悪いのはどっち?

『他人に全く興味を示さなかったんだ』


私が今日の夜書いたことがフラッシュバックする。落ち着け、気持ちの整理をすれば、ここですれ違いは無くなるはず。


「私があなたに興味が無いって、そんなことあるわけないじゃん、いつでもあなたは輝いてて、憧れで...」


喉が締め付けられる。本心じゃないのか自分でも分からない、でもこの言葉は全く感情がこもっていない言い訳だということが自分でも理解出来た。


「変わっちゃったよ...彪月は」


とても悲しそうな顔で私を見る紗季。昔はそんな顔しなかっただろ、ずっと笑顔で私と軽口叩きあって、ずっとこのまま居られるような気がして...。


「確かに昔とは変わった。でも何か引っかかるんだよ、あなたとの関わり方に、なんかおかしいと思っちゃうの。私がおかしいのは分かってる、だからあなたから見て、私がどう変わったのか教えて欲しいの」


紗季はもう私の話に興味が無くなっている、そんな気がする。私の言葉が届かなくなっているのを感じて、早口で少しでも自分の気持ちが伝わるように捲したてる。


「お願い、会話も拒否しない、嫌いになんてならない。今興味が無いのはお互い様じゃん、ここから一から関係築いていこ、今から『友達』になろうよ」


今日の夜のような思いはしたくない、友達だから相手を大事に思っているんだ、じゃなきゃ私は今、必死で説得なんてしない。自分の気持ちを押し殺してでも友達になってやる。


「ねぇ、あんた今、私を説得してやるって思ってるでしょ」


図星、だからどうした。ここで関係取り戻さなきゃあなたはもう生きていけなくなるんだよ、私がいないとあなたはダメなんだよ、あなたごときが私の心を読んで私のことを理解した気でいるんじゃないぞ。


ーーー紗季視点ーーー


彪月の表情、彪月は自分ではわかってないと思うけど、今、かなり私の事見下している顔してるんだよ、というか、昔からその顔してたんだよ。あなたに見下されるのが怖いんじゃないの、あなたが無理してその顔を辞めちゃうのが怖いの、心の中の悪感情を表に出す、あなたが好きだった、私のことを考えもせず、私に突っかかってくる、ウザイあなたが...私は心地よかった。この嘘だらけの世界であなただけが唯一の希望だったのに、もうあなたは...昔のあなたは居ないんだね。でも、そんなウザイあなたがいなくなったことで、あなたはこの世界で存在価値を獲得できる。そんなあなたは1人でも生きていける。私に興味が無い?本当にそうだよ、昔のあなたなら私の本質にもっと早く気づいてくれた。だから今のこの世界に勝手に適応したあなたと、無理して周りと合わせている、人気者ぶっている気持ち悪い私と同じ。もうあなたとは縁を切る。昔のあなたを殺して、あなたは周りに合わせて、それを幸せだと感じる、そんな生活を送っていけるようにしてやる。


「ねぇ、分かるでしょ、友達減らしてもいい事ないよ、昔みたいに軽口叩きあって、お互いのこと、もっと理解できるように頑張ろう。大丈夫、関係はこんなとこじゃ崩れたりなんかしない。私が最近あなたの事を無視同然のことをしていたのは謝るから、あなたにとって『良い友達』でありたいの。だから...(ここから先は何が言ってたような気がするが興味が無くて耳に入らない)」


良い友達、あなたからそんな言葉が聞けるなんて私嬉しい、嬉しくて泣きそう、本当に今のあなたは素晴らしい、ロボットに感情が生まれた科学者の気持ちが初めて分かった気がする。

ああ、でもこの人間には心の底から興味が失せた。もうやめよう、友達ごっこは今日でおしまい。


「私たちはまだ!友達としてやっていけるよ!」


うるせぇよごみ、気持ち悪いんだよ、さっきから、お前本当にキモイんだよさっきから、ああ

ゴミがよ。


心の声を喉から出る1歩手前で何とか踏みとどまり、息を思い切り吸って、吐く。


「あなた、今どっちが悪いと思ってんの?」


彪月がびっくりした表情でこっちを見る。


「どういう意味?」

「この会話、私が心を開かない理由、誰が悪いと思う?」


これが最後だ、この答えで彪月から最高の答えが出るのを期待して私は待つ。


「わた...わた...私が...私...が」


彪月が喉を押えてうずくまる。最悪の反応だ。ここでお前が悪いって一言言ってくれてたらまだ会話の余地があったのに。


「私が...悪い...です」


何とか声を絞り出したのか分からないが、最悪の答えには変わらない、ここで私が、なんて返すのを期待してたんだろう、まあ今の彪月の事だし、なんか一生懸命考えてるんだけで全く合ってないんだろうけど


「あっそ」


私は一言言い放ち、その場を去る。なんの未練も無い、この薄っぺらい『友達関係には』


ーーー彪月視点ーーー


なんで紗季との関係が悪くなったか、1個ずつ整理していこう。あ、その前に次の授業体育だった。早く着替えないと...。


無理だ、精神が完全におかしくなってしまう1歩手前くらいに来ている。何を考えてももう無理だと悟っている私がいる。多分根本から何も合わなかったんだ、最初からお互い興味なかったんだ。ここからやり直すことなんて出来ないんだ。


「玉河さん?なんか考え事?」


体育の先生が私を心配してくれている。でも、今は一人にしてほしい。


「すみません、体調悪いので、今日の体育の授業休みます」

「分かりました、念の為保健室行った方がいいんじゃな...」

「行きません。今は1人にして欲しいんです」


先生の言葉を遮り、私は喋る。しかも相当酷い態度、怒られても文句は言えないだろう。


「そう、色々あるんですね、落ち着いたら、途中からでもいいので授業、出てくれると嬉しいです。それじゃあまた今度」


先生は急いで校庭に向かって歩き出す。今日はサッカーだっけ。まあ、どうせ出ないから関係ないけど。それにしても怒られなくてよかった、先生にはいつかお礼を言わなきゃ。


私は誰もいなくなった教室に戻り、項垂れる。チャイムの音が鳴っても、私は頭をあげようとしない。私の何が悪かったんだろう。なんで最近紗季に興味が無くなっていたのだろう。なんで今まで紗季を無視し続けていたのだろう。なんで紗季は急に私に興味が無くなったんだろう。なんであの時、声が出なかったんだろう。


「くそ...何も分かんねぇ」


当然と言ったら当然だ。もう絶望的に私と紗季は分かり合えなくなっているのだろう。きっと、もう私と紗季は友達じゃなくなったんだ。

友達じゃない...つまり、もう紗季の事は何も気にしなくてもいいってことだ。今日の下校で散々殴られちまえ、男に酷い目に遭わされて、トラウマになって、二度と立ち上がれなくなってしまえ、私を突き放すからこれから不幸が訪れるんだ。私のことを好きじゃないから、あなたはこれから一生苦しむだ。しかも、ただ複数の男に痛めつけられて重症を負った、ということしか知らないし、もしかしたらちょっとしたら平気な顔して学校に来ているかもしれないし、そうだよね、だって私が居なくたって紗季は生きていけるって判断したんだもん。あー後悔なんて絶対もう無くなったわ、よし、今日の夜に戻ろう。


私は鞄の中からノートを取りだし、そこに文字を書き込む。


『ミキちゃん、もうなんも後悔してない、早く今日の夜に戻して』


今日から私は紗季のことなんか気にせず普通に生きて、普通に私の人生を楽しむんだ。


『お前は面白い人間だよ、本当に』


何を言ってるんだ。私はずっと真剣だった、真剣に友達について考え、真剣に紗季と向き合い、これから私がどう変わっていくのか、真剣に考えていこうと、未来を向いて生きていこうと決めた時に、こいつは何茶化してきやがるんだ。


『もう何もかも分かったよ、もうこんな能力使わねぇ、誰も助けねぇし、私も苦しみたくねぇ、人間関係なんてクソ喰らえだよ。私反省したよ、自分を特別な存在だと勘違いして、この世界でも救えるヒーローになれるんじゃねえかって勘違いして、本当に気持ち悪い存在だなって思うよ、自分自身が恥ずかしいわ本当に、私はなんも変えられないし、自分のことで精一杯な私だから、周りの奴らと上手く共存していく道をこれから探すんだよ。これから自分なんて殺して、仮面かぶって生きていくことにするよ、その方が人生何倍か幸せになれるだろ』


『えっとな、お前は心残りあるからまだ戻れねぇんだよ。自分の気持ちさえ理解できずに、相手と共存していく?面白いにも程があるだろ。今のお前のことを心の底から好きになるやつなんて今後一生現れない。そんなお前の人生を指して、俺は面白いって言ったんだよ』


どうすればいいんだよ、まだ心残りあるなんて、紗季になんて言えばいいんだよ。これから私はどうやって生きていけばいいんだよ。誰か教えてくれよ、こんな無限に苦しむループから、無限に悩み続けるこの私の気持ち分かってくれよ。


『分かってる、お前の気持ち、全部分かってる』


魂の分際で私のことを完全に理解しているのが悔しい。


『じゃあ教えろよ、この勝負、私を勝たせろ、早く仲直りさせろ。私はもう何をすればいいのか全く分かんない』


『だから仲直りなんて無理に決まってんだろ、俺が出来んのはお前の気持ちを整理することだ。自分の隠された本当の想いに素直になれ、そうしたら後悔なんて無くなるだろう、それが結果的に未来が変わらず、紗季が苦しむことになっても、多分お前が自分のこれからを見つけることが出来たら、きっとお前は未来に帰れるよ』


何も理解できない。でも、私の本当の想いを短時間で見つけ出して、それを紗季にぶつける。たとえ仲直りできなくなっても、もう知らねぇ、私は自分のことを最優先に考えてやる、見てろよ紗季、私は1人で生きてやる。





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