神様代行人の仕事

序章 神様に選ばれし者

 俺はただ、仕えているこの国を守りたかっただけだ。それがこんなことになるとは、到底思いもしなかった。あの行動を神様に見られていただけなのに、選ばれてしまうなんて……。


 あまりこの髪色は良くないとされている濃い紫色に、漆黒の瞳。髪型は真ん中が分かれている短髪。背はそれなりに高い百八〇センチ。そして、この国特有の白い軍服に、靴は茶色いブーツを履いている男が、とある国の王様がいる部屋の扉の前に、守るように、立っている。


 彼の前にはこの世のものとは思えない黒い化物がいる。化物は彼より背が高く、熊のような大きさ、鋭い爪と牙、そして、血のような赤い瞳をしている。もし、その爪で、牙で、攻撃されたら人間は死ぬ。


 だが、彼は怯むことなく、王様を守るためと、腰に下げていたさやから剣を抜いて、構える。


「ここから先は、化物であろうが、一歩も通らせない!!」


 そう言って化物に剣を振り下ろそうとするも、化物の攻撃速度は速く、大きな手のひら、爪により、王様のいる部屋を貫くように、弾き飛ばされて、頭と身体に、致命傷を負って、床へと倒れた。


 壁は硬いコンクリートによって造られていた為、即死ではないものの、もう助かる見込みはない。床にじわじわと、ぶつけた頭から血が溢れてくる。


 そして、守ろうとした王様は呆気無く悲鳴を上げながら、化物によって首を斬られて、その首は床へと落ち、胴体も床へと倒れ込んでは血が大量に流れた。


 化物は大きな声で笑っている。そして、世界は破滅の一歩を踏み出し、化物は世界へと拡散していく。そう、その化物をあやつる魔王、悪魔の力によって。


 こういうときは勇者などが現れるのが必然だが、この時の世界はそんな存在が現れるとは思えないほど、平和だった為、神様がそんな存在を創り出してはいなかったのだ。


 そう──神が世界を操れば平和になるのだから。


 ならば、さっさと、操ればいいと思われるが、魔王と悪魔は禁忌を使い、神様の居場所を突き止め、脅しに来た。介入すれば、お前を殺す、と……。


 神が死ねば、全てが終わる。それは絶対にあってはならないこと。絶対絶命の神様はある行動に出た。


 ──自分の代わりの存在に全ての力を与えて、代行してもらおうと。


 神は行動できないように魔王と悪魔は警戒するが、神ではないが、神に近い存在ならば、気付かれず、操れることができるだろう、と。

 

 そこで、神は先程まで見ていた騎士に力を預けようと。彼ならば、神に忠誠を誓って、責務を全うしてくれるだろう、と。


「起きたか、騎士よ」


 俺は目が覚めると、建物が崩壊し、炎に焼かれた自分の国を見下ろせる球体で、透明で浮いた空間に、倒れていた。先程食らったはずの化物の攻撃の痛みや血は無くなっている。何故治っているのだろうかと、疑問に思いながら、起き上がり、視線を上へと向けると、先程見ていた化物より数段にデカイ巨体の男が俺の目の前に立って見下ろしている。


「化物……とは違うような気がするな……」


「それはそうだ……


 神様……? 冗談……? ではなさそうな真剣な声で話してきて、神は視線を俺から逸らさない。やれやれ、これを受け入れる他無さそうな雰囲気……。俺は生唾をゴクリと飲み込む。


 夢でも見ているのだろうか、モヤモヤした気持ちを正常に戻すため、俺は軽く頬をつねる。だが、夢ではないようで、つねる頬は普通に痛い。


 神は白髪で、セミロングくらいの長さ、白髭、化物じみた筋肉、薄いシルクのような生地で作られたワンピースのような服を身に纏っている。だが、ワンピースとは違うのは右肩の布が無いことだ。左肩の方だけ、肩にかける布がある。胸が見えない位置くらいまで右肩の布は無い。靴は茶色で、サンダルのように軽そうなものだった。


「信じてもらわなければ困るんだ。私は神でありながら、魔王と悪魔に狙われている」


 神様は特別な存在だと思っていた。それは俺に限らず、誰もが。突然、発せられる言葉に俺は動揺する。それが神に伝わったのか、笑っている。


「彼等は禁忌をおかしたんだ。そんなことをしなければ、私の手で終わっていたよ。それでだ、君に仕事を与えようと思う」


「待ってくれ、意味が分からない」


「そんなことは百も承知だ。だが、君が適正だと思うがね……何せ、あの化物の前で怯まなかったじゃないか。それに王様を最期まで守った。褒めているんだよ」


 頭がグラグラと混乱してくる。神は最期の俺を見ていたのか、ならば、俺はもう死んでいる。あぁ、転生させようとしているのか、思考を巡らせながら、神を見つめた。


「王様と神様は訳が違う。スケールさえも違う。幾ら俺が転生したとして、そんな重要な仕事をまだ未熟な俺に務まるはずが……!」


「出来ないじゃない、するんだよ。それに君の身体は転生していない。私が治癒しただけだ。君はもう逃げることはゆるされない場所にいる。もはや、私の手中にいることが分からないのか?」


 何だと……? 転生していない? 治癒しても治らない状態だった俺を治した? 神はそんな力も持っているのか、俺は神が恐ろしくなり、怖気づくように立ち尽くした。それ見兼ねた神は重い巨体を動かして、俺の目の前まで移動してきては、軽々と俺を片手で掴み、鋭い眼光を向けてくる。


「お前が動かなければ、私も世界も本当の意味で滅ぶ。私は一生をかけてお前の魂を地獄へとほうむってやろうか?」


 途轍とてつもない重圧が、俺の身体にのしかかる。このままだと、俺は死んでも、死にきれない存在と神の力によってなってしまう。もう、俺は逃げたらバットエンドの領域に、巻き込まれた。


「俺に任せたことを後悔するかもしれませんよ……」


「はははっ、そのときはその時だ。お前なら、きっと出来るさ、この神が見込んだ才能があるからな」


 俺の言葉を受け取ると、神は俺を下へと、そっと下ろした。俺はふと、気になることが脳裏に浮かび、神に尋ねた。


「神は魔王達に見られているのではありませんか? ならば、俺とこうしての会話さえも……」


「いいや、これは私ではない私の使い魔の身体を私に変えただけ。それだから、アイツ等は知らない。だから、安心していい」


 俺は謎が解けては、スッキリした顔になる。それを察知した神はコクリと頷き、そして、神は俺に、力を授ける為の、呪文のような言葉を口にした。


「カカスサ、タヌ、アヌソ、ケブ……、ゴッド」


 すると、俺の頭、心から、得体の知らない魔力や知識が流れ込んで来る。そのおかげか、神の言っていることが分かった。

 

 ──神は彼に全てを授ける。託す。だが、もし、彼が約束、契約を破った時、即死を発動させる。神に選ばれし男。


 そして、俺の脳内には濁流に呑まれるような、そんな感覚の情報が刷り込まれていき、頭痛へと変わっていった。


「痛いだろうが、それもすぐ終わる。この儀式が終われば、晴れてお前は私と同じだ。そして、お前は今日から名前が変わる。私が名付けた名前で行動することだ」


 ──


 その名前を聞いた瞬間に俺は意識が遠退いて行くのだった。







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る