第88話 Monster


「止めなさい!!私に恥をかかせる積もりですかっ!?」


 ミカエラに対して抜剣した二人がシヴに叱られるが、それより前にミカエラは二人の剣を握った手首を切り落としていた


ガシャ、カランッ!

「!?」「っ!」

「遅せーよ、アンタ達」


 手首からだくだくと血を流す二人を無視して、ミカエラの剣先は、シヴの喉元に突き付けられている


「用ってのは殺し合いか?断る理由が見当たら無えから、喜んで受けてやるぜ」


 ミカエラは卍丸に魔力を流すと、冷やかな眼でシヴを見詰めた


「聞いていたより遥かに凄い、剣の腕ね……

 手の早さも噂通り、私の連れの無礼を謝るわ、ご免なさい」


 シヴは謝罪すると眼を閉じる

 生殺与奪の権利をミカエラに預けた格好だ


「シヴ様!?いけません!」

 配下の一人が、シヴを後ろへ下がらせようと動いたが、その手が届く前にフードごと両目を斬り付けてやる


「ギャッッ!」

 美しい顔に横一直線に傷が走り、両目は失われた

「アズラエル!?」


「テメーの連れは馬鹿なのか?それとも早死にしてえのか?」


「ミカエラ、落ち着きなさい」

 ここでペンティアムが止めた


「え~?だって先に抜いたのはコイツ等ですよ?売られた喧嘩は買わない道理は無いでしょ?

 私、死にたく無いもん」


 ミカエラがペンティアムを振り返ると、残ったもう一人が、左手に短剣を握ってミカエラに襲い掛かる

「!?」ズダン!


 短剣がミカエラに届く前に、そいつの両足を斬り落としていた


「テメーが間抜けだから、二人とも可哀相な事になっちまってるわよ?」


「アリエル!?何て事を……」


「何だ、二人とも天使か?いちいち面倒臭えから、お前らダルマになっとくか?て言うか死ねよもう」


 ミカエラは躊躇わずに足元のアリエルに止めを刺そうとするが、シヴがその上に覆い被さる


「何の真似だい、お姉さん?邪魔するとアンタも殺すよ」


「シヴ様!?いけません!お止めください」


「もう良いや、何も無かったって事でさっさと酒呑みたいから、纏めて死んどけ?」

「!!」

 シヴは観念したのかギュッと眼を閉じる


「ミカエラ」

 ペンティアムが、振りかぶったミカエラの手を掴んで止める


「ちぇっ、分かりましたよ」

 ミカエラは卍丸を仕舞うと、ルシフェラの横にドカッと腰掛け、テーブルの上に足を投げ出し、ワインボトルをラッパ飲みする


「良く我慢したわね、偉いわ」

 ルシフェラがウインクしながらグラスを持ち上げ、褒めてきた


 ミカエルが聖魔法の効果を上げる歌を、静かに唄い出した

 ペンティアムが傷付いた二人の天使に治療を施している様だ


「何かアタシだけ悪者っぽく無い?」


「何言ってんだ、どう考えたってアイツ等が悪いだろ」

 アシュタローテが言う通り、状況的にミカエラに非は無い


 アシュタローテのタトゥーが、首元から顔半分にまで蠢きながら拡がって行く

 かなり機嫌が悪い様だ

 タトゥーの紋様が、様々な悪魔の姿に移り変わり、現れては消えて行く


「ありがと、アーシュ♡」

「……ん」

 ミカエラが顔を上げると、アシュタローテがキスをする

 すると、顔面に拡がっていたタトゥーは消えて、いつものアシュタローテの顔に戻る


「堕天使を娶ったとは聞いたが、まさか本当だとは……」


「シヴ様、こ奴本当に神の仲間入りを果たした聖女なのですか?」

 傷が癒えたアズラエルとアリエルが問い掛ける


「お黙りなさい!私達が、今生きていられるのは、ミカエラ様の慈悲と知りなさい!」

 シヴに叱責されて、二人は片膝を着いて跪き、頭を垂れる


「数々のご無礼、謝罪致します」

「ミカエラ様のご慈悲に感謝致します」


「けっ!」

 ミカエラはワインをガブ飲みして、そっぽを向く

「聖女ミカエラに代わり、大司教の私が謝罪を受け入れましょう」


「大司教?……貴女は……」

「しーーっ!」


 


 

 


 

 


  


 


 

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