久しぶりの楽しみ
「だからどうしたの?」
私は紗季の本心を知ったらきっと会話の着地点、いわゆる解決の糸口が見つかるものだと思った。ただ、紗季の言葉も涙も正直今の私には響かなかった。
「だからどうしたって...」
紗季がさっきまでの熱い思いを語っていた勢いを少しずつ冷ましていく。もうちょっと頭が冷えてから話そうと私は10秒くらい間を置いてから話そうと思った。その間紗季は私の事を睨んだと思えば、目を逸らしたり、頭を軽く引っ掻いたり、ため息を漏らしたりしていた。
「落ち着いた?」
もうちょっとまともな話をしよう。紗季の意見としては私がこの世界に適応して落ち着いた正確になっているから怒っている...という意見だろう、だいたい。
「まあ...えっとー...なんだろうね」
私は言葉に詰まる。
何だろう、感情に訴えること...仲良くなれるきっかけを作ればいいんだ。今の私でも紗季がちゃんと好きになってくれるそんな合理性のある意見でありつつ、感情を揺さぶることが出来ればいいのだけれど、正直に言えば、何も分からない。でもこのまま何も言えないまま紗季と離れ離れになるのは嫌だ。少しくらい自分の気持ち吐き出してから次の手を考えよう。
「私はー...昔の自分は嫌いってことじゃないんだよ、ワガママな所もあったし、たくさん喧嘩もしたけど、まあ、悪く言えば...人の気持ちを考えないやつ...。で、まあよく言えば...」
昔の自分のいい所ってなんだ!?今思えば昔の私なんて改善点しかない黒歴史量産女だぞ!?意味分かんないよ、昔の私が好きな紗季も昔の私のいい所を考えようとする私も。
「カリ...スマ性があるところかな?なんかごめん、自慢できる所...無いや」
うーん、紗季はさっきから何もリアクションがない。まあ、一応話は聞いてくれてるらしいから昼休みの時ほど悪い状況ではなさそう。でも、好感触以前に心に刺さった感じがしないから...今の私の何が悪いのか会話で確かめてみよう。こういう時会話形式なら言葉がスラスラ出てくると思うし。
「ねぇ、今の私の何が悪いと思う?」
ふっ、と紗季は少し笑みをこぼした。
「はははは...はは...あー」
紗季は上を向いて、微妙な笑いをこぼしながら、机の上に座り込む。お行儀悪いぞ。
「もうなんか...失望通り越して、もうなんか私も何考えてんのかわかんなくなってきちゃった」
失望?私は何か間違ったことを言ってしまったのだろうか。
くだらないお喋りをして、紗季にまた失望される前に何かちゃんと話すことを考えろ、紗季は昔の私のことが好きだから、私が昔の私のことをあまり褒められなかったことに怒っているのか?いや、紗季の反応は怒りとはまた違った反応だ。それに昼休みとは違ってあまり情けない物言いはしていないはず、それじゃあ今の私が舐められているのか?そんなんだったら根本的に今の私と紗季は合わないな。じゃあ今の私が舐められないように態度を改めて、今の私の事を紗季がどうやったら好きになれるかを話し合えたらいいな。そして、昔の自分のいい所...いわゆるカリスマ性を今の私と何とか共存させる方向性でいこう。これなら口だけじゃなくてこれからの付き合い方も問題ないはずだ。
「紗季...」
「あんたが考えてることなんてどうせ」
私の言葉は紗季の言葉にかき消される。だるそうで、私の事なんてどうでもよくて...ああもう面倒くさくなってきた。
「どうせあんたは今の私を見てほしいとか、これから紗季と、どうやって付き合っていくかとか考えてるんでしょ、ほんと今のあんたは鈍感で昔の悪いとこばかり吸収した、失敗作。
ねぇ、次はどんな言葉で、どんな感情こめて、どんなことを考えた上で私に話しかけてくれるの?」
どんどん紗季の語気が強くなってくるのが分かる。下手に出てりゃいい気になりやがって、
あんま調子に乗ってんじゃねえ。
「おい...」
紗季は本当に気持ち悪い。話通じないし、まともな会話ができないし、なんで昔みたいに、なんで私と一緒に異端者で居てくれなかったんだ。なんで私だけ落ちぶれなきゃいけないんだ。なんで私を置いて、紗季は人気者になっているんだよ。
私は紗季の手を取る。
「なに...?」
紗季は嫌そうな顔をして私の手を払おうとする。でも、私は力が強いから紗季の右手をギュッと握って離さない。
「なんなの?今度は脅し?」
紗季は喋り方なとても落ち着いているけど、震えた手から焦りが伝わってくる。
「やめてよ...やめてって!」
紗季は左手で私の顔をビンタする。パチンッと大きな音が教室中に響き渡る。
「なんで...離してくれないの?」
それでも、私は紗季の右手をぎゅっと握っていた。いや、『ぎゅっと』という表現だと優しそうな感じがするが、本当は紗季の右手をがっちり掴んで拘束していた。
「なんで分からないの!なんで諦めようとしないの!?やめてよ!彪月じゃなんも分かんないよ!今の彪月は私の事も彪月自身のこともなんも分かってないよ!」
ようやく、紗季から感情が引き出せた。これで少しは心から紗季に向き合える。紗季ともう一度話し合いのテーブルに着ける。でも...一つだけ問題があった、それは、私がまともに話し合いをする気力が失っていることだ。
「うるせえよ!黙って着いてこい!」
私は紗季を思い切り睨む。威嚇の仕方はよく知っている。
紗季の身体中から一瞬震えが私に伝わってくる。紗季は私の怖さは昔からよく知ってくれているから、私の言うことは素直に従ってくれる。
私は紗季の手を引っ張り、階段を降り、昇降口に着く。傍から見たら仲のいい友達に見えるのだろうか。紗季はどんな表情をして着いてきているのだろうか。そんな事、実はどうでもよかった。
「ねぇ...彪月。なんの...目的があって、こんなことするの?」
「ストレス発散」
私はこれから紗季に襲ってくる集団を利用して、ストレスを発散する。
「ああ、あと脅しているようで悪いけど、紗季には危害は加えないし、そもそも今はお前は全く脳内に無い」
私は早くこのモヤモヤした気持ちを発散したい。私の昔の唯一の娯楽。今の趣味は日記だけど、昔はとあることを趣味にしていた。
私は紗季の手を取り、紗季の家までの道のりを進む。登校の時とは違い、紗季が俯いて、私が前を向いている形だ。
だんだん空は暗くなっている...こんな時間帯に、昔は喧嘩してたっけ。
しばらく歩いていると紗季の家の前に5人組の男が固まっているのを見つけた。
男たちは私たちを見つけるとゆっくりこっちに近づいてきた。
「こんにちは...星華ちゃんと...誰?」
男の1人が話しかけてくる。私はこれから起こることにテンションの高ぶりが抑えられるか心配だが、なんとか平静を保ちながら男に対応する。
「私は...これからこの子と親睦を深めようとしてるただの女の子です」
一応名前を名乗ったら後で何されるか分からないので私の事はただの女の子ということにしておく。
「へぇ、なあ嬢ちゃん。金目のものは持ってねえのか?」
他の男も私たちを見て調子乗ってきたのか声色が明るい。
私は鞄を漁り、財布を取りだし中身を見る。
「だいたい13000円くらい入ってます。どうぞ」
私は財布を男の前に投げる、財布は地面に落ちた。
「物分りはいいが...まだ足りねぇなぁ」
男たちは財布には目もくれず私たちの体をじっと見る。というより、紗季の身体が目的か。
「金銭の要求?誘拐じゃないってことは、セクハラおっさん集団じゃないって事?」
そんな私の言葉に男たちは顔を見合わせる。
「おっさんか?俺たち意外と若いやつもいるよな」
「まあ、ここにいるやつあんまりモテそうな顔してる奴いないし、そういう意味ではおっさん顔なんすかねぇ」
「ひっでえなぁ、最近の女は気に入らない男を見るとすぐおっさんとか言ってきてよぉ」
「「あははははは」」
男たちは私たちを前に楽しく談笑する。
「と、すまねぇがあんまり時間は掛けられないんでさっさと用事を済ませておくぜ」
男たちは私たちの方に向き直る。紗季は怯えて私の後ろに隠れている。足も痛いのに、本来はこの後襲われるんだからそりゃ、怖かっただろうな。
「まだ用事を聞いてないんだけど?あなた達の目的はなんなの?学校帰りだし、あんまり金目のものとかないよ?」
男たちは不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「学校帰りだから警戒が緩むんだよ。知ってるか?最近はかわいい女の子の私物は高く売れるんだ、かわいい有名インフルエンサーの制服なんて、結構高値で売れるぜ」
私も昔ダークウェブで勝手に有名人の私物を売りさばいているのを見た思い出がある。こいつらはそういう組織で動いて金目のものを奪うというより、趣味でそういうことをしてる線が濃厚かな。
「教えてくれてありがとう、お礼の財布...受け取ってよ。大事に使ってね」
「どういたしまして」
男の一人が財布に手を伸ばして、触れようとする瞬間、私は走ってその男の顔を蹴り飛ばした。
「こいつ速え!」
男の1人が倒れている間、他の男が2人一斉に私に向かって殴り掛かるが、固まって動いてるため、ジャンプで避けると案の定2人の頭がぶつかっていた。その隙に片方の男の頭を蹴り、地面に叩きつけた。
「ちょっと距離取らない?」
私は残った3人から距離をとる。その時、男の中の1人が金属バットを持っていることに気がついた。
男が正面から殴りかかってきて、金属バットを持っている男が後ろに回り込んでくる。
正面の男の攻撃を避け、顔に1発入れてやると簡単にやられてしまった。久しぶりの喧嘩だけど私意外と動けるね。
後ろに回り込んでいる男は金属バットを振り上げた瞬間に後ろ蹴りを男のお腹に食らわせてやったら、またもやよろけて倒れてしまう。
「金属バット、防御にも使えると思うけど」
私は呟き、倒れている男から金属バットを貰う。
「あなたも私とやってみる?」
私は金属バットを男の手前に向かって投げる。
そして、私は両手を広げ、笑って挑発する。
久しぶりのこの感覚、やっぱり喧嘩は楽しい。
「いや、やめとく」
そう言って男は倒れている男4人を引きづって私たちの元から離れていった。もうこれに懲りて他の有名人にも手を出さないで欲しい。
【タイトル募集】(仮タイトル)弱メンタル女子の全力魂強化日記 えあむ@帰宅部彼氏 @eamu
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