第16話
ちょっと見ない間に琢磨は随分変わっていた。
髪の毛はムラなく綺麗にゴールデン、髪型もアシンメトリーでヘアピンなんぞつけてやがる。
眉毛も細く整えられており、お前誰だよってくらい普通にイケメンだった。
着ている物も洒落ていて、以前のどこかもっさりとした似非チャラ男の姿はない。
すっかり垢ぬけて、隣のクラスのマドンナ的存在である夜見さんと並んでいても違和感なんかまるでない。
親友が遠い存在になってしまったような気がして、なんだか地味にショックだ。
てか彼女って夜見さんだったのかよ……。
こちらはスラっとした黒髪ショートの美少女だ。面識なんか勿論ないが、学校では物静かな癖に妙に存在感があり、ニヒルな感じがかっこかわいい。
私服はパンクロックという奴なのだろうか。黒い見せブラに網みたいなスケスケのインナーを合わせ、その上から丈の短いジャケットを羽織っている。実質へそ出しファッションで、青白く見える程に白いお腹が目に眩しい。
下はテッカテカの短パンに網タイツを合わせ、トゲトゲの首輪やら茨風のチェーンをなんかを垂らしている。
かなり個性的というか、普通ならイタタになりそうなファッションだが、夜見さんのツンとしたダウナー系の雰囲気とはマッチしていて、そういう雑誌のモデルみたいに似合っていた。これが朝比奈さんの言うシナジーという奴なのだろう。
ていうかメッチャエロい。
見た感じ夜見さんはかなりのぺったんこなのだが、お尻から太ももにかけては朝比奈さんに負けずとも劣らないくらいご立派で、そのアンバランスさが物凄くエチチだった。
黒革風の短パンはパッツパツに張り詰めて、網タイツの間からパンパンに張った真っ白い太ももがムチっと浮いている。
琢磨の奴、こんなにエロ可愛い彼女が出来たなんて!
祝福する気持ちは勿論あるが、それ以上に男として差をつけられたショックや嫉妬の方がデカい。
ちくしょう、羨ましいなぁ!
「いでででで!?」
いきなり朝比奈さんに尻を抓られた。
「なにすんだよ!?」
ビックリして隣を見ると、朝比奈さんがムッとした顔で俺を睨んでいる。
「あたしと一緒にいるのに他の女の事エッチな目で見てたでしょ」
「んなぁ!? み、見てねぇし! 見るわけねぇだろ!? 友達の彼女だぞ!?」
嘘ですごめんなさいめっちゃ見てました。
でも本人&琢磨の前でそんな事言わないでほしい。
普通に恥ずかしいし気まずい。
「そんなの関係ないし! あたしにはわかるんだから!」
「誤解だって! てかなんで朝比奈さんが怒るんだよ!?」
「それは! だって……」
朝比奈さんはチラチラと夜見さんを気にするように口籠った。
「と、友達の事そういう目で見られたらイヤじゃんか!」
「ごめんなさい……」
その通りなので素直に俺は謝罪した。
俺としてはそこまで露骨に見た覚えはなかったし、見た瞬間の印象を素直に思っただけなのだが……。
「ま~ま~朝比奈さん。可愛い女子を見ちゃうのは男の習性っていうか、反射運動みたいなもんだからさぁ? 智樹も悪気があったわけじゃないし、勘弁してあげてよ」
ニヤニヤしながら割って入ると、琢磨が俺の肩に腕を回す。
くっさ!
この野郎、香水つけてやがるのか!?
「おいおいブラザー? どーいう事だよ! 俺ちゃんに内緒でこんなに可愛い彼女作りやがって! 水臭いじゃないの! いつの間に朝比奈さんとくっついたんだ? この色男!」
「いや、その……」
クラスの女子と二人っきりでショッピングだ。
琢磨が誤解するのも無理はない。
素直に違うと言う場面なのだろうが、しょうもない見栄が働いてしまった。
だって親友がこんなにエロ可愛い彼女を連れているのだ。
こっちはただの友達だなんて恥ずかしくて言い出せない。
どうしたもんかと困っていると。
「フゴッ!?」
夜見さんに股間を蹴り上げられ、琢磨がヘナヘナと崩れ落ちる。
「彼女と一緒にいるのに他の女を褒めないで」
「ご、ごめんよハニー……。もちろん君がナンバーワンさ……」
股間を押さえて悶絶しながら、琢磨は冷え冷えとした視線を向ける夜見さんにグッと親指を立てる。
「は? ナンバーワンってなに? じゃあ、夏海はナンバーツーなわけ? 彼女と他の女を同列に見ないでほしいんだけど」
「いだ!? いだいよハニー!? 勿論君は特別さ! オンリーでラブリーな俺ちゃんの金メダル! 銀メダルも胴メダルも全部ハニーだけだから!?」
ゲシゲシと蹴られながらも、嬉しそうに琢磨が弁解する。
なんだよこれ。
普通に羨ましい。
惚気やがって!
こんなんラブコメじゃねぇか!
「……ならいいけど。次からは気を付けて」
夜見さんもなんかまんざらでもない感じだし!
そんな光景に、朝比奈さんは暫く茫然としていたが。
「……じゃあ! 例の彼氏って三浦君の事だったわけ!?」
「そう。夏休み前にいきなり告白された。なんかチャラいし仲良くないから断ったんだけど、土下座して泣きつかれたから仕方なく付き合ってあげてる」
「えぇ……」
朝比奈さんはドン引きだ。
「そういうわけだブラザー! 恐れ入ったか!」
「まぁ、色んな意味で怖くはなったが。その行動力だけは尊敬するわ」
まさか彼女欲しさに土下座までするとは。
とてもじゃないが俺にはそんな真似出来ないししようとも思わない。
「はっはっは! 笑いたきゃ笑え! 巨尻の美少女レイヤー様を彼女に出来るんなら男のプライドなんかいくらでも捨ててやるぜ! ――フゴ!?」
二度目の撃チン。
「巨尻って言わないで。……これでも気にしてる」
巨大なお尻を押さえて夜見さんが赤くなる。
琢磨はミミズみたいにのたうちながら。
「バカだなハニー。恥ずかしがる事なんか一つもないぜ? 君の巨尻は最高だ! 最高の意味は知ってるよね? ハニーの巨尻に比べたらどんなボインちゃんも型なしさ。マジ最高! 好き好き大好き超愛してる!」
琢磨の言葉に嘘はない。
こいつは大の尻フェチで、その上貧乳好きのドM野郎なのだ。
そういう意味では、夜見さんはまさにドストライクの相手なのだろう。
「黙って」
「みぎゃああああああ!?」
だからどうしたという話で、夜見さんにめちゃくちゃ踏まれていたが。
本当、よくふられないなこいつ。
と思っていたら……。
「……恥ずかしいから、そういうのは二人だけの時にして」
夜見さんが赤くなってプイっとそっぽを向く。
普通に満更でもない様子だ。
クソッタレ。
リア充爆発しろ!
「にゃはははは! どうだ智樹! 俺ちゃんの彼女は可愛いだろう! それだけじゃないぜ! マイスイートハニーはなんとレイヤーな上に洒落マスターでもあるんだぜ! この頭も眉毛も服も、ぜ~んぶハニーにやって貰ったんだ! おかげで俺もこの通り、覚醒してイケメンの仲間入りよ!」
シュタッと復活すると、琢磨が自慢気に髪の毛をかき上げ、その場でくるっとターンする。
「好みじゃないって言ったらあたし好みの男になるってしつこいから改造しただけ」
ぶっきら棒に言うと、夜見さんがチラリと琢磨の横顔を見る。
「……まぁ、悪くはないかな」
恥ずかしそうに呟くと、夜見さんはすぐに目を逸らした。
つまりあれだ。
自分好みに改造した結果自分好みの見た目になってしまい好きになってしまったと?
まじで惚気も大概にしてくれ。
羨ましくて血涙が出そうだ。
「それで夏海。そいつは夏海の彼氏なわけ?」
「え!?」
朝比奈さんがギクリと固まる。
俺も否定しなかったし、夜見さんが勘違いするのも無理はない。
男避けの為、勘違いされてもいいと朝比奈さんは言っていた。
でも、この場合は例外だろう。
だって夜見さんは友達みたいだし。
朝比奈さんが度々言っていたコスプレ友達というのも夜見さんの事なのだろう。
そんな相手を誤解させる必要があるとは思えない。
俺としては琢磨に見栄を張る為に彼女のふりをして欲しい所だけど。
だからこそ、自分でちゃんと否定する事にした。
だってそんなの朝比奈さんに失礼だし、俺自身も男らしくないと思うから。
「いや、俺は―」
「そうだよ! 彼氏! 冬花ちゃんが彼氏できたって言うから、あたしも彼氏作っちゃった!」
俺の言葉を遮るように朝比奈さんが割って入った。
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