友達の形

ー彪月視点ー


私が数学の授業中、休み時間中の自分を振り返り、どうしてこんな暴れてしまったんだろう、なんでこんな調子乗ってたんだろう。少し時間が経った今、急に羞恥心が襲いかかってくる。正直周りに人がいない状態ならとっくに叫んでいると思う。


「うああああああああ、殺してーー今だけ殺してーーーーーー!!」


私の前の席から羞恥心に耐えられなくなった被害者の声が聞こえてくる。高校1年の5月で一生忘れなくなった黒歴史が刻まれてしまった古賀さんがとても可哀想に思う。


「古賀!何やってんだ、真面目に授業受けろ!」


古賀さんが先生に怒られてしまった。数学の先生は授業妨害にかなり厳しい先生なのでこんな時に羞恥心が襲いかかってしまったのに、更に先生からの説教も襲いかかってくるのは事情を知っている私からしたらかなり同情する。


こういう時、男子が助け舟を出してくれる物だと思っていたが、成績のためか、怒られるのが怖いのか分からないが、先生から目線を外して、巻き込まれないようにじっとしている。


さっきまでお祭り騒ぎだっただろ、こういう時助けるんじゃねえのか、男だろ。


「もしかして、スマホ触ってんじゃないのか!」


先生が古賀さんの席に向かって歩き始める。古賀さんは慌てた様子で正直挙動不審すぎて私ですら隠れてスマホ触ってんじゃないのかと思ってしまうくらいだ、でも違うんです、この人ただ羞恥心に押しつぶされているだけなんです。


先生が古賀さんの机の前に着き、机の上に置かれてある教科書やノートをどかそうとすると...。


「せんせえー女子の机漁るのやめなーい?」

「セクハラー」


クラスの明るい女子、いわゆる一軍女子の援軍が先生の行動を止める。


「俺もやりすぎだと思う、悪かった、許してくれ」


流石に厳しい数学の先生も最近の教育の方針上、いつセクハラや精神的被害で訴えられるのか分からない現状、素直に謝るしかない。

厳しい先生も最近の多様性の時代に適応せざるをえない。


「いえいえ!急に叫んですいませんでした!」


古賀さんは何度も頭を下げて謝る。最近の若者は謝れるやつが少ないからのぉ、自分の非を認められるやつはわしはとっても偉いと思うぞ。


「ああ、でもさっきの私キモかったかなぁ」


古賀さんが先生が黒板の前に着いた時、ボソッと言う。余程さっきの私たちの1件がトラウマになったのか分からないがこんなに心にダメージを負ってる人がいたら、何故か自然と冷静になってしまう私がいた。


そうは言っても今話しかけるのは気まずいと思いながら昼休みまで古賀さんに話しかけるのをやめた。その後何の事件もなく4時間授業が終わり迎える昼休み。


私は古賀さんと昼食をとっていた。


「ねぇ、さっきの私キモくなかった?」


なんかしばらく根にもちそうだ、こういう時はなるべく刺激しないで話題でも変えておくことが本人の為だと思う、トラウマというのは何年経っても厄介なものだから。というか、私の方がキモかったぞ、急に自分の顔殴ろうとするし、可愛い子ぶって男子にアピールするし、私の方が100倍気持ち悪いだろ。


「いやぁ、えーと、話題変えていい?」


私は、うまく言葉が出ずに、とても自然に話題を変える。こんなに自然に話題を変えられては古賀さんも話題を変えられたことに気づかないだろう。


「ああ、うん、この話、やめよっか」


古賀さんが微妙な反応をする。自然に話題を変えたって言ってんだろいい加減にしろ。


とても自然に話題を変えたところで私は自分の悩みを打ち明ける。


「ねえ、仲直りってどうすればいいと思う?」


「誰かと喧嘩中?」


どうなんだろ喧嘩とは言えない、私が勝手にモヤモヤして、もしこのモヤモヤが取れなかったら過去に戻る能力が戻んなくなってしまう。

なんて言えない。


「うーん、勝手に私が距離感じてるって言うか」


上手く言葉が出ない、そりゃ私が原因で未来で紗季が酷い目に合っているんだ、こんなに負い目を感じておいて、普通に接するのはかなり難易度が高い。


「とにかく、なんか、自然に、接したい」


かなり曖昧な返答だったが古賀さんは微妙な反応をせずにいつもの笑顔で私の話を聞いてくれていた。


「ねぇ、美波って呼んでよ」

「え?なんで?」


なんで?という言葉が反射で出てきてしまった。コミュニケーション下手すぎ、何でもかんでも理由を求めようとするな、こういう所だぞ私。


「み、美波」


とりあえず言ってみることにした。なんの手応えも無い、ただの単語として、私はみなみ、と言った。


「うーん、なんか足りないんだよなぁ」


「え、何が?」


今度の疑問は反射ではなく考えた上での疑問だ、一応相手の言葉どおりに従ったはずなのに微妙な反応をされてしまった。


「結論から申し上げます」


古賀さんが神妙な面持ちで真っ直ぐ私の方を見る。私が紗季と距離感を感じている理由がこの短時間で当てられているとしたら、やっぱり古賀さんは人のことをよく見ていて凄いと思ってしまう。もしかしたらエスパーなのかもしれない、いや、私本人が原因を分かってないのに心を読んだとしても無駄か。


「なんか、私とも距離感じているでしょ?」

「ええ?そんなはずないよ、古賀さんとはとても凄いって思ってるし...」

「美波って呼んでよ!」

「うわ、ごめん!古賀さん!」


なんか不毛な争いをしたけどこれが紗季と仲直りできない理由?一体どういうこと?


「えっと、私もあんまり分かってないんだけど」


古賀さんがムスッとした顔でいる。本気で怒っているのか怒っていないのか分からないが全人類古賀さんの怒った顔を参考にして欲しいくらいにかわいい怒り方だ。


「なんか思い込みなんじゃない?相手は私の事あんまり気にしてないっていう軽い気持ちで話しかけてみたらどう?」


イマイチピンと来ないが人間関係上手な古賀さんが言うならそういうことだろう。今度あったら軽い気持ちで話しかけてみよう。そうしたら何かいい方向にいく気がする。


「美波ちゃん、提出物の整理手伝ってくれない?」


6時間目の授業の生物の女の先生が古賀さんに手伝いを求める。


いや、こういう時に友達を思いやれる人が真の友達だ。


「私にやらせてください」


友達ならそうした。きっと軽い気持ちで色々任せられる、信頼していられるのが友達の形だと思う。


「そう?じゃあ任せちゃうね」


私は先生に着いていって職員室に向かって歩き出す。


「信頼...任せてばかりなのが友達なのかな...」


古賀さんのつぶやきは私の耳には届かなかった。


職員室に着き、他クラスとバラバラになっているノートの整理を任された。ただのクラスを見て出席番号順に並べるだけなのでとても簡単だ、でももっと難しいことでも友達のためにやれることがあるなら私はどんな事でもしたい、それが軽い気持ちで任せられる友達の形だから


「この子、絶対答え写したね」


怖いセリフが後ろから聞こえた。こうやってサラッと成績が下げられているのかと、答えを写してるのが簡単にバレてしまう、そんな厳しい世界だということを知り、勉強頑張ろうと私は決意した。でも未来の私がそれを守るとは考えなかったが、まあ、未来の私が頑張るでしょうと無責任な今の私は未来の私のことを勝手にポジティブに考えてみることにした。


「ありがとね、成績伸ばしてあげようかしら?」

「ここで、はい!って言ったら成績下げられませんか?」

「そんな事しないわよ、手伝ってもらったのに、でも、他人の成績を下げてくださいってお願いだったら、ちょっと私も考えちゃう」


他人の足を引っ張るのはもうやめよう。そんなことしても結局不幸は巡って自分に返ってくるのだから。


「改めて、本当にありがとね、5時間目体育でしょ?時間、ちゃんと見なよ」

「分かりました、ありがとうございました。」


職員室から抜け出した私は自分のクラスに戻ろうとする。そうしたら...。


「あ...」


紗季と出会ってしまった。会いたくなかった、というのは酷い話だと思うが、今はまだ気持ちの整理がつかない、何を話せばいいの全く浮かばない、仲直りってなんだ、今の私の気持ちってなんだ?そんなことばかり頭に巡っている。


「ねぇ、私、ごめんなさい」

「朝のこと?全然気にしてないよ、私色んなことに耐性あるから、ネットで活動してるからね」


流石紗季と言うべきか、ただ友達という関係なのか、今の私は紗季にふさわしいのか、未来のこと、そして今のこと、未来で紗季が苦しむのが分かっているからこそ、自分が責任を感じているからこそ、なんだか今の友達という関係が私にとっては重く感じてしまう。

一言で表現するなら、私は紗季友達としてふさわしいのか悩んでいる。


私が取らなきゃ、苦しみを知ってる私が、せっかく過去に戻ったんだ、しっかりしなきゃ。


「ねぇ、私...!」


私が生半可な覚悟を決めて話しかけようとするも、返ってくるのは予想外の言葉だった。


「今はいいよ、無理して話して来ないでも、

それに、もうあなたは私に興味が無くなったんでしょ?」





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