私の友達

ー紗季視点ー


さっきからずっと彪月が俯いたままだ。私が何か気に障ることをしてしまったのか心配だが、正直きっと何日か経ったら元気になるだろうと思っている。でもなんでこんな元気が無いのだろう、そもそも元気があるかないかの問題なんだろうか。この子のことだ、もっと何か大きなものと戦っているような気が...まぁしないけど。そんなことを考えていたら

何も話さないままもう学校に着いてしまった。

多分心配する必要なんて無くても良かったってなりそうだけど。


「もう学校着いたよ!」


私は無理やり高いテンションを捻り出し声を張る。悩みが何か分からないけど私だけでも元気に接してあげよう。


「ふぇえ、ああ、ぬん、分かってるワカッテル」


彪月が急に顔を上げたと思ったら舌が回っておらず、声にならない声を出している。


なんか上の空って感じだ、私の言葉に興味が無いのか、でもまあ私に完全に興味を無くしてしまうのは少し悲しい気もする。それでも、私が出来ることは彪月の悩んでる原因を考えることでも、寄り添ってあげることでもないのは分かっている。なんだかんだこういうのは時間が解決してくれるのだ。だってこの子はこう見えて普通の人の何十倍も強い子だから。


ー彪月視点ー


何も自分の中で整理がつかないまま学校に着いてしまった。紗季は高校のクラスの中でも人気者だからそんな人と関わる機会をくれた中学校時代はとっても貴重だと改めて感じた。その頃私は色々とヤンチャしていた時だからあまり考え込まず相手に明るく接することが出来ていた時期だと思う。でも高校に入ってからそんな自分を変えようと思っていたが、それは結局自己満足するための一人会議遊びでもしていただけで相手のことを考えることをしなかったんだと改めて今の自分の不甲斐なさに気付かされる。


「昨日の歌ってみためっちゃ可愛かった!」


紗季の方から楽しそうな話し声がする。


「恥ずかしいよー!」


紗季が笑いながら答える。日常会話から楽しいが溢れている、そんな紗季の自分への探究心というか自分のことを表現する力は周りの人を引きつけるのだろう、楽しそうな姿を見ていると自分も思わず楽しい気分になってしまう、本当に人気になるべくしてなった人間だと私は思う。


そういえば私は紗季にどんな話をしていたのか思い出そうにも思い出せない。私は人を褒めることをしていたのだろうか、それとも自分の自慢話ばかりしていたのだろうか、たわいもない日常会話をして紗季は笑っていたのだろうか。紗季を褒めている記憶が無いということはもしかして私が紗季のことを嫌って...。


「一体なぜ玉河さんは机をガン見しているのか、元気がないのか、はたまた面白いネタでも考えているのか、それとも」


聞き覚えのある声が私の後ろから聞こえる、その声の主は喋りながら私の前の席に座る。


「ぼっちなのか」


私のことをさりげなく煽ってきた声の主は古賀 美波さんという女の子。いつも笑顔でとっても空気を読むのが上手い人である。でも目はいつも開いてない。


「その謎を解明するため美波ちゃん探検隊はあなたの心の奥に忍び込む。悩みを消しされ!ドキドキ、パーフェクトガール」


椅子を私の机に近づけ私の顔に人差し指をつきだす。


「出発進行」


キメ顔で私にアピールしてきた。


「って、ごめんね!悩んでるよね」


いつも彼女は落ち込んでいる相手のことを上手くフォローしてくれる。本当に空気を読むのが上手いのか、相手の心を見透かすのが上手いのか分からないが彼女の前では心を許してしまう人が多いみたいだ。それに私が心を許してしまう理由はもうひとつある。


「私そんなに机ガン見してたの?」


いつの間にか行動に出るまでまで私は考え込んでいたのかと自分に恐怖している。


「そうなんだよー、大丈夫!?私でよければなんでも話聞くよ!」


「それじゃあ、さっそく聞いてもらおうかなー。と、その前に授業の準備しなくちゃね」


私たちはロッカーに教科書とノートを取りに行く。1時間目は歴史、歴史の先生は黒板の前からなかなか離れないのでクラスの中では歴史の時間中に寝たり、隠れてスマホをいじったりして自由時間のように遊んでいる人も少しいたりするのだ。


私たちがロッカーから自分たちの席に座った瞬間チャイムが鳴る。いつもはみんな慌ててロッカーに教科書を取りに行くのだが全員余裕ぶって教科書を取りに行くことすらしない。というか、スマホを起動しイヤホンを耳にはめ、寝る準備をしているものすらいる。


歴史の先生が遅れてやってきた。


「はい起立!」


クラスの陽キャな男子生徒が先生が言う前に勢いよく声を張る。


始まりの挨拶と終わりの挨拶、これさえちゃんとすればあとは自由時間のようなものなので挨拶だけはちゃんとする男子が多い、正直私はこの風潮は面白くて好きな方だ。


「気をつけ!礼!」


「お願いします!!!(ありがとうございました!)」


男子グループが体育会系の部活並の声量で挨拶をする。ていうか誰だ1人で授業終わらせてるやつ。


さて、この自由時間とも言える歴史の授業中だが、私は何をするかというと。


「早速始めちゃう?」


小声で古賀さんが私に話しかける。そう、何を始めるかというと。


古賀さんがノートのページを1ページ破り、私に回す。そこには『なんでも言ってね』と書いてある。


そう何を始めるかというと、文字での語らい。私が面と向かって初対面の人に悩みを打ち明けることが難しいため、古賀さんは私の好きなフォーマットで悩みを聞いてくれるようになった。これなら、他の授業中にもあまり怪しまれずに会話することが出来る。もちろん私が古賀さんに気を許せるようになった理由が古賀さんが私に合わせてくれるからという理由だ、今までおすすめの本を勧めても断られたことが1度もない。私には勿体ないくらい良い友達だ。


『本当に気を使わせちまってるなお前』


私のノートに書いた覚えのない文字がある。

あ、そういえばミキちゃんがいた事をすっかり忘れてしまっていた。


『本当にそうだよ、優しいって言葉じゃ足りないくらいのこういう友達が欲しかったんだってって言う妄想が現実になっちゃったくらいの友達に巡り会えたんだよ』


普段私は人を褒めない、それは昔紗季という人気者のいわゆる超人とでも言えるようなスーパースターの素質を持った女の子を褒めた記憶が無いことから私が愚かな性格は明らかだろう、でもそんな私でも褒めてしまう古賀さんの【優しい】という特性は心が狭い私の信頼を100パーセント勝ち取る唯一無二の人物だと相手の事ながら自分の事のように自慢気になってしまう。


『ああ、文字から元気な所、優しいところが伝わってくるんだが...』


なんだか少し言いづらそうな話題なのか、もしかして古賀さんの本性は悪に染まった根っからの悪者でそれを社会にバレないように隠している、いわゆる怒らせたらやばいタイプの人間なのか!


『いやそうじゃない』


私の心が完全に見透かされている。まあ、私に取り憑いた魂なんだし、私のことが分かっていても当たり前か。


『大丈夫?まだ白紙だけど、本当は話したくなくないくらい重いやつだったら私無理やり聞かないからね?』


おおっと!古賀さんのノートにいつの間にか文が書き込まれている。これはまずい、ひとつの事に集中してしまうとなかなか自分で切り替えが出来ないのがわたしの欠点。


『人を待たせるなよ』


私のノートにミキちゃんのお怒りメッセージが書かれている。おまえのせいだばか。


『かなり待ってもらうけどいい?』


この文しか思いつかなかった。なにか気の利く一言でも付け加えれば良かったが、私は自分のことで頭がいっぱいになってしまって、他人に気を利かせる言葉が出てこない、という言い訳を考えてはみるものの実際はただ私が気の利かない性格だからということは自分がよく知っている、ただ古賀さんに言い訳はしたくない、余計自分が惨めになるだけだ。


『脳内はうるさいのにアウトプットが本当に下手くそだなお前』


ミキちゃんから煽られた。しね、いや、もう死んでる?


古賀さんの背中をポンポンと叩く、振り返る古賀さんにノートを見せる。そうするとコクリと笑って頷いてくれた。


『まずミキちゃんが言い淀んだことを教えてもらおうか』


私は怒りのままミキちゃんに話しかける。


『まず、俺は文章から人柄や今思っていること、それから過去が何となくわかるんだ』


なるほど、過去ね。ただそれと古賀さんになんの関係があるんだろう。


『お前の前の席のやつはとっても優しい子だ。これは間違いない、もちろん優しさに裏は無いし、いい子なのは誰の目から見ても明らかだと思う』


じゃあなんでさっき言い淀んだのだろう?

私には相手の発言の意図や発言から色んな可能性を考える探偵のような推理力がないためただミキちゃんの次の文をただ待った。


そして私のノートには前の席にいる彼女が少し遠く感じてしまうような怖い文が刻まれていた。


『でもな...こいつの過去が全く見えないんだ』






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