第87話 Haven't


「しかし、トールの妻か……確かシヴと言ったな」


「知り合いですか、師匠?」

 例え神に知り合いが居ると言われても、今更驚くに値しないとさえ思えてくる


「うむ、……え?いや、そんな筈は無かろうが馬鹿者!私を何だと思っている」

 一度は肯定したものの、慌てて否定するペンティアム


「先生って何者?」

「凄い物知りだから、神様に知り合いくらい居てもおかしく無いよね?」

 バラキエラとラムエラが好き勝手な事を言い出した


「し、神話!神話の記述を思い出してたのよ!」


「それにしたって、雪も降ってるのに、わざわざ歩いて来るなんて物好きねぇ……あ、天界も雪降らないからかしら?」

 とルシフェラがフォローする


「でも、眠いよわたし」

「私も~」


「ラムエラと、バラキエラは寝てて良いわよ?

 来たら起こしてあげるから」


「分かった~おやすみ」

「ご免なさい、お母さん」

 ラムエラとバラキエラはソファーに横になるなり、スヤスヤと寝てしまう

 余程眠たかったのだろう


 気付けばヨルムンガンデも、いつの間にか眠っている


「あ~あ、私だってホントなら今頃皆と……」

 ミカエラは、徹夜の乱痴気騒ぎが出来なくなって不満だった

 昨日、徹夜で乱れた挙げ句、祝福の儀を眠たくなってスッポかした事など、何とも思っていなかった


「それにしても、わざわざ門を通って来るなんて、敵対しに来た訳じゃ無いのかしらね?」

 なんとなく当てが外れたルシフェラが、ワインを呑みながら言う


「それにしちゃ、随分と傍迷惑な登場の仕方だわ、思わず撃ち落としちゃったじゃない」

 ミカエラは自分のヤらかしを、誤魔化したいが、撃ち落としたと言う事は、犠牲者が出ている可能性も有る


 相手が平和的目的で訪れたとするならば、外交的には不味いだろう、と言うくらいはミカエラにも理解できた


「うむ、……責任はミカエラに在るわね」

「ええっ、私?」

 ペンティアムの一言に慌てるミカエラ


「まあまあ、相手の出方次第よね?

 とりあえず話を聞いてから、考えましょ?」

「ルーシー良い事言う!そうよ、私悪くないもの?」

 ミカエラはワインのボトルを鷲掴むと、ゴキュゴキュと一気にラッパ飲みする


 いっその事、酔っ払って現実逃避してしまいたかった


「そう言うところだよ、テメーは」

「そう言うところです」

 アシュタローテとミカエルが、憑依を解いて突っ込む


「なによ、アンタ達?私の味方してくれないの?」


「いや、撃墜したのは家族を護る為に当然だろ」


「聖都防衛の為にやむを得ません!」


「だけど、酒に逃げるのはミカエラらしく無えって言ってんだよ」

「そうですわ!ラムエラに胸を張れる母親で居てください!」


「むう……悪かったわよ」


 ペンティアムとルシフェラは、ニヤニヤ笑いながら見ているが、気持ちは同じだろう


 なんとなくバツが悪くなったミカエラは、子供達に毛布を掛けてやる


「どうやら来たようなのじゃ」

 いきなりヨルムンガンデが眼を開き、来訪者の到着を告げる


「……私が出る」

「必要有るまい、勝手に入って来ておるわ」

 

「は?」


 間もなく、ドカドカとブーツで床板を踏む足音が響くと、雪まみれの一行が姿を表す


 先頭の女が雪が積もったフードを払うと、真っ赤な赤毛が顕になった


 残る二人はフードを目深に被ったままで、表情は分からないが、背格好から恐らく女性だろうと見当を着ける


 見た感じ、武装は腰の剣だけに見えるが、天界の神々ならば武器など召還出来る可能性が高い


 ルシフェラとペンティアムはソファーにふんぞり返ったまま、動かない

 アシュタローテとミカエラは寝ている子供達の側に

 ミカエラは一人、腕組みをして招かざる客に相対した


「夜分にいきなり押し掛けて申し訳ありません

 我は天上神トールの妻、シヴ

 突然の非礼をお詫び致します」


「私は聖女ミカエラ、門衛から伝え聞いた話しだと、私に用が有るそうだけど?」


 途端に、後ろに控えていた二人が抜剣する

「貴様!シヴ様に向かって、その口の利き方は無礼であるぞ!」

「そこへ直れ!素っ首跳ねてくれる!」


 

 


 

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