第77話 Don't wanna cry


「はじめまして、ライゼンです、おかあさま」


 小さな黒龍は女の子に変化して、ミカエラに挨拶した


「おかあさま?え、私!?」

「ん♡」


「あの時、どさくさに紛れて、セレロンもちゃっかりミカエラの子供を授かってるのよ」


「ええっ!お姉ちゃん?ナニしてんの?」


「秘められた禁断の愛の証し……♡」

 理解出来ていなかったのは、ミカエラだけであった


「いやだって、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、ワタシは妹で……ええーーーーっ!?」


「まあ、女同士で結婚して子供を授かってるんだから、今さらって言えば今さらよねぇ」

 アシュタローテは呆れている


 ライゼンと呼ばれた女の子は、イクリプスの所まで歩くと、いきなりペチン!とビンタした

 

「しんせいな女のそのに、ナンでけがらわしい男がいるのよ!出ていって!」

「え?」「は?」「あら」


「ちょ、ちょっと!何してくれるのよ?」

 クレセントが慌ててイクリプスを抱き寄せる


 ぶたれたイクリプスは、何が何だか分からずにポカンとしていたが、すぐにムッとした顔になる


「なに言ってるんだい、あとから来たくせに!」


「なあんですって?やる気!?」


 ライゼンが握り拳を作ると、ササッとクレセントの後ろに隠れるイクス

 母親の影から顔を覗かせ、あっかんべーをしている


 それを見たライゼンは、顔を真っ赤にして怒り出した

「かくれてないで、出てきなさいよ、ヒキョーもの!」


 ミカエラがオロオロしていると、ラムエラとバラキエラが二人を抱っこする


「私はラムエラ、君のお姉ちゃんだよ!」

「私はバラキエラ、貴女のお姉ちゃんよ?こっちで一緒に遊びましょう?」


 二人に抱えられたまま、白狼のガウの所まで連れていかれた

 ガウは小さな新参者の匂いを嗅ぐと、ベロンベロンと顔を舐め回す


「ひゃあ、くすぐったい!」

「やっ、やめなさいよ!ケダモノ!」


 どうやらライゼンは男嫌いらしい


 アガリアがライゼンの側に近寄り、話しかける

「ね、男なんて皆ケダモノなのよ?油断しちゃ駄目よ」


「あなたには、なにかシンパシーを感じますわ」


 とても、産まれて間もない幼女の台詞とは思えないが、天然系キャラのセレロンの娘とは思えないほど、しっかりしている


「うん、みんな仲良し♡」

「どこが?」

 セレロンがどこに納得してるのか、理解出来ないミカエラだ


「ちょっと目を離してる間に、ちっちゃいのが増えてるわね?」

 地獄からペンティアムが転移で戻って来た


 ペンティアムの姿を見たとたん、イクリプスはラムエラにしがみ付き、そちらを見ようとしない

 良く見れば、怯えている様だ

「イクス?」


 ライゼンはペンティアムの前まで歩くと、ぺこんと頭を下げる

「はじめまして、ライゼンです、おばあさま」


「はじめまして、ちゃんとご挨拶出来て偉いわね?って言うか、この子誰の娘?」


「ミカエラおかあさまと、セレロンおかあさまの子ですわ」


 しれっと答えるライゼン

「えっ?ミカエラ!貴女、セレロンにまで手を出したの!?」


「秘められし禁じられた愛の結晶♡」


「知らないわよ!お姉ちゃんも、適当な事言わないで?」


 ペンティアムがジト目でミカエラを見る


 イクリプスは、クレセントの元までよちよち走ると、しがみ付く

 クレセントはイクリプスを優しく抱き上げると、ペンティアムに挨拶させようとするが

 

「まあま、あの女神様こわい……」

 クレセントもセレロンも、ペンティアムの正体を知っている(部分的にだが)

 そして、何故かミカエラには正体を隠している事も理解していた


 イクリプスは、ヨルムンガンデから「竜眼」を賦与された為に、幼いながらもペンティアムの隠された正体を見抜いてしまった


「あら、どうしたのかしら?はじめまして、お祖母ちゃんよ?宜しくね」

 

「イクリプス……です」

 

「小さいのに、お利口さんなのね」

 ペンティアムは唇に人差し指を当てると、

「しーーっ」と内緒のポーズをとる


 傍目には、お祖母ちゃんと孫の微笑ましい風景だが、イクリプスはペンティアムの秘められた神気に畏れおののいている


(知らぬが仏とは良く言ったものじゃの)

 ヨルムンガンデも、ペンティアムの正体を見抜いていたが、敢えてやぶ蛇を招く愚行は犯さなかった



 因みにハーディは、ペンティアムと初対面したとたん、五体投地して以来、沈黙を保っている

 


 


 

 

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