第75話 Body Feels EXIT


お腹の大きなデュアルコアとアガリアは、屈んだり高い所の物を取るのが大変になって来たが、ツマツヒメが良くサポートしてくれて、五分ほどで、夕食が提供された


「先ずは前菜のサラダとスープね、ご免なさい、今日は準備が出来立て無くて」

 デュアルコアが謝ると

「私も手伝うよ」

 と、アシュタローテが進み出る


 サリエラとミカエルは信じられない物を見た!という顔で、腕まくりをするアシュタローテを凝視する


「デュオとアギーは大変なんだろ?指図してくれりゃ、代わりにヤるよ」


「え、アーシュ料理なんて出来たの?」


「ヤッた事無いけど、アレだろ?敵を斬るのとそう変わらないだろ」

 サリエラが遠い目をする


「あっ!なら私もヤッてみたい!斬るのは得意よ?」

 ミカエラまで、とんでもない事を言い出した


「ミカエラは座ってて!私の側に居て?」

 クレセントが慌てて止める

「え、せっかくだし、イクスの誕生祝いに手料理を……」

「お願い、隣に居て欲しいの」

 

 クレセントがミカエラにしなだれかかり、甘えてみせると、渋々諦めた


 エプロンまで着けたアシュタローテが厨房に現われると、アガリアが驚く


「ナニ?似合わないわよ」


「うるせえな、ナニすりゃ良いんだ?教えろよ」


 デュアルコアは素早く今夜の献立を変更する


「ツマちゃん、冷蔵庫から塊肉を出して頂戴?アーシュはお肉を捌いて貰える?」


「任せな」


 アシュタローテはまな板にドン!と置かれた巨大ミミズの肉を、手にしたナイフでアッと言うまに輪切りにしてみせる


「一緒にお野菜も宜しくね?」

 人参やトウモロコシ等の野菜も、手早くスライスされた


「はあ~、手早いですね!」

 ツマツヒメが感心する

「こんなの、人を斬るより簡単だ、骨にも引っ掛から無えしな」


 観点がズレているが、テラスに焜炉を持ち出してバーベキューが始まった

「炭火で焼くだけだろ?お腹を火傷すると危ないから、三人は座ってろ」


 アガリアとサリエラとデュアルコアは、狐につままれた様な気持ちで、言われるままに椅子に座る


「ヴォルカノ、イフリース来い」

 アシュタローテが炎竜の二人を召喚する


「姉御!」「これは主様、何用ですか?」


「肉を焼くから火加減の調整を任せる、焦がすなよ?」


「はっ、お任せを!」

 二人が焜炉に火を起こし、炭が真っ赤に燃えると、子ども達を呼ぶ


「ラムエラ、バラキエラ、こっちへおいで」

「なに?お母さん」


「自分で肉を焼いてごらん?」


「「良いの?」」

 優しく頷くアシュタローテ

 子供達二人は嬉々として、肉を焼き始める


 そんな様子をミカエラ以外の面子は、驚愕の表情で見詰めていた


「……母親になるってさぁ」

「ん、なに?」

 

 嬉しそうにバーベキューを楽しむ子供達を見て、クレセントが呟く

 

「アーシュでさえ、あんなに変わるんだね」

 子供達を優しく見守るアシュタローテに、かつての魔王の面影は無い


「……そうね」


「ミカエラだって、子供達が堕天した時、身を張ってたものね……」

「当たり前じゃない」


「わたし、不老不死だから、イクリプスが大きくなっても、このままなのかな?」

「クレス?」

 

「すぐにイクリプスに背を抜かれちゃって……神気が有るとか、いつか離ればなれになっちゃうのかな……そんなの嫌だな」

「まあま?イクスはまあまといっしょ♡」

 ギュッとイクスを抱き締めるクレセント


 なんだかんだと、既に五十億年を生きて来たクレセントにとって、ミカエラと出会ってからの九年間は、濃厚ではあるが、ほんの一瞬でしか無い


 ハーフドラゴンとして生を受けたイクリプスは、恐らく人間と同じ様に歳をとり、いずれは自分より先に死んでしまうかも知れない


 それは死ぬより辛い事だと思えた

「まあま、イクスはまあまといっしょだお」


「ありがとうね、愛してるわイクス♡」


 

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