3話 とある国の王様選定編 ニ

 森林ではない、焼けた跡地を神代行人らは車に乗って移動している。


「道案内いらないんじゃないか?」


「それは半日くらいはこの風景ですよ」


「はぁ……なんかBGMでもかけるか……見飽きる風景を永遠見るのは無理だ」


 ドライブが嫌なわけではない。だが、ずっと焼け野原を視界に入れたくはない。この神の体になる前から、よく見ていた光景だからだ。俺はゆったりとしたBGMを魔法でかけては運転へ集中した。運転と言っても、ハンドルの制御を魔法で調整しているだけのことだが、意外に集中力がいるので、静かにしてもらいたいんだが、まぁ、そんな願いはこの個性が強めな三人らによって断たれる。


「神様、その陰湿執事より、私を隣に乗せてくださいよ〜!」


「駄目に決まってるだろ! お前はどうせ良からぬことを考えるに決まってる。あぁ、俺に何かしらの魔法で拘束しておいてやろうか?」 


車のミラー越しで、彼女の顔を覗き込んでは、睨むと、何やら効いた様子で、肩身を狭くして、大人しくなる。が、続けて、ビントが俺を勧誘してくる。


「やっぱり神様は強い。俺と筋肉を鍛えないか!」


「そういう暑苦しいのはいい」


「ええ〜? ここまで勧誘してくれるんですから、やってみたらどうです?」


 隙間をひょいと埋めるような発言を隣のリゼスから出されては、流石の俺もキレる。


「調子に乗るな。お前もアイツも俺の手中の中だと言うことを忘れてるのか?」


「だとしても、が駄目なら、剣術は受けてくれよ?」


「そっちはまぁ、致し方ないが……」


 彼は喜んだ顔をしているので、これでもう何も言わないだろう、俺は一安心した。そして、俺が神だということを今更ながら実感したときに、ミスしたとわかってしまう。


「俺の魔法で、スピード的なのを出せば、こんな焼け野原、すぐ抜けるんじゃないのか?」


「まぁ……それはそうでしょうね? 何事も早くのでしたらですが……」


「当たり前だろうが!」


 俺は魔法を使い、高速で移動する手段を得た。そして、三人と自分を酔わないように、と配慮した魔法も唱えた。


「スピスタ、デウェ」


 もはや、ジェットコースターか、新幹線に乗っている気分並みに、高速移動する。周りの焼け野原もどうなっているのか、不明なくらいに見えにくくなった。


「これはなんだか……」


 リゼスがボソリと呟いた瞬間、後ろの二人がはしゃぎ出す。


「凄いー! 流石、私の愛しの神様だわ!!」


「神様はこんな凄い魔法も使えてしまうのか!!」


 うるさい!!!! 俺はもう手段を選ばずに魔法で耳栓を作成した。リゼスはそれに唯一気付き、ククッと声を抑えて笑っている為、何かの魔法で、拳骨を落とそうかと考えたが、そのために魔法を使うのは勿体無く感じたので、やめた。


 俺はまたミスをした。声は聞こえないと言うことは、BGMと言うのに気付くのに一分程時間がかかって、ようやくく耳栓を外した。


「はぁ……」


 ミスをしまくる自分に腹が立つせいか、大きな溜息を吐いた。


「そんなことにも気付かなかったんですね? 神様は失敗は許されませんよ」


 隣から真剣な声と目付きでリゼスが俺をとがめてくるので、俺は頷いた。それはそうだ。神様がこんな調子であっては世界は救えない。俺は自分を責める代わりに、しっかりしろと、片手で拳を作り、胸を軽く叩いた。


「ところで……高速移動したはいいものの、真っ直ぐでいいんだよな……?」


「その内、城に激突とかしそうですね」


「は? 建物壊すのは駄目だろう!! それを早く言え!!」


 リゼスは意地悪い奴だと思っていたが、とんだ野郎だと理解した。俺は高速移動と、酔わないようにした魔法を解除したが、まだ焼け野原だった。ホッとしたように、胸を撫で下ろせば、何やら戦闘の予感が、脳に何かしらの魔法で伝わってきた。


「すまないが、戦闘だ。リゼスはこの車にいろ! あとの二人は戦闘準備だ!」


 俺は車を止めて、ドアを開ければ、見覚えのある魔物に囲まれていた。


「はぁい! 神様と愛の共同作業ね!!」


「漸くこの斧を使うときが来たか!」


 二人とも何やら頼もしそうにしているが、口から出る言葉は相変わらずで、吐き気がしてくる。リゼスを守るために、バリアの魔法を唱える。


「ディルファンス」


 強固なバリアな為、そう簡単には砕かれはしない。俺は元騎士な所為せいか、剣を魔法で出し、構えた。そして、元騎士のときは明らかに違うのは魔剣になるということだ。


 魔物だから、光に弱いはずと、光属性の剣に変化させた。これなら、聖剣にもなり得る。と言うより、神は


「これを一振りするだけで──」


 光の剣撃が魔物に直撃し、一振りにいた魔物たちは即死した。そして、何故か、粉々になる。こういうときは遺体が残るものじゃないのか、と俺は推測した。


「ラニグ!!」


 そう唱えたのはアイシアで、光魔法の一種で、巨大な光魔法が魔物たちの頭付近まで近づき、爆発するような、おっかない魔法だった。そして、一撃でたくさん倒せたせいか、アイシアは俺を意識しているせいで、俺をチラ見してはピースしてくる。


 俺はすぐに視線を魔物に戻し、続けて光魔法を使用する。対して、ビントは大きな斧を振り回していた。


「おらぁぁぁぁ!!!!」

 

 俺はそれでは少ししか倒せないと判断し、こっそり、光属性を付与すれば、その振り回しで、たくさんの魔物が消滅していた。一息付くかのように、振り回すのをやめて、周りを見渡しているビントは「よし!」と己を鼓舞こぶするように言えば、拳をぐっと握って倒したことを噛み締めている。


 ただ、こう、分けて戦っていても、時間がかかると思い至った為、俺は目を閉じて、一瞬で片付く魔法は無いだろうか、と考えた。


閃光弾せんこうだん的なのが、コイツらには効くのか?」


 俺はどうなのか、不明な為、バリア側にいるリゼスにテレパシーで尋ねた。


『コイツらには閃光弾が効くと思うか?』


『おやおや、私にテレパシーなんて……まぁ、推測ではありますが、効くとは思いますよ』


 バリア越しから、ニヤけた顔をしているリゼスにムカつきながら、俺は閃光弾を生成したが、普通のサイズではなく、爆弾並みな、大きな閃光弾を。その閃光弾を魔法で、良い位置にセットする。


「おい!! アイシア、ビント! 車に乗れ! 俺のとっておきで、根絶やしにする!」


 二人に大きな声で、伝えれば、彼らはおのれの戦闘欲に溺れることなく、頷き、俺らは車へと乗り込んだ。


「ナイスアイデアですね、神様」


「簡潔に終わらせるのが、俺の役目でもある。化物共、さようならだ」


 そして、閃光弾を使うということは、耳栓が必要な為、それを4人分作った。


「お前ら、目を閉じろ!」


 全員、目を閉じたのを確認して、俺も目を閉じ、ひと呼吸した後、俺の指パッチンの合図で、閃光弾は放たれる。


 ──キーンとした音と共に、周りに大勢いた魔物は一瞬にして消え去った。


「もう目を開けろ、魔物は消えた」


「神様凄い!!」


「流石です!!」


「これくらいはやってもらわないと困ります」


 バカの二人は拍手して、俺を褒めようとするが、リゼスだけは辛辣しんらつだった。だが、まぁ、俺からしたら、辛辣の方が身を引き締めれるから、バカ二人よりは良いとは思える。


「魔物はまだいるかもしれないからな、気を付けろよ」


「私達なら大丈夫ですって! 神のご加護がありますからね!!」


 ドヤ顔をしているアイシアに誰も突っ込んだりはしなかったせいか、しゅんとへこんだ様子に、リゼスがテレパシーを使ってくる。


『そういうところですよ! アイシアは士気を高めようとしてくれてるんです! こういうときは貴方が反応しないと!』


『分かってるが、あんなドヤ顔されたら、誰だって、無反応になるだろ』


 リゼスは俺にかつを入れるように、肩を強めに叩いてきた。痛そうな顔をし、嫌々ではあるものの、俺は口を開く。


「あー……俺たち四人なら、魔物なんて、どうってことない。羽虫と同然だ」


 偉そう極まりないな言語のせいか、今度は俺が凹むと言うより、苛立いらだちが込み上げてきそうになるが、アイシアは言葉を続けるように言う。


「ええそうよ、私達こそ最強ですもの!」


「そうだな、神も俺も筋肉が何せ……」


 流石のビントの発言には抵抗がある故、俺は魔法を使い、拳骨を落とした。彼は周りをキョロキョロして、犯人はアイシアなのではないか、と彼女を睨んでいる。


「俺が落とした、文句はないだろ」


「ハハハッ、やっぱり神様もこの二人となのでは?」


 リゼスは揶揄からかうように俺を見て口にしているので、またも魔法で拳骨を落とす。


、神様だって言うことを忘れるな、口をつつしめ」


「まぁそれはそうですね、だそうですよ、ビント」


「は、はい……」


 怒られて落ち込んでいるビントを他所に、私は? 私は? と期待の眼差しが後ろから漂っているのを感じて寒気がする。


「……フォローは助かった……それだけだ」


 俺は渋々、そのことだけは口にすれば、彼女は舞い上がっているので、拳骨ではなく、頭に軽いチョップをお見舞いした。だが、それさえも彼女にとっては至福になろうとしているといるのを察した魔法によって……。


「いい加減にしろ、俺は神様の代行人をしているだけで、お前には一切興味がない」


 突き放すような言い方をするものの、彼女は諦める精神といったものが、欠如しているせいか、魔法で探るが、効果無し。


「いいえ、絶対に振り向かせますから!!」


「諦めるのは神様の方では?」


「そうだ、そうだ」


 明らかにここで、深く頷く段じゃないだろ、と俺はビントにまた拳骨を落とした。痛そうにしているビントの声が聞こえれば、ざまあみろと言わんばかりに俺は鼻息を立てる。そんなことをしているせいか、リゼスには笑われてしまっているが、止めるのは諦めた。コイツは更なる言葉を重ねて言い返しそうだからだ。


「神様だって、恋はするとは思いますけどね! 今はそういう気持ちが芽生えてないだけですよ!!」


 後ろから鼻息が聞こえてきては悪寒おかんが走ったので、逃げるように車を走らせた。高速移動は使わずとも、フルスピードで走らせた。まぁ、何かが目の前にあったら交通事故を起こしそうではあるが、半日はかけたくない。


「あ、ガソリンとかの確認しました?」


「あ……今するから大丈夫だ!」


 リゼスに忘れていたことを突かれて、ギクリとするが、さっと魔法でガソリンを注入した。勿論、満タンでだ。流石のフルスピードで行くせいか、まだかなり遠いが、城らしきものが見えたきた。


「あれじゃないか? シェルバード王国ってのは」


 俺は目の前に見える城を指差せば、リゼスはコクリと頷いた。


「ええ、あれがそうですけど、何やらまた魔物が居そうですね……何せ、雲行き怪しくありません?」


 彼の言う通り、空が何やら闇のように黒く染まっていて、雷や大雨のような荒れた天気の予感がする。きっとこれは良くないことが起こった証拠でもありそうだ。


「その前に……お前らは腹ごしらえでもしてろ」


 俺は魔法で、塩パンと小さめの紙パックの牛乳を召喚し、三人に配った。


「頂きます……」


 手を合わせては俺は塩パンを頬張った。すると、リゼスが耳にさわるようなことを言う。


「塩分とカルシウムですか」


 もぐもぐとよく噛んでから飲み込んでは不服そうなリゼスに顔を少しだけ近付ける。


「文句あるのか?」


「いいえ、腹ごしらえは大切ですから、頂きます」


「「頂きます」」


 リゼスに合わせて、後ろの二人も手を合わせては食べ始めるので、流石の俺も何も言わずに紙パックの閉じた部分を開けて、牛乳を飲んだ。


「腹ごしらえしたら、きっとすぐにまた戦闘だな。見ろ、さっきとは比べものにならない化物がいるぞ」


 先程の魔物は見たことのある魔物だったが、少し先に見えている魔物は中くらいと、大きな、羽の生えた飛べる魔物のようで、魔法攻撃が有効そうだった。リゼスとビントは車に残ってもらうのがいいだろうと判断した。


「それじゃあ、私と神様の出番って感じでしょ! よーし! 頑張っちゃうぞー!」


 塩パンと牛乳を食べて飲み終わって元気がみなぎっている様子のアイシアに俺は愕然がくぜんとしてしまう。どんだけなんだよ、俺は頭がとても痛くなりそうだったが、今回は諦めるしかない。戦闘できるのはだけ、と自分に言い聞かせて、彼女のことは気にしないようにと暗示をかける。


「戦闘前に一つだけいいですか?」


「なんだよ……」


 急に挙手するリゼスに複雑そうな目で見れば、彼は首を傾げながら聞いてくる。


「塩パンは何となく分かるんですけど、何です? この紙パック式の牛乳は?」


「神様が効率的なのはこれだと、出してくるんだ。俺が選んでるわけじゃない」


「なるほど……そういうことだったんですね〜! 本物のだったんですね!」


 何やら俺が不能だと言わんばかりの言い方に、俺はしゃくさわったので、顔を背けた。


「本物の神様と、代行とは差があるので、そこで拗ねたりしない方がいいですよ?」


 グサリと棘が胸に刺さる感覚に襲われて、目を背けるのをやめた。目線を返せば、リゼスは「上出来です」と、先程、褒めなかったのを根に持つように微笑みながら褒めてくる。嫌な奴だ。


「おい、魔物が近付いてきてないか?」


 そんなくだらないやり取りをしている中、ビントが口を開いて、フロントガラス越しの前を指で差す。


「おいおい、冗談だろ……」


 殺意高めの飛べる魔物たちはいつの間にやら、車が走る道より広く飛んでいて、口が開きっぱなしになるくらいの驚愕きょうがくな光景だった。


「流石にバリア壊されたり……」


「それはない。魔力は無限大の神様のバリアはそんな容易くは壊されたりしない」


 最早、この段階からバリアを張ろうと、魔法を唱える。


「ディルファンス」


 強固なバリアが車を覆いながら、ハイスピードで走る。この車のスピードにはおとるが、それなりのスピードで、俺らを殺そうとする魔物たちが飛んでくる。


「アイシア、俺の合図で外に出て、さっき使ってた魔法を唱えろ!」


「分かりました、神様!」


 彼女のギラギラした目付きに俺は一瞬怯むが、彼女より脅威なのは、目の前の魔物だ! と、視線を前方へと注視させる。


 ジワジワと、魔物たちに近づいていて、そろそろぶつかるくらいになって、俺は叫ぶ。


「アイシア!!」


「はい!! ラニグ!!」


 俺の合図と共に、車から降りて、彼女は先程の魔物に食らわせた魔法を唱えると、それなりの範囲で魔物たちは消滅するために、警戒したのか、魔物たちは鳴き声を出し始める。それが耳に障るため、俺は閃光弾を生成して、五個程度を投げては両耳を両指で塞ぐ。


「これでもキリがないな……」


「エクカリバー的なの神様ないんですか!?」


 アイシアは魔法を連撃しながら、俺に尋ねてくる。周りにはたくさんの魔物たちが飛んでいるため、俺の周りに遅延魔法をかけた。これで、気にしなくていいと、ダメ元で、本物の神様に問い掛ける。すると、言葉での返答はなく、剣が現れる。紛れもない聖剣、エクスカリバーが手元にあるのが分かれば、身震いしてしまう。


の神様が召喚したから、使ってやるさ」


 アイシアは俺を見てはニコニコしているのが気色悪いが、もうこれは慣れるしかないと思いながら、聖剣を両手で握り、上へと掲げる。


「こういうときって、なんか必殺技っぽく言わないといけなかったり……」


 遅延魔法効果で、アイシアや車に乗っている二人も遅延している為、自分でどうにか、考えるしか無く、ヤケクソのように必殺技を叫ぶことにした。


「エクス……、カリバー!!!!」


 わざとのように、必殺技の言葉を、溜め込んで、俺は一刀両断するかのように、剣を振り下ろすと、光のビームのような魔法が広範囲に撃たれた。


「俺には必殺技なんて似合わないな……」


 頭を掻きながら、我ながらに恥ずかしそうにしていれば、アイシアは俺めがけて一直線に走っては、抱きついてきた。


「神様〜!!!!」


「おい、離れろ!! まだ戦闘中だ!!」


 魔法を使い、離させると、不服そうな顔をされるも、今のタイミングで抱き着くのは良くないと、身体を背けては上を見る。まだまだ残っている魔物がいる為、片付けようとした時、俺は危険を察知した為、アイシアに魔法をかけて、しゃがませた。


「シャインチップ……」


 少し遠いところから、魔法を唱える男の声がし、指パッチンの音も響けば、光の魔法によって、魔物たちを弾くように、残っていた全ての魔物たちが、消滅していくのを確認した。


「誰だ……?」


 俺は恐る恐る魔法を使った男の元へと歩いていく。


「私も行く!」


「来るな! 俺だけでいい。お前は俺とは違ってだろ?」


 アイシアは図星を突かれてはしゃがみ込んだまま、確認が取れるのを待っているため、俺は小走りで、近付けば、神様の力により、この男が、だと言うことが分かったのだった。


 






 











 













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