第9話
「サンプル」
いや……、
一人の「話し相手」として、私は人形の一つを持ち帰った。
帰宅すると、お母さんはとても泣いて、すごく怒った。
お風呂に入る。
部屋にもどり、ランドセルにしまっていた人形を棚にかざる。
すこし汚れ、壊れている。
寝よう。
(……あれ?)
目をさますと、くらやみに、人形の目が光っているきがした。
灰色に……。
「……」
(気のせいか、寝よう……)
!
家の振動にまた、目をさます。
よくわからないけど、私がゆれている?
(消えた……)
みつめると、人形の目が、また、光っている。
目をつむれば、人形の目の光にとらわれる。朝陽がのぼるまで、布団にくるまり、やりすごす。
私の体は人形に姿をかえ、ダムの跡地に捨てられ、雨粒をおとす空を見上げている。
夢だときづいたころ、雨はやんでいた。
ガヤガヤガヤ……
(うるさい……)
教室の中は、こうして神経が過敏になると、無数の音をひろいあつめる。
ささやき、羽音、ノイズ……。
無数の目……、光のない目……、灰色……。
窓辺の陽射しは灰色で、目を離せば消えそうに、空木君は窓辺で本を読んでいる。
(私の……心は……)
灰色。
灰色に染まった空。
灰色に染まった目。
灰色に染まった日常が今日も始まるね。
ヒソヒソヒソ……
耳ざわりな雑音がする……。
「ねぇ……最近みゆゆちゃんって、不気味だよね」「うん、全然人と話さなくなったし、顔もすっごくキモくなった」「この前男子に話しかけられた瞬間に吐いてキモかった」「いつもつけてるあの臭い香水のせいで吐いたんじゃない?」
クスクスクス……
ドクンッドクンッドクンッ!!!
(痛い)
心臓のある位置をかきむしる。吐き気がこみ上げてきている。
「あんなにキモいならもう『呪いの人形』二号だね。早く燃えてほしいね」
クスクスクス……
(黙れ)
「おっはよー☆あいかちゃん、昨日の夜の熱々デート、楽しかったね……♡」
(かふうちゃんのおかげで痛みはどこかへ去っていった……)
その日から私は、眠れなくなる。
目をさますたびに、人形が、移動する。
窓の外へ、枕元へ、机の中へ、天井へ、空木君の頭の中へ。
やがて幻と現実の境目がわからなくなる。
(目をつむるのは危険だ。目をつむればくらやみが私に牙をたてる。くらやみは何者にでもなれる。灰色の目に灰色の空へ。そして人形たちが苦しそうな目で救済を求めるように私をみつめている)
人形はやがて私の首に手をかけ、最初はやさしくなでてくれたね。でも気づけば私の首はしめられていた。
(心の行方……)
誰かが部屋に入ってきた?
お母さん?
(ココロのゆくえ?)
私はまだ幻にとらわれていた。
(そんなモノは、ない)
お母さんと思っていたものは、人形だった。雨から逃げ出した人形たちが私をとりかこんでみおろしている……。
(ワタシをミルナッ!)
心臓が酸素を求めてドクンッドクンッドクンッと高鳴っている。思い切りかきむしると人形たちは消えた。
この心臓を切り取り出して、断ち切りハサミで切り裂けば、心はでてくる?
(私のココロハ……ドコニアル?)
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