1話 神の信仰者たち

 俺は目を覚ますと、森だったはずの焼けた地面に寝ていた。火はまだ鎮火ちんかできておらず、周りは炎に包まれていた。空を見れば、太陽がギラギラと光っていたので、まだ夜ではなく、朝か昼間だろうと推測した。すると、神がテレパシーを使って俺に伝えてくる。


「神の力を使い、この国を建て直し、王様の人材を見つけるのだ。それと、お前には下僕となる存在を何人か用意した。この森の先にある建物に居るから行くといい。では、この最初の責務を果たすように」


 言いたいことだけを一気に俺に伝えては消えた。俺は起き上がり、自分の身にまとう服にハッとする。あのときまでは軍服を着ていたのに、いつの間にやら、貴族や王族が着るような洒落しゃれた服になっていたからだ。髪の色に合わせるように、濃い紫の服に、黒いブーツだった。


「これだと、魔王や、悪魔に見えやしないか……?」


 そう思いながら、まずは神の力を借りて、この周りの熱く燃え上がる炎を消さないと先には進まないと、消すイメージを頭に描きながら、大量の水を宇宙へと放った。まだ力が制御しきれないのか、俺は反動で、地面に叩きつけられた。


 痛みはある。神と近い存在なのに。神もそこまで、優しくはないようだ、と眉間にしわを寄せて、地面の砂を睨みながら、起き上がるも、すぐに自分で放った大量の土砂降りの雨に身体を濡らしてしまう。まだこの神の力には慣れそうにない。


 濡れた髪を犬のように、首を速く、左右に動かした。はぁ、と大きな溜息を吐いては頭に浮かんでくる魔法を口にする。


「ワス」


 水が蒸発を始め、すぐに乾いた。いつもはタオルで乾かしていた為、魔法は大変便利なのだ、と気付かされた。騎士ではあるものの、魔法を持たない貴族の生まれだった為、余計にだ。魔法を扱えるのは王族か、極稀に貴族、と言うほど、貴重だった。


 俺は神の言葉を思い出し、前へと歩き出した。この先に自分が住むであろう建物があると言う……もしや、城のように大きいのだろうか……、と期待しながら歩いたのがバカだった。そうだ、神は神らしかぬ待遇で、俺をこの国へと運ばせたのだ。


 歩いた先に見えたのは少しボロい一戸建ての家だった。俺は心底、神はケチだと思った。少しくらい良い家に住まわせてくれたっていいだろうに、一応、貴族だった身なのだが……。まぁ、期待するな、が、今後先に待っていそうだと、考えながら、家へと歩み寄る。


 すると、ガチャリと扉が開いたので、思わず、身構える。


「ヤダなぁ、大丈夫ですよ、貴方のことを首を長ーくして待っていたんですから」


 執事の格好をした白髪ロングで、瞳は青紫色の、俺より背の低い男が扉から出てきた。眼鏡をクイッと動かして、こちらを見てくる。


「お前が神の言った仲間なのか?」


「ええそうですよ、神を信仰する従順な下僕です」


 一歩下がりそうだった足を前へと運ばせた。執事の男は片手を胸に手を当てて、お辞儀をしては、扉のノブを持ち、「どうぞ」と、扉の中へとうながしてくる。


「そう警戒されたら困りますよ。先がいつまでも進まなくて、神の怒りが飛びますよ〜?」


 ニッコリと怖い笑みを俺に向けてくるので、顔を引きつらせながら、俺は恐る恐る中へと入った。至ってシンプルな内装に、また口から溜息が出そうなのを、ぐっと抑えた。


「神の力を授かったと言うのに、神に甘えすぎですよ。貴方はその力をたくさん使えばいいんですよ、そしたら、良くなります」


「心を読まないでくれるかな……」


「読まなくても顔に出ていますよ。もっとポーカーフェイスになってもらわないと困りますよ。ここから先は大変なんですから」


 チッ、と大きい舌打ちをすれば、彼は呆れた顔をしている。俺は中へ入ってすぐ目の前にあるテーブルと椅子の方へ足を動かし、木の椅子に腰を下ろし、座る。


 すると、奥の右側のドアが開いた。また身構えるように警戒すれば、茶髪のツインテールで、赤い瞳の小柄なメイド服を着た女が出てきて、俺が視界に入るなり、顔を明るくし、飛びついて来たので、思わず魔法で、無駄遣いのテレポートをした。勿論、椅子から立ち上がり、少し離れるだけのテレポートだ。


「痛っ!!」


「あらら、早速、貴方は嫌われちゃいましたね」


「誰なんだ……」


 睨むように執事を見れば、彼は口を開く。


「彼女は私と同じく、神を信仰する者。ですが、神よりも貴方を信仰し始める愚か者です」


「聞いていた通り、イケメンだし、私の好みです! 是非、私とお付き合いしてください! お願いします!」


 彼女は俺の近くに来れば、片手を差し出し、頭を下げてくるが、俺は首を横に振る。


「俺はそういうのに興味は無い」


「ガーン! でも、まだ会ったばかりですからね! アタックは貴方が死ぬまで、できるってことですもんね!」


 この女、面倒くさい。死んだ魚を見るような目をして彼女を見つめては、俺は彼女に近付き、両頬を両手でつまみ、引っ張った。


「俺は興味無いと言っただろう? もう一度言えば、消すぞ」


「素敵……!」


 俺の言葉をまるで聞いていないようで、イライラした俺の顔を見るなり、そう彼女は口にするので、俺は呆れて言葉を失った。もう、手を下すしかあるまいと、魔法の力で剣を生成し、殺そうとしたが、執事の男が大きい声を出す。


「ストップ!!!!」


「何故止める? こんな女、一生傍におけるわけ無いだろう?」


「消しても意味ありませんよ、私やここで契約した人たちは神の力によって死ねないんですから」


 また俺は言葉を失った。口をパカーンとして、開けて何秒か固まっては、息を吸って吐いて深呼吸した。


「お前たちの名前は……?」


 頭が痛くなりそうな気持ちと葛藤しながら、話を逸らそうと尋ねれば、彼女は真っ先に嬉しそうに、俺に話しかけてくる。


「私はアイシアですよ、神様! 将来、結婚しちゃいましょ! ね!!」


 彼女は俺をぎゅっと抱き締めては頬をスリスリと擦りつけて来る為、痛めのゲンコツをお見舞いした。彼女は痛そうにしゃがみ込みながらも、視線は一直線に俺へと向けてくるので、どうしたものか、と椅子に座り直した。


「アイシアは貴方にメロメロですねぇ……。まぁ私もそうだったりするんですが……」


「お前はゲイなのか……そうか……」


 もはや、神が連れてきたのは変人しかいないのではないだろうか、俺は両肘をテーブルに付いて、考察する。


「いいえ、違いますよ。神だからですよ。私は人間には興味そそられませんから、安心してください。あ、私の名前はリゼスです、以後、宜しくお願いします」


 ふーん、とだけ相槌あいずちを打てば、テーブルに突っ伏した。もう、今日の脳はキャパオーバーしているから、早く寝たい、そう考えていれば、玄関の扉が開いたので、むくりと嫌そうな顔で起き上がった。


「もう来ていたんだな、神様は。ほう……神はそれなりに鍛えていらしたと見える」


「ゲッ、出た、変態!」


 中へと入ってきた男は筋肉質で、黒のタンクトップと紺のジーンズ、白のスニーカーを着て、履いていた。髪は黒で短髪、瞳は茶色だ。


 ゲンコツから立ち直ったアイシアは立ち上がり、入ってきた男に対して、あっかんべーしている。そんなアイシアの行動を無視して、男は俺に近付いてきては、キョロキョロと俺の身体を観察し始めては、やがて、触ってくる。


「私がまだ触ったことない箇所かしょを……!」


「お、おい……!?」


「この人、生粋きっすいの筋肉オタクなんですよ」


「はぁ!?」


 やっぱり、変なやつしかいない、俺は項垂うなだれてしまう。

 

 アイシアはまだ触ってもいない部分を男に触られてしまい、頬を膨らませている。男の触り方が何だか、やらしい為、俺は彼の頬にパンチを繰り出すも、彼の力強い手で止められてしまう。


「そんなこぶしじゃ俺には効かないぞ、まだ筋力が足りないせいだな。神はもう少し太りましょう」


 にこやかに言う筋肉オタクに、俺は黙れの意味を込めて、魔法で彼を眠らせた。すんなりと効いては、床に倒れ込み、軽いイビキをかきながら、寝てしまった。


「彼はビントって言うんですけどね」


「あ、そう……俺はもう疲れた……寝かせてくれ」


「いいえ、まだ寝れませんよ。ミッションがありますので」


 リゼスは俺に近づいてきては目を覚まさせるように、デコピンをし、懐に忍ばせていた丸めた紙を俺の目の前に置いた。


「ミッション……?」


 俺はデコピンのせいで、額を擦ってから、紙に手を伸ばし、広げた。そこには神からのミッションとなる言葉が書いてあった。


 ──今日中に目立たず、木を育たせる準備をしろ


「森を復活させるってことか……?」


「ええ、そうです。でも、魔王や悪魔が居ますから、まずは目に見えないように木の苗を何個も植えてもらうのが仕事です。それさえ達成したら寝てもらって構いませんよ」


「私も手伝いますよ〜!」


「お前はアイツと居残りに決まってるだろ」


 もはや、近づいて欲しくない二人だ、なんて言葉は飲み込んで、別の言葉で伝えれば、彼女はムスッとして、俺の目の前まで歩いて来れば、嫌な予感がしたが、もはや遅かった。


「ん゙っ……!?」


 俺は男の急所を彼女に狙い打ちされて、床へと何も言えずに倒れ込む。


「バァカ!! 私を連れて行く方が都合がいいのも知らずにそんなこと言わないでください! 失礼しちゃうわ!!」


「あらら、痛そう……私も思わず肝が冷えちゃいました」


 アイシアはフン! と拗ねたように、右奥のドアを開けて、バン! と大きな音を立て、部屋を閉めた。


「くっ……くそ……我ながら、油断した」


「まぁ、今後、彼女の機嫌は損ねない方がいいかもしれませんね……今日は私と共に木を植えましょう?」


「そうすることにする……だが……もう少し待ってくれ……」


「はい……痛そう……」


 治癒魔法を使えば、痛みは引いてくるものの、こんなことに使うのはどうかと躊躇ちゅうちょしてしまう為、えてせずに、何分かして、俺は立ち上がり、ヨロヨロと、玄関をリゼスと出る。


「とりあえず、苗を召喚してみましょう」


「お前はできないのか?」


 ふと疑問に思ったことを口にすれば、彼はコクリと頷いた。


「ええ、私やアイシア、それにビントも。魔力に関してはこれっぽっちもです。私たちは専門の知識くらいしかできないので」


「なるほどな……じゃあ……お前は苗をこれで運んでもらうしかないな……」


 俺は頭の中で連想した。苗を運ぶ台車と、その苗を並べる棚を召喚した。


「流石は神ですね、では、私はこれを動かしますね」


 彼もそれなりに筋力はあるようで、少し重たそうな台車をスムーズに運んでいるからだ。


「私はこう見えて執事なので、食べ物や飲み物を運ぶので、これくらいはどうってことありませんよ」


「やっぱり心読んでるだろ……」


「読んでませんよ、顔に書いてるだけですから」


 俺は彼に苗を運んでもらいながら、鎮火した地面を見つめては、苗を片手で持ち、しゃがみ込み、魔法で地面を掘らずとも、すり抜けさせて、埋め込んだ。


「これだと日が暮れるので、リピートの魔法でも使ったらいいかもですね?」


「そうだな……」


 読まれている気がするせいで、顔を虚無きょむにしては魔法を頭の中で想像すると、倍速のスピードで俺は苗を埋め込んでいく。彼も魔法にかかり、倍速で台車を動かしている。


 どうにか日が暮れる前には終わり、俺とリゼスに治癒魔法をかけて、この酷い疲労感を消した。


「ミッションコンプリートですね、おめでとうございます」


 大袈裟おおげさなように拍手をする彼に、やれやれ顔をした。


「こんなの初めの一歩にすぎない。拍手はまだ取っておけ」


「それはそうですけど、初めの一歩も大事だと思いますよ。さて、夕食になりますけど、何がいいですか?」


 俺は別に食べ物にうるさいタイプではない為、その質問には大いに困る。困った顔を浮かべていれば、はぁと溜息を彼は大きく吐く。


「全く、好きな物、嫌いな物はハッキリさせておいてくださいよ。神だから、とかじゃないですからね!」


「そう言われたって……思い浮かばないんだから諦めてくれ」


「じゃあ、もう、カレーにしますからね!! これなら文句とか何もないでしょ!」


「そうしてくれ」


 台車や、服の汚れ等をサッと無かったことにする魔法をかけてはプンスカと怒るリゼスをなだめようとこころみる。


「じゃあ、チキンカレーしようかな」


「本当にそれでいいんですか? ポークカレー、ビーフカレー、なんなら、げたトンカツが必要だったりするのでは?!」


 どんだけ細かいんだよ、と言うかのように、彼の頭を軽くチョップする。彼はそれをかわすように、真剣白刃取りをする。


「大事なことなんですよ! 嫌な食べ物出されたら、誰だって嫌ですよね!?」


「そうだけど、チキンカレーでいいって言ってるだろうが! ほら、神を信仰してるなら分かるだろう?」


 しまった! と彼は口にしては口元を片手でおおい、申し訳無さそうに、お辞儀する。


「そうでした、貴方は神です。この私が最も、信仰している存在でした。つい、我を忘れてました。お許し下さい」


「別に気にしてない……さっさと、カレーを作ってくれ……お腹空いた」


「あら、そうだったんですか? なら、たくさん作らないとですね!! 腕が鳴ります!」


 眼鏡をクイッと動かす仕草をして、ニコニコと笑う彼は少し不気味で引きながら、俺とリゼスはテレポートの魔法を使い、家の扉の前に飛んだ。扉を開けると、さっきまで膨れて、俺の股間を一時的に使い物にさせなくさせたアイシアが満面の笑みで出迎えてくる。


「神様、おかえりなさい〜! チキンカレー作ってますよ〜!」


 キッチンに立つ彼女を見ては足が後ろへと下がってしまうのを彼女は見逃さず、グイッと俺と近距離になれば、キッチンのところへと強制的に連れて行かれる。


「おい……! 離せ!!」


「嫌です! さっきはごめんなさい……反省してたんですよ、痛かったですよね? へへ、待っててくださいね、今、美味しいチキンカレー作ってあげますから」


 俺は視線を動かしていれば、床から起き上がるビントが視線に入るも、無視して、俺は何故、キッチンから動けないのかと尋ねるように、ギロリと彼女を見る。


「さっき、魔法が無いと不便ですって神様に伝えたら、魔法貰えたんです! 最高ですよねぇ〜! これで、神様、私の虜になっちゃいますね?」


 甘ったるい声で言ってくるので、俺はその声を避けようと、片手で振り払う仕草をしては神様は女に弱いのか? なんて想像をする。どんな強請ねだり方をしたんだが……この女が一番恐ろしい。


「よく寝たぁ……あ、何やらカレーの匂いがするなぁ……」


「ええ、神様の希望がカレーだったので、アイシアが作っているんですよ」


 後ろからリゼスがビントに説明している声が聞こえる。俺は彼女の真後ろに立たされて、そこから、足は動けない魔法をかけられている。


「もう少しスカート短いのがいいなぁ〜」


「そのままでいいだろうが。何を短くする必要があるんだ」


「えー、分かりますよね? 神様、背後に立ってますし?」


 言わなくてもそれくらい察せれるが、それは俺にとって無意味な為、何も答えてやらないと、彼女は振り返り、俺に近寄ってはそれなりの胸をこれでもかと大胆に当ててくるが、俺はどうでもいい様子で彼女の目を見る。


「なっ……! これも興味無いんですか!? こんなに豊かな胸なんですよ!? えっと、Eカップなんですよ!? 神様だってお好きなはずでしょ!?」


「神様それは無いですよ〜少しくらいは興奮してあげないと!」


「ということは……神様は筋肉が好き……」


 俺は動かずにビントの頬を魔法でパチンと音が鳴る感じで平手打ちした。彼は何事!? と、キョロキョロと見回しては俺がしたことに気付く。


「全く、筋肉では敵わないからと言って、魔法で攻撃するのは良くない。まぁ、これから日々、俺が稽古付けてやるから安心しろ!」


「それはどうも……俺は筋肉も、男も女も興味無い。何されても、別にどうでもいい。勝手に誤解するな」


 忠告するように三人に言うも、多分、それが伝わるのはリゼスだけだ。あとの二人は自分の都合のいいように解釈する。呆れたことに。


「むぅ……神様、少しくらい照れたり、赤くなったりしないんですかー!」


「あ、神様だから、しないのでは?」


「はっ! じゃあ、神様にそういうときだけ、照れたり赤くなったりするのを頼めば……!!」


 俺はイラっとして、振り返り、重圧をかけるように、リゼスを凝視すれば、笑っている。


「あらら、怒ることはできるんですね? それだと、照れたり赤くなったりもできるんじゃないですかー?」


「迷惑だ。さっさと寝る。まだなのか、チキンカレーは……?」


 俺は意識を集中して、彼女のかけた魔法をどうにか解いては苦しめてやろうと、背後からぎゅっと抱き着いては左耳からささやく。


「やぁっ……もうすぐ出来上がるので、そんなことしないで、神様……」


 顔を赤くして、モジモジしている彼女が視界に入れば、興醒きょうざめし始め、パッと手を離し、テーブルの方に歩き、椅子へと座る。


「私もビントも座りましょう」


「あぁ、お腹がグゥグゥ鳴っているしな」


 そして、数分後には四人でチキンカレーを食べては寝てしまったのだ。それは何故って、うるさい奴等だから、俺が睡眠薬を仕込んだってことだ。そして、俺もついでに寝たってことだ。











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