第89話 RGB
「大司教?……貴女は……」
「しーー!」
ペンティアムは人指し指を唇に立てて、シヴに沈黙を促す
「私は、聖教会大司教ペンティアム
それ以上でもそれ以下でも無い、良いわね?」
「……はい」
「解ってくれて嬉しいわ」
ペンティアムは、シヴの手を取り立たせると、ソファーに座るように促す
シヴはミカエラの対面に腰掛け、アズラエルとアリエルはそれぞれシヴの後ろに控えた
ペンティアムはルシフェラと共にミカエラを挟むように腰掛ける
ラムエラとバラキエラはアシュタローテとミカエルに起こされた
「……だれ?」
「改めて自己紹介させて頂きます、私は天上の神トールの妻シヴ、後ろに控える天使はアズラエルとアリエル」
シヴの紹介に合わせて、二人も頭を下げる
「私はもう言わないわよ?同じ事繰り返すのは嫌いなの」
ミカエラは、テーブルの上に乗せたブーツの足先をブラブラさせながら不機嫌さを隠そうともしない
ルシフェラはワインを呑み続け、ペンティアムは煙草に火を着ける
「で?夜中に大勢で押し掛けたのは何なのよ?
納得出来る理由が有るんでしょうね?」
大勢と言いながら、今残って居るのは目の前の三人だけである
少なくとも六つの流星は、ミカエラがブレスで破壊してしまった
「先ずは、危ない処を助けて頂いた事に、感謝しますミカエラ様」
「助けた?」
当然だが、ミカエラにそんな自覚は無い
「はい、実は天界では今、戦が起きそうなのですが、その煽りで私は権能を奪われ、命からがら逃げておりました
地上に新たに昇神された、ミカエラ様の噂を頼りにやって参りました折、追っ手を駆逐なさってくださり助かった次第です」
どうやら、ミカエラが撃ち落とした流星は、シヴへの追っ手だった様だ
(あれ?もしかして結果オーライ?)
「主神トールはどうしている?」
煙草の煙を吐きながらペンティアムが聞く
「我が夫はオーディンの裏切りにより神器ミョルニルを奪われ投獄され、幽閉されております」
「何故そんな事に?」
「実は半年程前の事ですが、突如天界に灼熱と爆風の嵐が吹き荒れ、始めは冥府のスルトの仕業では無いかと噂されたのですが、同時期に地獄も何やら大変な様相で……その騒ぎで妻と子を失ったオーディンは、トールが自分を貶める陰謀であると決め付け、謀反を起こしたのです」
「ほう、半年前とな」
「そう言えば、ロキも大変だったわね」
ペンティアムもルシフェラも、すっとぼける
思い切り心当たりの有るアシュタローテは、子供達の口を塞いで、耳打ちする
(良い?アナタ達は何も知らない、地獄へ行った事も無い、オーケー?アンダスタン?)
コクコクと頷く二人
あの時
暴走したミラクラが、地獄の魔素をかき集め凝縮した超巨大なエネルギーを、自我を取り戻した子供達が、咄嗟に亜空間の裂け目に放り込んだ
シヴの話しと時期的に合致するのは、恐らく気のせいでは無いだろう
この中で、全く事情を知らないのは、ミカエラとミカエルだけだ
「傍迷惑な野郎だな!て言うかナニ?私ってば天界で、その、有名だったりするの?」
「え?ええ、若くして猛々しい人神が地上に顕れたと、天界ではもっぱらの評判ですよ?」
「んふ、んふふ猛々しいかぁ、そっかー!」
すっかり頬の緩んだミカエラは、上機嫌でワイングラスを取り出すとシヴ達に勧めた
「まあ飲んで飲んで!遠い所から大変だったでしょ?」
初対面の時とは打って代わって上機嫌なミカエラに、シヴは思わず失笑する
「いえ、私共は……あら!凄く良い香り!?
ではじゃあ、ちょっとだけ……ヤダ!美味しい!何?コレ!?」
「あはぁ~ん?
美味しいでしょ!私の自慢のワインなの♡」
ルシフェラが、ここぞと身を乗り出す
「あら、そうな……の……って貴女は!」
「今頃、気付いた?可愛いカ・ミ・サ・マ♪」
「明けの明星!?どうしてここに居るの!」
ブーーーーーーッッ!?
アズラエルとアリエルが揃ってワインを吹き出した
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