2話 とある国の王様選定編 一

 睡眠薬から俺や、他の三人が起きた時に、脳内に神様から告げられる言葉が流れてくる。


 ──次はシェルバード王国の王様候補を探し出し、その国の王様になるように説得するのだ


 俺はリゼス、アイシア、ビントの目を見て、先程の告げられた言葉を理解するが、中々にハードルの高いミッションだなと感じる。その王様候補は自分が王様になる気が無いから、俺がその手伝いをしないと、何となく察してしまうからだ。


「中々ハードですねぇ、それにその国は少しだけ遠いので、早く出立しないといけませんし」


 リゼスが口を開けば、アイシアやビントは椅子から立ち上がり、欠伸をし、何やら自分の部屋に行く。椅子から立ち上がらない俺に、リゼスは頭をポンポンと軽く叩く。


「行きますよ、神様が動かないと行けないの分かってますか?」


「そんなことは分かってるが……テレポートすればいいだろう?」


 はぁ、と大きな溜息を俺の前で吐くリゼスに「何がおかしい?」と、しかめ面をした。


「確かにそうかもしれませんが、拠点はここから、その国近くになるんです。なので、準備しているんですよ」


「これごと動かせないだろうか……」


「何言ってるんです、悪目立ちするに決まってるんじゃないですか!」


 眼鏡をクイッと上げながら、怒るリゼスに俺は軽く肩をすくめた。支度したくが終えたのか、勢い良くアイシアは飛び出してきて、椅子に座った俺の背後にクルクルとバレエのように回って着地して来た。嫌な予感がしたのか、リゼスは俺の元から少し離れた。


「神様、おはようございます! 今日から旅の始まりですね〜! その間に私と夜の……」


 俺はもはや女だからと言う手加減を彼女に加えることはやめたので、彼女の脇腹にパンチをお見舞いした。


「ん゙っ!!」


「俺を見くびるな、女だからってメイドなんだから、手加減するか、ましてや、魔法も使える女なんかにな」


 痛そうにしてうずくまるアイシアだったが、すぐに治癒魔法をかけて、俺の元に近付いてくるので、このような呪文を唱えた。


「アイシアは俺の三メートル以内しか来てはならない」


 ニヤついた顔を彼女に向ければ、アイシアはぐぬぬ! と悔しそうな顔をして、魔法効果で三メートルほど離れた。リゼスは感動したのか、なんなのか、不明だが、拍手している。


 また勢い良く左奥の扉が開いた。片手に大きく重そうな斧を持ったビントだ。またコイツも余計なことを俺にするのではないだろうか、と警戒するように構えたが、彼は違った。早く、冒険に出たくて、ウズウズしている様子だった。


「神様、早く出立しないか? もしかしたら、シェルバード王国にまだ魔物がいるかもしれないぞ!」


「やれやれ……もう滅びた後なんですから、それは無いかと思いますが……」


「いいや、俺の勘だ。まだ魔物はいるはすだ!」


 一体全体、何処からそんな自信があるんだか、俺は出立の為に、椅子から立ち上がった。


「リゼスは準備しなくていいのか?」


「私ですか? まぁ、貴方という存在を知ってから準備は終わっているので、バックをあのキッチンの下の引き出しから、取ってくるだけで大丈夫です」


 用意周到。やっぱりコイツだけがまともに、どうにも思えてしまうが、コイツも何かのネジが外れているのだろう。すぐに彼はキッチン下に行き、しゃがみ込み、黒いバックを取り出して、立ち上がってはニコリとコチラに取りましたとでも言わんばかりの顔を向けてはテーブルの方に歩く。


 リゼスがバックを取り出したのを確認すれば、俺はキッチンの冷蔵庫に歩いて、冷蔵庫の扉を開けて、中にあった麦茶を取り出し、自らの魔法で割れないコップを作り出し、それに麦茶を入れては氷魔法で、氷を生成して、ポチャンとコップに入った。

 

「便利ですね、魔法っていうのは」


「私も魔法使えるもん!」


 三メートルも離したせいか、頬を大きく膨らませて、ジッと俺をアイシアは見てくる。コップに注いだ麦茶を俺は一気にゴクゴクと喉を鳴らして飲んではすぐにキッチンで水魔法を使い、洗って、風魔法で乾かし、コップを並べている棚に瞬間移動魔法をかけて、置いて並べた。


「で、シェルバード王国と言うのはどの辺だ?」


「この森から、一日かけたくらいのところにあるくらいですかね……森が広くて、そんなにかかるんですよ」


 ニコリとリゼスは笑って言うが、俺からしたら一日もかかるなんて思っても見なかった為、頭が痛くなる。


「それと、神様は車を生成してもらいたいんですよねぇ……四人乗りのを」


「斧は乗るだろうか……?」


「それは乗りませんので、神様の力で、仕舞ってもらいましょう」


 車に、仕舞える何か、注文が多いことだ。だが、これから先、俺はたくさん誰かに頼られるし、頼まれる。イヤイヤしていたら、らちが明かなくなるだろう、俺は足を動かして、玄関まで歩き、外に出れば、頭の中で、4人乗りの荷物も乗せれる車を生成する。色は目立つまいと、黒にした。


 そして、そこでハッとした。車に乗るということは三メートル範囲内にアイシアも乗るということ。俺は頭を抱えた。


「おや、どうしました?」


 背後からリゼスが声をかけてくる為、俺は苦笑いを彼に見せた。


「あー……アイシアですね……」


 やっぱり彼は俺の心を読む魔法でもかけられているのではないだろうか、と思えるくらい以心伝心できていて、気持ち悪い。


 俺は仕方ないと覚悟するように、彼女にかけた魔法を解いた瞬間、彼女はドタバタと足音を出して、リゼスを押し倒して、俺に抱きついてくる。


「神様〜!! やっぱり、結婚しましょう!!」


「うるさい、投げ飛ばすぞ、お前は後方座席に座れ。道案内はリゼスだろうからな」


 押し倒されたリゼスは痛そうにしながら、砂が付いた部分を振り落としながら、立ち上がり、頷く。


「ええ、私が道案内なので、アイシアは後方座席ですね。助手席は私です」


「何それ、リゼスのケチ!! こんな筋肉変態と同じなんて最悪!」


「そんなに嫌がるなよ、女に興味は無いからな俺は」


「そういうことじゃないわ!!」


 と言いながら、乗るまでの間、俺のエキスでも摂取していたいのような感じで、アイシアはぎゅうと抱きついたままだ。


 そして、ビントが持っている斧が目に入ったので、俺は浮かせる魔法を使い、彼の斧を自分に引き寄せ、魔法のリュックを作り、その中へと斧を仕舞った。


「ビント、これで、持っていける」


「なんと! 流石は神だ!!」


 リュックはちゃんと、彼の筋肉量に合わせたものにしているので、ちぎれるようなことは起きない設計にした。


「シェルバード王国に行くぞ」


「ええ!」


「はい!!」


「おう!!」


 俺は運転席へと足を向かせて、乗り込む。そして、助手席にリゼス、後方座席のリゼス側にビント、俺の後ろは無論、アイシアだった。背後から怖いくらいの視線を感じる為、背筋が凍えそうだった。


 俺ら、神代行人がシェルバード王国に向かっている頃、シェルバード王国は……。


 ✧


 「すみません! ライト王子、前衛突破されました……残すのは私達、最終部隊だけとなりました……」

 

 申し訳無さそうな顔をした部下が、頭を下げてくる。それはもう仕方の無いことだ。良く、世界の破滅に戦ってきたと思う。生き残れたと思う。僕は彼の頭を撫でて、肩を強く叩く。


「いいんだ。それだけ、この魔物たちは強くて、僕達だけでは歯が立たない。最期まで戦い抜こう」

 

 ──彼の名はライト・シェルバード。

 彼の容姿は、白みがかった金髪に、名前の通りの何も混ざらない白い瞳、そして、この国の象徴の月の紋章を刺繍した王族だけの服をまとっている。靴は戦闘向きの攻撃速度を高めた紺色の革靴を履いている。


「僕に続け! 最期まで、この国の為に戦おう!!」


「兄上、私も手伝います」


 彼はシャイン・シェルバード。同じく白みがかった金髪。そして、兄にはないオッドアイで、左目が兄と同じ白い瞳、右目は紺色の瞳。それから、同じ王族の服を着ていて、兄とは色違いの攻撃速度の高い黒い革靴を履いている。シャインは背は兄より少し高い。兄は百八〇だが、弟は百八十三センチだ。


 兄は優しい眼の形をしているが、弟は鋭いような眼の形をしていて、似ているところは髪の色くらいだった。


 王様と王妃は、魔王と悪魔の手により、連れ去られて、死亡したのを使い魔によって確認していて、残すは王子二人と妹のみ。


 妹はフルート・シェルバード。妹は兄たちと違い、白みのある金髪ではなく、ちゃんとした金髪で、瞳は黄緑色で、月をイメージした紺色と、紋章を刺繍ししゅうしたドレスを着ている。兄たちの守りによって、王室に引き篭もっている。


 王族の間にいる妹を守衛するように、ライトとシャインは腰に付けていた鞘を抜いて、構える。


「フルートを護るぞ!!」


 僕は弟より先に一歩前に踏み出して、化物と対峙たいじする。化物は空を飛ぶ、異様な臭いを放つ、もう嫌だ、戦いたくない、と内心、弱気になってしまう自分がいる。でも、王様亡き今、僕しかいない。シェルバード王国を守れる者は、指揮をできる者は僕だ。

 

「兄上、無理しなくていいです! 私がやります!」


「いいや、駄目だ。お前も守らないと!」


「兄上! 私のことなんか構わなくていいんです! 死んでいいのは私なんです!」


 化物なんかに構ってる暇なんかない。僕より頭が良く、自信もある弟のこの発言を撤回させなくては! 僕は化物に魔法を唱える。何が効くかは分かっている。光魔法だ。生憎、シェルバード王国の主となる魔法は光魔法。彼等は光に弱い。


「死んでいいなんて二度と言うな!!」


 僕は光を纏った剣で化物を斬っては弟の方を見て、怒った言葉を伝えるが、弟は絶望をしている顔をして、言葉にならない様子で、口をパクパクと動かして、ゆっくりと涙を流している。その顔で自分の状態を悟った。


「あ゙ぁぁぁぁ!!」


 痛みが来た。激痛が来た。骨折したときよりも倍近くの痛みが襲った。僕のお腹が大きく開いていたんだ。そして、弟の方に身体を向かせたまま、バタリと頭から倒れた。地面は固いコンクリートで、たんこぶが出来たよな、はは、笑える。僕は口から嫌なくらいの血の量を吐いた。


「グハッ……!」


 視界はぼやけてくる。そんな中、シャインらしき影が近寄って来て、いつもは見せないポーカーフェイスの顔が涙で濡れているような気がした。もう手も何も動かせない。握れない。あぁ、シャイン、僕のことなんか構わず、王様になってくれ……僕よりお前が相応ふさわしい。だって、小心者の僕よりも、シャインの方がいいと言う部下たちが多いんだから……。


 シャインが泣きながら、ライトの片手を握り締めた時にはもう目は閉じていた。


「早く医者を!! 兄上こそ、この国の王様に相応しいんだ! 私ではないんだ! だから!!」


 部下たちは動揺しながら、動こうとしたが、足が止まった。いや、違う。殺されたのだ。そう言えば、兄が倒れる前から、魔物の気配がしなかったのはそのせいだと分かった。


「いやはや、滑稽こっけい、滑稽」


 上を見上げれば、見たこともないおぞましい魔力を持った男がライトとシャインの前にいた。


 黒い長髪に赤い眼光、髪の上には角らしきものが生えていて、黒いマントに、黒いスーツを身に纏っていた。


「シェルバード王国はもう滅びたと思ったんですが、王子がいるとは……。あぁ、お前は無能だから、殺さずしてやる。だから、お前の大事な大事なは何処だ?」


 低い声と、威圧感のある眼差しに、シャインは今までにない程に、動けなかった。兄の敵を討とうと思ってはいても、身体は固まっていた。


「はぁ、これだから、無能は。やはり、兄の方が勇敢だったのだな? フルートはお前の後ろにいるんだろう?」


 固まりながらも、その一つ一つの言葉に反応してしまう。バレてはいけなかった。いつものポーカーフェイスをしなければいけなかった。威圧感のある男は見下すように笑った。


「ハハハッ、無能はつくづく終わっている。これだから、人間と言うのは面白いものだな?」


 カツカツとヒールのような音を立てながら、シャインに近づいては男は足で蹴り飛ばした。


「失せろ、絶望しろ。この魔王の前にひれ伏せ」


 蹴り飛ばされた痛みが襲ってくる。愛する家族を守れない、助けられない。涙はいつの間にか流れなくなった。己の弱さで感情が壊れたのだ。


 男は王族の間の扉を魔法を使い、開けた。


「お前か、フルートは?」


 首の音を鳴らし、ニヤリと不気味な笑みを浮かべれば、スーツのポケットから用意していたハンドガンを片手で持ち、怯えた表情のフルートの額に標準を合わせて、撃ち殺した。


「ミッションコンプリート」


 銃をポケットに入れて、男は瞬間移動の魔法を使い、消えた。


 撃った音が、シャインの耳に響けば、コンクリートの床に両手で叩く、何度も何度も。痛みが出てきて、血が流れようとも、気が済むまでシャインは叩いたのだった。


 ──これがシェルバード王国の末路だった。







 


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