私なんて
「おっ、なんだなんだ!喧嘩か!?」
私の拳を止める音が思いの外響いてしまったのか、なにか良くない雰囲気が教室に漂ってしまったのか分からないが、どうやら私たちの騒ぎが教室中の男子に聞きつけられてしまったのだろう。
(違う、私が勝手に暴れただけで...)
声を出そうと思っても上手く出せない、私は古賀さんからも逃げて、ここでも責任から逃げるのか。学校では目立ったやつは目立ったなりの責任があると私は思う、出る杭は打たれるという意味では無いが、話題のスタートダッシュをきった人間は最後のゴールまでクラス中を巻き込んで走り出さなくてはならない、というのが学校の暗黙の了解だと勝手に思っている。
クラス中の男子の視線が私たちに集まる。女子同士の喧嘩というのは男子にとってレアイベントなのだろうか。生で見るのは初めてかもしれないけど、裏ではこういう喧嘩は恒例行事なんだからね!私まだ女子とは喧嘩したことないけど!てか今喧嘩なんかしてないけど!
「やばいぞ!古賀さんの閉じられた目に隠された能力が発動してしまう!」
「普段大人しいやつが怒ったら、教室のガラスがとんでもない事になるとこの前動画で見たことがある!」
「誰か麻酔銃を!クマが出たぞ!」
「どっちだ!どっちがルパンなんだ!」
「私の為に争わないでーーーー!」
笑いのバトンが教室中に飛び交っている。男子のお祭り騒ぎが加速する度に私たちのハードルもどんどん上がっていく気がする。それなのに私は下を向くことしか出来ない。自分を卑下している時間なんて無いのに。
「しょくーーん!鎮まりたまえーー!」
クラスの騒ぎを収めるために古賀さんが声を張る。この空気感で、クラス中の注目が古賀さんの方に向かっている。私なりの言葉でまとめると今笑いのバトンを全て古賀さんが受け取っている。ただ問題はこれからだ、注目が集まったからこそ緊張感と責任が乗っかる。大丈夫かな...古賀さん。
「ネクストミナミズヒーント!」
古賀さんが笑顔を崩さず、クラスのみんなを巻き込む。私もまるで観客みたいに古賀さんの顔を間近で見る。その顔は緊張感なんで全く感じない、自分が中心だと言いたそうな顔で、それでも周りをしっかりと見ていて、こういう人がクラスの人気ものになるんだなと格の違いを思い知らされる。
「ヒントはなんなんだよ!」
「授業始まっちまうよ!」
焦らされた男子たちはヤジを飛ばし次の言葉を今か今かと待ち構える、次の授業があと1分だと言うのに他クラスの人が戻らなかったり色んな人が古賀さんに注目しているのは古賀さんの底知れぬ魅力あってこそなのか。でも授業が始まってしまうとギャグの導線が不完全燃焼のまま終わってしまう。どうやって収拾をつかせる気なんだ。
「犯人」
そう言いながら破ったノートを真上に掲げる。
そこには...。
『↓犯人』
と書かれてあった。ちょうど矢印が古賀さんを指していた。いつ間にか準備していたのか、それとも場の空気によってパターンを色々用意していたのか分からないが、これじゃあ古賀さんが1人で問題を抱えることになってしまう。
「お前が犯人だったのか!」
「悪人には裁きを!」
「石を投げれる覚悟がある人だけ石を投げなさい!」
周りの男子が余計に騒ぎ立て、この話がクラス外にも伝染する。
やっぱりだ、収拾はつかない。なぜなら『私たちの喧嘩を収める』解決には至ってないからだ。だから標的が見つかったから今、全員の気持ちが古賀さんに向き、完全にこの場を古賀さんに何か償いをさせて収めるという認識で埋めつくされてしまった。このまま私が知らんぷりして逃げ切れば善人のまま終われる...わけが無い。1部の男子以外には私がこう見えている、ビビって目立つのを嫌った挙句、古賀さんの影に隠れて集団で古賀さんが虐められているのを見ている、つまり私は場の空気によって集団いじめに加担するような人だと思われてしまうのだ。私の次のアクションを待っているのは、助けを求めているのは古賀さんだ、何とかして自分の力でこの場を収めないと...。
でも、そんな力は無かった、私には分かっているんだ、自分がしくじる未来が、無謀なことを避けたいという甘えによる言い訳をする自分が。
そして分かっていないのはこの場を収める方法だ。
「ただぁ!」
古賀さんが周りの男子に向かって声を張る。古賀さんは完全に場を掌握したお笑い芸人のように満足そうな明るい顔をしていた。今最も注目されているのは古賀さんで、悪者役を引き受けたのも古賀さんの次の行動をより引き立たせるため。私じゃ出来ない、今最も周りの視線を浴びている、古賀さんにこそ出来る行動。
「石を投げるのには条件がある!」
「なんだよ!」
「石投げる覚悟は出来ているぞ!」
「それは...」
「毎日爪を綺麗にしている男子だけだー!」
古賀さんは手の甲を上に掲げ、爪を見せる。もちろんと言っていいのか分からないが、古賀さんの爪はとっても綺麗だった。
よく分からないけど、なんか専門家みたいだ。クラスの場を掌握する専門家、私はこういう古賀さんみたいに輝いている人に口を挟むなっていう教訓を今日教えてもらった。私より目立っている人が隣にいると本能的にちょっと悔しくなる時もあるだろう、でも私は今全く悔しくないんだ。その理由は自分でも分からないけど。
「やべぇ!俺爪きたねぇんだけど」
「おい!爪綺麗なヤツ連れてこい!」
「今まで爪なんか気にしたことねえよ」
なんだかよくわからないけど、周りの男子が完全に論破されたかのように負け犬ムードだ、しかもそれだけでは無い、周りの女子は男子のことを蔑んだ目で見ている。今まで古賀さんだけが攻撃されていた一連の流れが一転して男子全体が注目され始めたからだ。実は古賀さんだけが色々言われた事に内心腹を立てて言葉の爪を研いでいた女子もいたのだろう、それが今完全に男子が負ける流れになり、しかも攻撃する隙を古賀さんが与えることにより、汚いや不潔と言った、いわゆる今最も言われたくない急所を突く一言が男子を貫く。
それに加え男子は古賀さんの爪の話題を無視して攻めることが出来ないのだ、周りの女子を味方に付け、しかもクラスで1番目立っていたやつからの男子全員への反論、影響力のもった人間の言葉がどんなに筋が通ってない唐突な言い訳だったとしても自分たちがその言い訳に勝てない状況だと...なんか、黙っちゃうらしい。どんなに自分が不利な状況でも、どんなに不安定なコースでもバトンを受け取って走らないリレー選手がいないように、必ずどんな重たいバトンでも男子は走り出してしまう、それが古賀さんからの論破+女子からの蔑みだとしてもだ。よく分からないけど笑いのリレーの世界というものは厳しい世界だ。
ただ、今古賀さんにも出来ないことがある、私にしか出来ないことが、それは男子のフォローだ。
だから、私がそれくらいしてやる。
「あの!」
私は前を向き、男子を指さす、古賀さんは驚いた様子で私を見ている、男子の注目が私に集まっているのが分かる。
「私も共犯者です!」
私なんて目立たなくてもいい。でも誰かが責められたまま、不完全燃焼のまま終わるくらいなら少しくらい私が浮いてやる。
「どんどん石投げていいからな!かかってこい!」
私はとびきりの笑顔で男子に微笑んでやった。父親は顔でお母さんを選んだのか分からないが遺伝の力によって母親似の美人になった私から情けないお前らにサービスを恵んでやるんだからなこの野郎!
「て、天使だー!」
「かわええー!」
男子は私のことを神のように崇めている。
そうだそうだ、私は戦いを収める神にして、
顔だけはとってもいい女なんだぞ!
チャイムが鳴る、その音はいつも聞き慣れている音だが、今だけは終戦の合図に聞こえてくるのは私の錯覚なのか。
とりあえず、私の長い1分はこれにて終了しました。
ー紗季視点ー
男子の後ろに隠れて古賀さんの騒動を見ていた。結局彪月は昔と同じで度胸があって、可愛くて、私なんか眼中に無いのかもしれない。私がいて彪月に影響を与えて、彪月にとって私が特別な存在になっていたかもしれない、そんな自惚れはもう辞める。私無しでも彪月は大丈夫、なんて上から目線で考えていたかもしれない、でも私が彪月を閉じ込めていたのかも、友達として思うなら私なんて忘れてほしい。
「私、居なくていいじゃん」
授業の始まりのチャイムに隠れるように私はボソッとつぶやいた。
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