私決めた
5時間目のチャイムが鳴った。今の私は授業に出ていない自分への罪悪感とそれを上回る紗季へのもやもやした感情に支配されていた。
『お前が選んだのは自分自身か...』
『あなたは文字だからどういう感情が分からないな、どういう気持ち?私のことバカだと思ってる?』
こんな時にも私はミキちゃんとの喧嘩を忘れない、なんか勝手に心の中を読まれて、理解者ぶって話しかけられてるのが少しムカつくのかもしれない。
『お前が選んだ道だよ、正しいか正しくないかなんて分からないけど、基本的に俺はお前にああしろこうしろとかそういう保護者みたいな事は言わないと...思う。でもお前ずっと不安定だから言いたくなるんだけどなあ』
私が進むべき道は私が作っていく、ただそんな自分のことを自分で決めることがこんなに難しいとは思ってもみなかった。私はいつも何を考えて生きてきたんだろう。何か生きがいがあったのか、昔の私が生きてもいい理由はなんだったんだろうか。
『少なくとも昔のお前より今のお前の方が何倍もいい生き方をしてるよ、もし昔のあなたみたいに戻って欲しいなんて言われたら、俺は紗季を完全に敵だと思うな、今の彪月にとって。昔みたいな...ああ...えっと...オブラートに包んで言うと、凶暴な性格には戻って欲しくないって思う。それはきっと、お前が今もってる違和感にも繋がってくると思う』
今の私が昔の私みたいになりたくない...。そんな気持ちと紗季の気持ちが何故か衝突してしまっているんだ。じゃあ紗季の気持ちってなんだ?私の思いとぶつかってしまう思いって...。
『結論を言うと、仲直りなんてしない方が良いと俺は思う』
その気持ちは今でも変わらない、紗季は私の人生にとって邪魔だとは1ミリも思わないが、何か根本的にズレがあるんだろう。お互いに譲れないものがあって、そんな互いの理想が違ってて、そんな関わり合えない間柄なのだろう。私の昔の自分には戻りたくない、気持ちを殺してでも誰かと仲良くなりたい、心が落ち着く...そんな優しい世界を願っている私の気持ちと紗季何かよく分からない気持ちがどう足掻いても共存できないのだろう。
『私は紗季のこと嫌いなの?』
分かり合えない理由は私が実は紗季の事が嫌いでお互いに嫌いあっているせいでそもそも会話が噛み合わないのではなく、無意識的に会話を拒んでいるという線もありえる。
『100%嫌いじゃない。俺は紗季のこと超嫌いだけど、お前は本当は大事に思ってる』
私が分からないモヤモヤした気持ちを分かってくれている。そんな心が見透かされているムカつきよりもきっと、安心感が今はミキちゃんの間に感じてて、でもミキちゃんは私のこと大事に思ってくれている発言だということが文章からでも分かるようになってきた。
『ここからは、私1人で気持ちをまとめたい。私をいい方に導いてくれているのは助かるけど、私の気持ちは結局、私個人の決定でしか満足出来ない気がする。選択が正しいか正しくないかの話じゃなくて、もっと...感情的な部分に正解はある気がする』
私1人で決めるなんて全く出来ないと思う、ただそんな『出来ない』ということも私の選択だと思う。きっと、これでミキちゃんの力で正解の『出来た』私の未来はきっと私の人生にとって得だけど、満足できない気がする。
『最初からお前の気持ちを尊重するよ、きっと間違っても正解でもその後のメンタルケアは任せろ。俺からは未来とか、事件とか考えずに紗季本人にどうやって向き合うかをちゃんと考えて出した答えなら...うーん、なんて言えばいいのか分からないが、紗季本人に向き合った方が...』
私が迷ってる時、ミキちゃんはいつも答えをくれた。安心できるように私にとっていい方向にいくようにしてくれた。じゃあミキちゃんが私のことで悩んでいる時、私がミキちゃんを安心させるためになんて言えばいいんだろう。
いや、結局ミキちゃんは私の幸せを望んでいるんだから、結局ポジティブな言葉がいちばん嬉しいのかも。
『ミキちゃん』
『な、なんだ?』
『今日1日楽しんでくる』
『ああ!頑張ってこい!』
結局最後まで背中押されちゃったなぁ。
さて、このお話の終着点を決めよう。まず、私の最初の目的は紗季と仲直り+紗季への暴力事件を止める、この2つだった。じゃあ私の新しい目標は何にしよう。私が後悔しないような選択は、紗季に気持ちを全部伝えればいいんだ。分かり合えなくたっていい、喧嘩したままだっていい。それでも私は紗季のことをきっと嫌いにならない。私が伝えれることはなんだろう...嫌いでも無い、それでも仲良くしたいし、でもそんな仲良くしたいという気持ちじゃ紗季とは分かり合えない...。ああ、ミキちゃんに頼りたい。私の気持ちも行動も全部言葉にして欲しい。
そんな私の面倒臭さを感じながら、私は前を向くしかないんだ。自分のことが好きじゃないから、でもそんな私のことを見てくれてる人が大好きだから、そんな人たちの想いも背負っていくんだ。私は軽く自分の頬をビンタしてみる。
このくらい弱い力ならいいよね、美波。
そういえば私があの時紗季に自分が悪いって言えなかったのはなんでだろう?じゃあ紗季が悪いって思ってるのかな、じゃあ紗季のどんなところが悪いと思っているんだろう?
今の私のことが嫌いな所?途中から聞く耳を持たなかったこと?じゃあ自分の悪い所はなんだろう。紗季の気持ちを全く理解していなかったこと?それとも昔の自分のことが嫌いな所が紗季と噛み合わなかったのかな?でも昔の自分は紗季に当たりが強かった。誰とも仲良くする紗季が...羨ましくて...。いや、昔の私は本当の紗季を知っていたんだ。本当の紗季はめっっちゃ性格悪かったんだ。その事を昔の私は無意識的に理解していたんだ。そんな本当の気持ちを封じ込めている紗季の事が大っ嫌いで...。なんか、わかってきたような気がする。私の言葉は全部紗季にとって耳の痛い話になるかもしれない。もっと喧嘩に発展するかもしれない。いや、そんなこととっくに覚悟してる。
「私の最高の口喧嘩で思い知らせてやる」
ふと我に返ってみると目の前で手を振っている美波の顔が映った。
「ええ!喧嘩するの?」
いや、そんな事は無い。喧嘩と言っても私なりの愛情表現だ。ただそんなことをどうやって伝えれば...。
「というか、もうチャイム鳴った?」
「いや、授業が早めに終わって、私急いで着替えて彪月ちゃんの様子見に来たの」
そういえばちょっとだけ廊下が騒がしくなってきたような気がする。続々と着替えから帰ってきたのだろうか。
「ああごめんね、授業出れなくて」
「全然いいよ。彪月ちゃんにとって、大事な事だったんでしょ?」
「うん、めっちゃ大事な事」
私の事情を言葉にしなくても分かってくれている美波は本当に凄いなと思う。これは私には出来ないこと。でも何かこの美波を凄いなと思う気持ちはどこかで感じたような気がする。憧れに近い...何か。
「それにしても紗季ちゃんと喧嘩してたんだねぇ、私としては仲直りして欲しいよ。きっとどっちも本当は悪い人じゃないもん」
いいえ、紗季には悪いが多分どっちも悪人です。悪人同士の信念が噛み合わずになんか拗れているだけです。
「いやいや、今日中に話に決着つけてやるんだよ私の思いぶつけて、思いっきり喧嘩して、そのまま一生関われないままでも...」
何か私は自分の想いに矛盾した言葉を言うと言葉が詰まってしまう。『一生関われなくてもいい』そんなことは私にとってきっと、嫌なことだと思う。
「何か強がってる?」
確かに私は美波の言う通り無意識的に強がっていたのかもしれない、私は紗季とは分かり合えない。心では分かっているはずなのに、何か他の気持ちが邪魔をしてる。嫌だ、ミキちゃんの想いを背負っているのに、こんな所で私の本当の想いに気づけないなんて。
「ねぇ、私って何に怖がってると思う?」
美波は私の事を分かってくれている。結局自分の気持ちを自分で整理出来ず、他人に頼ってしまうのが悔しいが、きっと、美波なら今の私の強がりに何かピタッとハマる答えをくれるはず。
「え、全然分かんない!」
美波がいつもの調子で言う。
ええ!なんで!?「ええ!なんで!?」
心の声と言葉が同時にリンクした。美波は私の事何でも分かってるミキちゃんみたいな存在だと勝手に決めつけていたのは私だけど、ここまで来て美波も分からないの!?じゃあもう助けてミキちゃん!もう私じゃ何も分からないよー。
「でもね、彪月ちゃん。私、彪月ちゃんと紗季ちゃんと仲直り出来てないのは、やっぱり悲しいよ」
うう、そう言われると仲直りしてみたくなった。でも、後悔を取り除かないと過去に戻る能力が使えない...。え、能力!私そんな些細なことで悩んでたんだ。
「美波!決めたよ!私どんなに時間かかっても絶対紗季と仲直りしてみせる。どんなに時間!かかっても!」
「美波...。うん!それがいいよ!」
何悩んでたんだ私は、能力なんて要らない。そんなものより今私に必要なのはどんなに時間が掛かっても紗季と仲良くしたい。その想いが大事なんだ。
「それにしても災難だねー」
教室に戻る女子が何かザワザワしながら入ってくる。
「そうだよ、授業中に足怪我しちゃうなんて、紗季...平気なフリしてたけど絶対ヤバいよね...あれ」
「今、保健室にいるんだって、大丈夫かな?」
え?紗季が怪我?
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