直視出来なかったろう。

 いやまぁ、今だって平気じゃないが、平気な振りをするくらいの余裕はある。


 てか、朝比奈さんと俺が並ぶと犯罪臭がすごい。

 それこそなんかのエロ本のコスプレかよ! って感じで、四方八方からやらしい視線を浴びている。


 もちろんここはプールだから、他にもエロい格好をした奴なんかいくらでもいるんだが。

 それでも俺は悪い事をしているようで気が気じゃない。


「あははは! 今更気づいた? あたし普通にエロいし! てかさ、大抵の女の子の脳内は男子よりエロいと思うけど」

「そんな事ないだろ……」

「いやあるって。BLとかレディコミとか見た事ないでしょ。男子向けの漫画より全然エグイから」

「知らねぇよ!」


 知りたくもない。

 だって朝比奈さんはオタクだ。

 下手に詮索したら絶対布教してくる。


「知ってよ! 普通に面白いのもあるから! あ、今度初心者向けのやつ持って来る?」


 ほらな!


「いいって! それより目的忘れんなよ! 楽しそうな画像送って琢磨達を羨ませてやるんだろ!」

「そうだった! 普通に遊びたい所いっぱいあるし! こんな所で油売ってる場合じゃないじゃん!」


 

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