第6話 8/6 微修正
ブルンブルンとダイナミックに全身を揺らしながら、朝比奈さんが足踏みをする。
連動して、ゲームのキャラがアスレチック風のステージを走っていた。
沼地や階段は速度が落ちるが、足を高く上げると早く進める。
逆走する動く床や落下する床を突破するには、素早く足を動かす必要がある。
ステージ内に置かれたコインは触れたりリングを押し込む事で発射される空気砲を当てれば取得できる。当然疲れるが、ショップでの買い物に使えるとなると無視出来ない。
他にもステージ内には空気砲を何発も当てないと壊れない岩とか、スクワットしないと開かないドアだとか、リングを上に構えて押し込んでいる間だけ進める移動ギミックだとか、様々な障害が待ち受けている。
と、言葉で説明するだけなら怠惰なゲーマーを上手く運動させる素晴らしいゲームなのだが……。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁん! はぁん! はぁん! んにぃぃぃぃ、ひぃ! ひぃ! ひぃ! っぎゅぅぅぅぅ……、んぁ、んふ、ふぁ、はぁ、はぁん、あふ、はひ、はぁああああん!」
しっとりと汗に濡れ、頬を赤く火照らせて、苦悶の表情で喘ぐ朝比奈さんはあまりにもセンシティブだった。
声だけ聴いたらエッチな事をしているようにしか思えない。
それだけでもヤバいのに、ステージ上に配置された敵とエンカウントすると謎のマッスルバトルが展開される。
こちらはシンプルなターン制バトルなんだが、攻撃するにも防御するにも一々運動を強いられる。
例えばバンザイスクワットなら足属性の高火力範囲攻撃だ。
「ふんぎぃぃぃぃぃ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ふんぎぃぃぃぃぃ……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
リングを頭上に掲げた朝比奈さんがガニ股になり、プリンとお尻を突き出しながら必死に腰を上下させる光景は、思春期の童貞にとってあまりにも刺激が強すぎる。
他にもあるぞ。
ヒップリフトは回復技なんだが……。
「ふんんんんん、んぁ! はぁ、はぁ、はぁ、ふんんんんん、んぁ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
こちらは仰向けに寝転んで、立てた膝の間にリングを挟んだまま、お尻をぐ~っと浮かす運動だ。
俺はベッドの端に座って眺めているんだが、上から見るととんでもない光景だぞ。
汗ばんだTシャツが張り付いて丈の短いランニングみたいなブラの形が丸わかりだし、そもそも股を開いた状態で腰をヘコヘコ動かしている時点で絵面がヤバい。
まだまだある。
プランクは腹属性の範囲高火力。
「はぁ、はぁ、はぁ、もうだめ、死んじゃう、ふんんんんんん! んぁ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
腕立てに似たポーズで身体を水平にし、そのままヘコヘコと腰を上げ下げする。
こんなのもはや〇ックスだろ!?
ふざけてんのか〇ンテンドー!
極めつけはアシパカパカ。
なんだよアシパカパカって!
もはや技性能なんかどうでもいい。
仰向けに寝転んで、尻だけ床に着くように上半身と下半身を軽く上げ、そのままパッカーンと両足を開く運動だ。
クラス一、学校一でも過言ではない美少女の、ボンキュッボーンのダイナマイトボディの朝比奈さんが、目の前で苦悶の大股開きだぞ!?
俺は一体何を見せられているんだ?
エロ過ぎて頭がどうにかなりそうだ。
ちなみに俺の一押しはバンザイコシフリ。
〇ザエさんのOPの最後の方のタマみたいに、バンザイしたまま左右にフリフリ腰を振る運動だ。
朝比奈さんが大きなお尻を揺らす度、半秒遅れて胸が揺れる。キラリと汗に濡れた腋が露になるのもいとおかし……。
じゃねぇよ!
このままじゃ俺の理性が持たない。
見た目や声だけでもヤバいのに、全身汗まみれになった朝比奈さんの身体からは、甘酸っぱい女の子フレーバーが駄々洩れで、さながら人間アロマディフューザーといった感じだ。
あぁ、なんだか頭がクラクラしてきた。
クーラーをつけてるから、当然窓は閉め切っている。
そのせいで、部屋の中の朝比奈さん粒子が危険な濃度に達していた。
このままじゃヤバい。
俺の本能が真っ赤になって警戒アラートを出す。
「朝比奈さん。ちょっと換気していいか……」
「え、なんで?」
ゼーゼーと息を喘ぎながら、朝比奈さんが振り向いた。
と、不意に自分の身体を見下ろして、真っ赤になって腋を閉じる。
「も、もしかしてあたし、臭ってる!? だったらごめん!? そういうの、自分じゃわかんなくて……」
臭ってるというか匂ってるんだが。
涙目になって縮こまる朝比奈さんにそんな事を言えるわけがない。
大丈夫! メッチャいい匂いだから! そうフォローしたいが、多分セクハラにしかならないだろう。
ここはどうにか、朝比奈さんを傷つけずに換気する言い訳を考えなければ。
「ちがうって! えっと、その、あれだ……。見てるだけだからさ。ちょっと寒くなってきて……」
「な~んだ! よかったぁ!」
朝比奈さんが心底ホッとした顔をする。
「だったらさ、黒田君もやってみる? 疲れちゃったし、あたしはちょっと休憩してるから。それなら窓開けないで済むでしょ?」
「いや、いいよ……」
運動なんかしたくないし。
それより換気させてくれ。
「遠慮しなくていいからさ! ていうか黒田君、普通に運動した方がいいよ! なんか話聞いてると完全に運動不足って感じだし。夏休み中ずっと動かないでいたら身体なまっちゃうよ!」
朝比奈さんは完全に休憩気分で、ペロリとTシャツの前をめくると、ウェットティッシュを突っ込んで胸の辺りを拭いている。
……いや、いくら俺の事を硬派だと思ってるにしても無防備過ぎだろ!?
危ないから、絶対他の男の前でやるなよ!?
注意したいが、それに触れるのも意識しているみたいで気恥ずかしい。
いや、実際意識はしてるんだが……。
「いや、いいって……」
「え~! やろうよやろうよ~! このゲーム普通に楽しいんだよ? やったら絶対ハマるって! 筋肉ついたら顔も引き締まるし! そしたらモテるよ? 筋肉キャラも出来るようになるし!」
「そっちが本音だろ……」
「だって! 筋肉キャラは男の子にやって欲しいんだもん! 肉襦袢着てもお尻の形とかどうしても女の子っぽくなっちゃうし! やっぱり男の子と言えば筋肉でしょ!」
「知らんがな……」
このコスプレオタクが。
頭の中コスプレの事しか入ってないのか?
とは言え、モテると言われるとちょっと興味が出てきた。
他ならぬ、S級美少女の朝比奈さんがかっこいいは作れると言っているのだ。
勿論元が元だから高望みはしないが、それでも今よりはマシになれるかもしれない。
運動嫌いの俺だって、朝比奈さんの前でなら見栄が働いて頑張れるかもしれないし。
それに俺は、〇ールデンカムイのとあるシーンを思い出していた。
有名な、ラッコ鍋の回である。
詳しい所は省略するが、あの回ではムラムラを解消する為にみんなで相撲を取っていた。
つまり運動で性欲を解消したのだ。
ならばこそ、今の俺には運動が必要なのかもしれない。
「まぁ、そこまで言うならやってみるか」
「やったー! じゃ、あたしは後ろで応援してるね」
俺と入れ替わるように朝比奈さんがベッドに座る。
いや、座んなよ!
汗だくの尻で!
イヤじゃないけど!
困るから!
後で絶対邪な気持ちになっちゃうから!
言いたいけど言えない……。
だって俺は硬派キャラという事になっているのだ。
硬派な男は一々そんな事で目くじらを立てない気がする。
いや、知らんけど。
ともあれ、朝比奈さんからレッグバンドとリング型のコントローラーを受け取るのだが。
「………………」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない……」
汗でビチョビチョ!
朝比奈さ~ん? 女の子なんだからさぁ! もうちょっと! そういうの、気を付けた方がいいと思うよ~!?
これを指摘するのは流石にちょっと気まず過ぎる。
気まずい思いをするくらいなら見て見ぬふりをするタイプの俺だった。
というわけで準備を終え、ゲームを開始する。
「えっほ、えっほ、えっほ、えっほ……」
いやきちぃ!
普通にツレー!
わかってたけど、予想の十倍キツイんだが!?
「ふん~~~~~~! ふぁ……、はぁ、はぁ、はぁ、ふん~~~~~! んぐ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ダメだ。
なりふり構ってる余裕なんかない。
普通に喘ぐ。
変な声が声が出てしまう。
でも気持ち良い……。
いや、勘違いしないでくれ。
センシティブな声が出る事じゃない。
普通に運動がだ。
だってこれゲームだし。
普通に楽しい。
頑張ったらその分ちゃんと報われて、経験値やコインが手に入る。
運動で敵を攻撃した時に振動するコントローラーの手応え、攻防の駆け引きも熱い。
強い技を出せば簡単に倒せるけどその分疲れる。
属性の概念もあるし、得意な技でも同じ部位ばかり酷使しているとやっぱり疲れる。
ある意味これはMPなのだろう。
体力という名のマッスルポイントを管理して、上手く疲労を全身に分散させて効率よく敵を倒すゲームだ。
そう考えるとなかなか戦略性がある。
気が付けば、俺はゼーゼー喘ぎながらこのゲームの虜になっていた。
多分明日には凄まじい筋肉痛に襲われるのだろうが、その分だけ筋肉が成長すると思えば苦ではない。
それこそリアルレベルアップという奴だ。
流石は俺達の〇ンテンドー。
恐ろしいゲームを作りやがる。
なんて思っていると、不意に俺はゾワっとした。
バンザイコシフリのポーズのまま、くるりと後ろを振り返る。
朝比奈さんが目をかっぴらき、食い入るようにして俺の尻を凝視していた。
「……えーと、朝比奈さん?」
「はっ!? ご、ごめん! つい見惚れちゃって……」
「見惚れるって、マジかよ……」
ドン引きというよりは、俺なんかに? という困惑が強かったのだが。
朝比奈さんは前者だと思ったらしい。
真っ赤になって言い訳をする。
「だってこのゲーム!? なんかはた目に見てるとなんかエッチなんだもん!?」
内心で、俺も激しく同意した。
そんなこんなで、その日は朝比奈さんと運動したり、アニメを見ながらぐったりして過ごした。
朝比奈さんが帰った後も、部屋の中には朝比奈さんの気配が残り続けた。
染みついていたと言ってもいいかもしれない。
ベッドにうつ伏せになってウトウトしていると、朝比奈さんを抱きしめているような感覚に襲われた。
それで俺は、朝比奈さんが汗だくの尻でこの辺に座っていた事を思い出し、ドキッとして飛び起きた。
こんなの、間接ヒップだ。
なんだそりゃって感じだが、実際そうなのだから仕方ない。
生憎明日は休日だ。
親がいるから朝比奈さんは呼べない。
でもそれ以外は、ほとんど家に来るのだろう。
その事を考えると、俺の頬はだらしなくなってしまう。
そして母親が帰宅する。
俺は何食わぬ顔をして平静を装う。
まさか、同級生のギャルを部屋に連れ込んでいるなんて言えるわけがない。
コンコンと、母親が扉をノックする。
「なに?」
「智樹。あんた、女の子連れ込んでるでしょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。