人って何?

私が喧嘩を始めたきっかけはお父さんのパソコンからだった。お父さんのパソコンには危ないことならなんでも乗っていた、人との戦い方ならなんでも。殺し方、殺されない方法。私の喧嘩はそうやって、ちょっとずつお父さんのパソコンから人の壊し方について学んで、成長することが嬉しくって始めたんだ。


ちょっと気持ち悪いかもしれないけど私は集団で殴られて負けた経験すらも楽しかったんだ。喧嘩というものは負けても楽しい。どんな人間だって人の殴り方を知らない人は居ても、人を殴れない人なんていない。私はそんな弱いやつも強いやつも全員殴って、私の方が強いって証明して、気に食わない人がいるなら倒して、私を止めようとする人も全員倒せば、私の中にいる恐怖も晴れると思ったから。


私が怖がっているもの、なんなんだろう。私は強いのに...強いから怖いことなんてないはずなのに。


私は何に怯えているんだろうか、私は日記を書くことにした。その理由は私が何に怖がっているか確かめたいから。私は何に怯えているんだろう?その答えは自分には無かった。じゃあ相手を見てみよう。相手の顔を見た。その相手はみんな負けそうな時私に怯えていた。じゃあ負けたら怖いの?なんで?死んじゃうって思うから?


私はお父さんのパソコンを使って、とても簡単に言うと、常日頃から人を殺している本当に喧嘩が強い人と連絡を取った。


『本気で殺しに来てください場所は⋯·····』

私がお気に入りの喧嘩場所を言ったら相手からもっといい場所があると言われた。相手から集合場所の指定がきた。


これで私はようやく怖がれる。私の中にいる恐怖がようやく知れる。


私は内心うきうきしながら相手が指定した集合場所に行った。周りに人がいない。なんか暗くて、建物に挟まれてて、一目で危ない場所だなっと思った。これが...恐怖なのかな?


「女...しかも子供で...1人!?」

上から声が聞こえる。そこには、私の方を驚いている表情で外階段から覗いている男の人が一人いた。


確かに驚くのも無理ないだろう。いつも動画で見ている殺し屋の人は大半が大人で男だ。


「なんか...ヤバいやつかと思ったら...。いや、流石に違うか」


男がブツブツ何か言っている。相手は私に聞こえてないと思うけど最近相手の口の動きから何を話しているのか分かる動画を見たから口を隠さずに喋ると私には筒抜けだ。


「なあ?ここがどんな場所か知らない人だろ?」


ん?あなたが集合場所指定したじゃん。


「いえ、喧嘩するって呼ばれてきました」


いや、喧嘩ふっかけたのは私か。


「あのメール、アニメの世界とかじゃないから、本気だよ?本気で俺悪い人だよ?」


悪い世界の人にもいい人はいたんだ。正直最初に戦う悪い人がこの人で良かったと思ってしまった。


「いえ、大丈夫です。あのメール送ったのもここに自分の意思で来たのも私です」


中学生の私はなんとなく最近学校で習った礼儀というものを思い出しながら言葉を使う。


「ああ、とりあえず気絶させて人目のつく場所に置いとくか」


また小声で男は呟く。


「先に言っとくけど、殺す気無いから。それと、もし僕に負けたら二度と人と喧嘩しないこと。いいね?」


男が持っている銃もナイフもその場に捨てる。

しかも私に訴えるように男は感情込めて言う。今まで喧嘩してきたどんな人よりも優しい人だ。殺し屋ってみんなそうなのかな?


「分かりました。それじゃあいつでも来てください!」


私も本気で応えてやる。だって喧嘩やめたくないもん。


男は一息つくと、階段から一気に私の方目掛けて落ちてくる。


男は私に向かって落ちてる勢いのまま手をパーにして手を剣のように降ってきた。手刀ってやつかな?喧嘩ならグーでこいよ。グーで。


「へぇ、小さいし、反応速度もいい。いや、落ちてきてんの見てるし、意外と最近の子供はみんなそうなのかも」


男は壁を蹴ったり、手だけで自分の体を支えたりして、私の周りをぐるぐる回る。

気絶させるって言ったっけ、なら私の死角から軽く攻撃を当てるつもり...私は体格がそんなに強くないから1発当たったら負けちゃうかもしれない。


男は私の死角に入って、後ろから首目掛けて手刀を仕掛けてきた。それを交し、男の顎にかかとから蹴りをいれる。


大丈夫、目が着いていけなくたって、気配を感じろ。距離感をしっかり見て、五感で感じていけば目で追いつけなくたって場所は分かる。空気の流れを第3の目として使えば相手の位置が分かる。


男はバク転で私から距離を取る。


「痛くない...。けど、いい身のこなしだよ。これは余計に喧嘩なんてそんな体の使い方...しないで欲しいよ!」


今度は男は正面から攻めてくる。体制を崩して、軽く攻撃を当てて気絶させてくるつもりだろう。


男は手刀と足目掛けて蹴りを食らわせようと、私と近距離で粘着して戦ってくる。


手を掴むのは私の力が弱いから1秒未満、足払いは、体制を崩さないように足にグッと力を入れるのを忘れないが、正直今の力だとどうせ力負けするだろうから、基本的に足を狙ってくる攻撃は死ぬ気で避ける。


私の意識通りに攻撃をいなしながら、相手の隙を伺う。


いや、分かっていた。正直相手の今の立ち回りは絶え間なく攻撃をしてるように見えて、私の急所を確実に外した場所に打ち込んでこようとしてきたり、倒すという意識より、抑えるという意識で相手は動いている。だから相手は防御にあまり意識を割いていない。


男は私の脛を目掛けて右足で蹴ってくる。ただ、私はそれを何回も見た。


私は蹴りをジャンプで交すと同時に男の後ろ目掛けて飛び込む。


左足ががら空き。


男の後ろを取った私は相手が右足を戻すより先に左足の足首に向かって蹴りを入れる。


当然私の力じゃ相手は倒れない。せいぜいよろめく程度が限界。


男がよろめく隙を逃さず、後ろから男の首を締める。


本気で振りほどこうと男が暴れたら私はあっという間に地面に叩きつけられて形勢逆転されてしまう。でも、男は決して暴れなかった。私をなるべく傷つけるやり方を取らなかった。


私は自分から拘束を解き、男と距離を取る。


「私があなたなら、何回か私から有利を取れた。いや、今頃私はあなたに負けているような未来が何回も見える」


男は咳をしてから、こっちを振り返る。


「いや、僕が勝てないのは君が強いからだよ、その身のこなしに判断力、勝つ為にどうすればいいかしっかり考えている。正直、喧嘩...いや殺し合いの知識だけなら君の方が何倍も上だ」


まっすぐ私の方を見てくる。睨みつけてるんじゃない。ただ、言うことを聞かない子供に言い聞かせるようにまっすぐ目を見て私に話しかけてくる。


「その勝つための思考回路や、身のこなしをもっと、運動とか勉強とか楽しいことに使ってみない?」

「1回です...」


男は疑問を顔に出す。


「私に1回でも怖いって思わせてください。そうしたらもう喧嘩はしません」


私は指で1という数字を男の前に出す。


「でも恐怖というのは一生人生に付きまとうよ。良い恐怖もあるけど、君が望んでいるのは悪い恐怖だ」

「でもあなたは今、私と戦ってなんの恐怖も抱いてない、それは色んな経験をしてきたからで、もっと怖いことを経験したからでしょう。それに私はずっと何かに怯えているんです、それがなんなのか知りたいし、もし分からなくてもあなたとの戦いの恐怖で上書きされるなら本望です」


男は私から視線を外し斜め下を見る。


「今俺はなんの恐怖も抱いていない...か」


自信なさげにそう呟いたと思ったら真っ直ぐこっちを見てくる。


「本当にそう見えるか?」


今度は語りかけてくるように私の目を見て言う。


「結局、言葉にしないと分からないですよ。人の気持ちなんて」


自分の言うことが正論だとは思わない。だけど、何も言わずに察してくれって言うのは結局無理なんだ。私の怖いという感情も、相手の恐怖の感情も、私がどれだけ成長したってきっと理解出来ない。


「じゃあ、お互いの気持ちを学んでいこうよ。君も...そして俺自身も」


ーーー殺し屋の男視点ーーー


俺の名前は保科 歩。殺し屋3年目だ。

俺には殺し屋のセンスが無い。誰に復讐したいとかそんな目的も無く、ただ俺の殺し屋生活は上を見れず、ずっと倒れた死体とにらめっこする下を見る生活だった。


ただ金のために雇われ、金の為に働き、力をつけ、また偉い人間の命を奪う。そいつが善人か悪人か人生なんて知らない。ただ、殺した人間が夢に出てきた時、毎回俺はこんな仕事向いてないんだなと思った。


両親が死んだ。俺がそこそこ名が売れて俺を恨む奴が現れて、とにかく俺に復讐したい奴が俺の両親を殺した。俺は覚悟していた。結局こういう仕事をしていたら身内が殺されることを覚悟していたから。


作戦の途中、仲間が裏切った。俺とそいつは友達でも何でもなかった。ただ、そいつは俺に復讐する為だけに殺し屋になり、俺を恨んでいるからこそ、殺し屋の道を選んだ。


俺は諦めた。そいつが目標を持って殺しに来てるのが敵ながらあっぱれと言うか、眩しかった。嫌いになれなかった。親を殺されても覚悟とか言って、スカして、人の心を忘れたフリをして、でも、夢に殺した人の顔が出てくるウザイ俺とは違って、相手の目はまっすぐ俺を見ていた。下しか見れてない俺にはあまりにも眩しい視線だった。


そいつに殺されそうになった時、そいつは別の仲間に撃たれて死んだ。別の仲間はそいつと親しい仲だったらしく殺す寸前まで躊躇っていたらしい。


仲間ってなんだ?友達ってなんだ?家族ってどういう存在なんだ?家族よりも俺を殺そうとしたやつが眩しく見えたのは何故だ?なんで友達よりも赤の他人である俺の味方をするんだ?


俺は任務が終わった後そいつを探し出しなんでか聞いてみた。


「なんで俺を助けたんだ?友達だったんだろ?あいつと」


男は唇を噛み締めた後言った。


「これは俺のエゴだ。あいつは弱いんだよ、そんな弱いあいつにあんな事させるのが怖かった。あいつがお前を殺した後のことが怖かった。

あいつは殺し屋の世界にいるべきじゃない。俺のわがままであいつを殺したのは変わりないが、未来が無い友達と、これからまだ選択肢のあるお前とじゃ自然と俺の銃は友達を向いてしまったんだ」


さらっとなんの感情も持たない人間のように冷たく言った後、顔を伏せて顔を腕で隠して言う。


「嘘だよ、任務に邪魔だから殺した。俺は人を辞めたかった、あいつを殺して任務の方が大事な人間なんだって自信が欲しかった」


冷たく言い放つもよく見れば腕が涙で滲んでる。なんだよ、こいつも人じゃねえか。

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