第76話 Sweet 19 Blues
「それにしても、一番最後に卵を産んだクレスが、一番最初に母親に成るなんてね」
神気ワインを呑みながら、ミカエラが感慨深く言うと、
「なんじゃ、自覚が無いのかお主」
ヨルムンガンデが突っ込む
「その娘が己の胎内に卵を収めた後に、お主がこの娘を一晩中愛し続けたであろ?母親への愛情とお主の神気を一身に受けたお陰で、たった一晩で孵化するに至ったのじゃ」
ヨルムンガンデの竜眼は、真理を見透す
他の母親達は、勿論分かっている事ではあったが、改めて他人から言われると、気恥ずかしくて仕方ない
クレセントは耳まで真っ赤になり、俯いてしまう
それより、ヨルムンガンデの一言は、妊娠中の三人にとって聞き捨てならない事だった
ミカエラに愛されると、出産が早まる
確かに、夜の夫婦生活を遠慮してから、お腹の膨らみ方が遅くなっていた様な気がする
「お主達!馬鹿な事は考えるで無いぞ?
卵が孵るのと、お腹の赤子が大きくなるのとでは、話しが違うのじゃ!」
「そうなの?」
「当たり前じゃ!いきなり胎児が大きくなってみろ、母体が破裂してしまうわ!」
言われてみれば、当然である
「うーん残念」
「でも、妊娠中も初めの頃は、ほら……」
「そうよね、お腹が目立つのが早いなぁとは、思ってたんだ♡」
アガリア、サリエラ、デュアルコアの三人は少し残念だった
それでも、普通の妊娠期間より遥かに早く産まれる事になりそうだ
「そっかあ、じゃあ冬が来る前には、新しい家族が増えてるかも知れないわね?」
ミカエラは思う、それなら我慢していた若返りの霊薬を飲んでしまっても良いのではなかろうか?
ルーシーの話しでは、一瓶で十歳若返る事が出来るらしい
ピチピチの十代に若返ったら、師匠が全員の肉体年齢を固定してくれる手筈になっている
とは言え、ミカエラとデュアルコアとサリエラ以外は歳をとらないが
妊婦達の肉体年齢を固定してしまうと、お腹の子供が成長しなくなってしまいかねない為に、産まれるまでは我慢しようと思っていたが、年を越す前に出産を迎えるなら、取り敢えず若返りだけでもヤッておきたかった
ミカエラは懐にしまっていた薬瓶を取り出す
「飲むの?」
「お母さん?」
クレセントとラムエラが聞いてくる
今の内に若返れば、あの時と同じ十八歳に戻る事が出来る
子供達が命懸けでプレゼントしてくれた宝物だ
「……」
暫く考えたが、やはり無事に出産を見届けてからにしようと決めた
それが妻と、お腹の子供達へのケジメだと思う
「変なトコロで意地っ張りよね」
アシュタローテがクスクスと笑う
ミカエラが薬瓶を懐に仕舞うと、屋敷の外からセレロンが姿を現した
暫く見ないと思ったら、肩に大きな鹿の魔物を担いでいるので、街の外へ狩に出掛けていた様だ
「知らない龍の気配がする……」
セレロンはクレセントに近寄ると、イクリプスをじっと見つめる
「……誰?」
「今日産まれたアタシの子よ!イクリプスって言うの!」
何時も、セレロンに対抗意識を持つクレセントが自慢気に我が子を見せつける
イクリプスとセレロンは暫く無言で見詰め合っていたが
「はじめまして、セレロンおばちゃん」
「ん……ヨロシク」
イクスは竜眼でセレロンが何者か見抜いた
今の自分では逆立ちしても勝てないと理解した
セレロンは鹿の魔物を地面に下ろすと、クレセントの反対側に陣取り、ミカエラにくっついた
「ただいま」
「お帰り、お姉ちゃん♡」
「……ん♡」
ミカエラがセレロンに甘えると、セレロンの胸元から小さな黒龍が顔を覗かせる
「びい!」
「えっ?」「あら!」
「私の卵も孵った」
小さな黒龍は、セレロンの顔から頭をよじ登り、てっぺんに達すると「びい!」とまた鳴いた
「ライゼン、ご挨拶」
小さな黒龍の姿が闇に包まれたと思うと、これまた三歳位の女の子がセレロンに肩車されて居た
セレロンは女の子を地面へ下ろすと、ミカエラの前に差し出す
「……はしめまして、ライゼンです、おかあさま」
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