第15話
「どしたの黒田君?」
「……いや、別に」
「あ、わかったぁ! さては黒田君、女物の水着ばっかりで緊張してるんでしょ? もぉ~、本当ウブだよね~」
「は、はぁ!? なわけねぇだろ! こんなのただの布切れだし! 全然余裕だし!」
「ふ~ん? ならいいんだけどぉ~?」
強がる俺を見て朝比奈さんがニヤニヤする。
朝比奈さんの言う通り本当はメチャクチャ緊張していた。
冷静に考えたら水着なんか下着と大差ないし。
下着売り場のいるみたいで落ち着かない。
「それで、黒田君はあたしにどんな水着を選んでくれるのかにゃ~?」
「う、ぐ……」
「ねぇねぇ~。早く選んでよ~。黒田君が選んでくれた水着なら、どれでも着ちゃうよ~」
朝比奈さんは俺をからかって面白がってやがる。
もうなんでもいい!
朝比奈さんならなに着たって似合うだろ!
というわけで、俺は適当にスク水みたいな一体型の水着を選んだ。
「こ、こんなんでいいだろ!?」
「うっ。流石にそれは恥ずかしいかも……」
朝比奈さんが赤くなる。
「え? 普通のスク水タイプだろ?」
焦る俺に朝比奈さんが吹き出した。
「スク水型って! こういう上下一体型のはワンピースタイプっていうんだよ?」
「そ、そうなのか……」
「そ。その中でもコレはハイレグって奴。聞いた事ない?」
「……あるけど」
とあるソシャゲで見たことがある。
着用者の覚悟を体現する勝負服だ。
覚悟がキマっている程股間を隠す布の角度が急になっていく。
つまり、破廉恥な水着だ。
その事に思い至った瞬間俺はカチンと凍り付く。
「まぁ、黒田君がど~しても際どいハイレグ着せたいって言うんならあたしも覚悟するけどぉ~?」
「い、今のなし! 別のにしよう!」
「え~? なんで~? これはこれで可愛いじゃん? 夏は冒険の季節だって言うし? 試着だけでもしてみな~い?」
「いいって言ってんだろ! 俺はこういうの得意じゃないんだよ! 恥ずかしいからあんまりからかわないでくれ!」
「あはははは! ごめんごめん! 黒田君の反応が面白過ぎてつい! てかアレじゃん? 今のあたし、なんかオタクに優しいギャルみたいじゃん? あたしも一応ギャルの端くれだし、こういうの一回やってみたかったんだよね~!」
「勘弁してくれ……」
ツイッター漫画とかで見る分には面白いが、自分が当事者になるとかなり恥ずかしい。マジで心臓ドキドキ、脳が茹って沸騰しそうだ。
「冗談は置いといて。どんなのがいいと思う? 無理そうだったら断るし、気軽に言ってみてよ」
「無茶言うなよ……。俺は非モテの陰キャだぞ? 彼女でもない女子の水着選ぶとかハードモード過ぎるんだよ!」
「難しく考えすぎだって! 水着色々持ってるし、たまには人の選んだの着てみよっかな~くらいだから。むしろこうやってギャーギャー言いながら選ぶのが楽しいまであるし?」
「そう言われてもな……」
恥ずかしいものは恥ずかしい。
案外俺は本当に硬派というか初心なのかもしれない。
「参考までに。あたしは黒田君にこういうの着て欲しいけど?」
「ブハッ!? ふ、ふざけんな! こんなのほとんど紐じゃねぇか!?」
朝比奈さんが広げたのは言葉通りの代物だ。
紐の真ん中に拳大の巾着みたいな布がついてるだけ。
水着と呼ぶのも憚れる変態装備だ。
「あはははは! ヤバいよねコレ! おちんちんしか隠れてないし! ちょっと動いたらボロンしちゃいそう!」
「笑えねぇし! 普通に逮捕されるだろ!」
「じゃ~これは?」
「あのなぁ……」
次に朝比奈さんが選んだのは先程の物と大差ない変態水着だ。
ただしこちらは紐が片方しか存在しない。
「てかこれ、どうやって履くんだよ……」
「あんな感じ?」
朝比奈さんが男型のマネキンを指さす。
そいつの股間には、ビキニを半分にしたようなヤバい水着がくっついている。
尻なんかほとんど丸出しで、股間も根元まで露出している。
「ざっけんな!?」
「アヒャヒャヒャヒャ! いーじゃん! これ着てったら超目立つよ! 絶対優勝間違いなし!」
「むしろ反則退場不戦敗だっての!」
「あはははは! そうだけどさ! 言うだけタダじゃん? こんな感じで、テキトーに選んじゃってよ!」
どうやら朝比奈さんは俺の緊張を解す為にふざけたらしい。
……いやまぁ、半分は玩具にして遊んでるだけなんだろうが。
おかげで俺も幾分か気楽になった。
「じゃーこれ着ろよ」
「金ビキニ!? いきなりリミッター外れ過ぎじゃない!?」
「朝比奈さんがどれでもいいって言ったんだろ。それ着て二人で優勝しようぜ?」
仕返しのつもりで俺は言うのだが。
「う~ん……」
「いや冗談だから!? 本気で悩むなよ!?」
「いや一応ね? コスプレで結構際どい衣装も着た事あるし、ワンチャンいけるか脳内シミュレートしてみたんだけど……。ギリ無理かな?」
「余裕で無理だっての! 流石にそれは一緒に並ぶ俺がツレーわ!」
「じゃあナシで。次は?」
「うーむ……」
暫し考え、俺は閃く。
「普通に学校指定のスク水ってのはどうだ?」
「ヤバ! それ普通に恥ずかしいんだけど!?」
「っしゃ!」
「しゃ! じゃないし! 趣旨変わってるから! 普通に可愛い奴選んでよ!」
「そっちが始めた物語だろ!」
まぁ、イイ感じに肩の力も抜けてきたので、俺は素直に朝比奈さんに似合いそうな水着を探した。
「あー。フリルのスカートタイプね。可愛いではあるんだけど、あたし的にはちょっと物足りないって言うか、ぶっちゃけビキニがいいなって」
「だったらなんで選ばせたんだよ……」
「ごめんて! ほらあるじゃん? 人の意見聞いてる内に自分の本心に気付くみたいな奴? てかよくよく考えたらあたし今、中途半端に焼けちゃってるから、残ってるとこ焼いときたいんだよね」
「別にいいだろそのままで」
勝手な都合だが、朝比奈さんが運動中にチラリと見える白い肌がとても好きだった。
焼いてしまうなんて勿体ない。
「良くないし! コミケでコスする予定だから、半端に焼けてたら恥ずかしいじゃん!」
「え。朝比奈さんコミケでコスすんの!?」
「お祭りだからね。なにするかはまだ決めてないけど、一応そのつもり。あ、折角だし黒田君もやる?」
「やらねぇよ! てか初めてのコスプレがコミケとかハードル高すぎだろ!?」
「そう? この界隈だと結構普通だけど。あたしもデビューはコミケだし。ねーねーやろうよ~! いつもは友達と行くんだけど今年は無理そうだし。やっぱ一人は不安じゃん? 待機列とか超退屈だし。黒田君が付き合ってくれたら助かるんだけどな~? チラッチラッ」
「こっちみんな! 大体俺衣装なんか持ってねぇし!」
「大丈夫! そこはあたしがなんとかするから!」
「無理だって! 勘弁してくれ!」
「ぶぅ……。絶対楽しいのに……」
朝比奈さんには悪いが無理な物は無理だ。
俺みたいな冴えない日陰者の陰キャオタクがコスプレなんかしても笑い者になるのがオチだろう。
「それよりまずは水着だろ」
「は~い。じゃ、これとかどう?」
「いいんじゃねぇの? 知らんけど」
「適当!」
「だって! 水着だけ見たってわかんねぇよ!」
「確かにぃ? じゃ、試着しよっか」
「お、おぅ……」
そんなわけで試着室に移動するのだが。
「どう?」
「……いいんじゃねぇの?」
「いや、見てないじゃん! ちゃんと見てよ!」
「無理言うなよ! 俺は硬派だぞ!? 女子の水着姿なんかまじまじ見れるか!?」
眩しすぎてとてもじゃないが直視できない。
視界の端にチラチラと小麦色の肌が映るだけで顔がニヤケてしまいそうだ。
そんな恥ずかしい姿、とてもじゃないが朝比奈さんに見せられない。
「いいから見ろし!」
「ぬぁ!?」
朝比奈さんが俺の顔を両手で挟み、無理やり前を向かせる。
「じゃじゃ~ん! 牛柄ビキニ! 可愛くない?」
「………………ぅん」
それしか言えない。
俺からしたらビキニなんか下着姿と大差ない。
その上朝比奈さんは上は制服、下は短パンの形に白い地肌が残っている。
ムッチムチの肉体美と日焼けのコントラストにビキニが合わさったら最強どころの話じゃない。
俺の頭は一撃でノックアウトだ。
「いや、黒田君の方が可愛いとかズル過ぎない?」
「う、うるせぇ!? こういうの苦手だって言ってるだろ!?」
漫画だったら頭からシュポシュポ蒸気が出てる所だ。
少なくとも確実に顔は真っ赤になっている。
「だがそれがいい! って事で次いってみよ~!」
「まだやんのかよ!?」
結局その後も朝比奈さんのビキニ選びに付き合わされた。
夢のような時間のはずだが、正直あまり覚えていない。
今の俺にはあまりに刺激が強すぎる光景だったらしい。
「あ~楽しかった! 女子と行くのも楽しいけど、男子と買い物するのも姫プされてるみたいで気分いいね!」
「どんな感想だよ……」
まぁ、その通りではあるのだろうが。
「この後どうする? 折角だし、アイスでも食べて帰る?」
「そうだな……。頭アチーし、なんか無性に甘いものが食いてぇ……」
そんな会話をしながらブラブラ歩いていると。
「へ? 智樹?」
「……お前、琢磨か!?」
金髪になってるせいで一瞬気付かなかったが。
裏切り者の琢磨と出くわした。
隣にはダウナー系の黒髪美少女を連れてやがる。
見覚えのある顔は隣のクラスの
「
「……夏海」
どうやら朝比奈さんと名前で呼び合う関係らしい。
......これ、ちょっとまずいか?
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