第70話 ミスターU.S.O


「ドラゴンの出産に詳しいお医者さんを連れて来たわよ!」


 その日の昼過ぎに、ミカエラがドラゴン専門と名乗る医者を連れて来た


 「女の園」であるミカエラの邸宅に、男性が立ち入るのは初めての事で、全員がピリピリと警戒心を露にしている


 特にアシュタローテとアガリアとサリエラは、視線で人が殺せるのではないかと思える程、露骨に殺気を放っている


「ちょっと、アーシュもサリーも止めなさいよ?失礼でしょ!」

「……アハハ……」

 白衣の男はあからさまに萎縮している

 小便を垂れ流さないだけ、立派だと言えた


 アガリアは「チッ!!」と舌打ちをすると、後ろ手に隠し持っていた二本のナイフをまな板に「タンッ!」と突き立てる


 居並ぶ女性陣の視線と嫌悪感を全身に浴びつつ、クレセントの私室へと案内される


「ここよ、クレス!お医者さんを連れて来たわよ、開けるからね?」

 ミカエラが一声かけて、扉を開けると、クレセントは相変わらずベッドの上でシーツにくるまり悶々としていた


「入らないで!一人にして?」

 クレセントにしてみれば、特にミカエラの顔を見たくなかった


 顔を見ただけで、おそらく絶頂してしまう

 大好きなミカエラの声が聞こえただけで、身体が痙攣し、意識が飛びそうになっていた


「クレス?

 お医者さんを連れて来たわ、診て貰えばもう大丈夫よ?」


「……ん、分かったからミカエラは出て行って?」


「分かったわ、ごめんね?先生、お願いします」

 ミカエラは医者に頭を下げると、部屋を出て扉を閉める


「……ちょっと、二人きりにして、大丈夫なんでしょうね?」

「え、だってクレスが出て行けって……」

「馬鹿ね、そう言う事じゃ無いわよ!」

 アシュタローテの問いに、ミカエラが呑気に答えると、アガリアとサリエラが扉に耳を押し付けて、中の様子を探る


 と、ミカエルが連れていたガウが、突然牙を剥き出しにして唸り出した

「グルルルル……!」

 アガリアとサリエラは互いに頷き会うと、クレセントの部屋の扉をブチ破った



 遡る事一分前

「えー、出産を控えたドラゴンと伺いましたが、貴女が?」

「……アンタ誰?」


「失礼、私はドラゴン専門の研究家ウッソと申します、早速ですが失礼しますよ?」

 ウッソと名乗る男は、鞄から注射器を取り出す


「!?ちょっと、ナニするの?」

「検査の為、少しだけ血を頂戴しますねウフウフ……可愛いお嬢さん!」

「え、嫌だ!近付かないで!」


 バターーーン!

「「そこまでよ!」」


 突然、扉が蹴破られ、アガリアとサリエラが部屋に乱入する


 今しも、ベッドの上で、全裸のクレセントにのし掛かろうとしているウッソの姿が在った


「!」タタタタン!!

 アガリアの投げナイフが煌めき、ウッソの身体を壁に縫い付ける

 サリエラの神剣が一閃すると、ウッソの白衣がバラバラに切り刻まれ、素っ裸になる

 汚ならしいイチ○ツが屹立している


「ヒッ、ヒイイ?」

 続いて飛び込んで来たガウがウッソの喉元に鋭い牙を突き立てる

「ギャアアーー!」

 バツン!ゴロゴロ……


 一噛みで、ウッソの首は胴体から噛み千切られ、床に転がる


「ちょっと、アンタ達……ああー遅かったか」

 ミカエラが入って来た時には、一面血の海だった


「ミカエラーーー!!」

 全裸のクレセントが、泣きながらミカエラの胸に飛び込んで来た

「ええーん、恐かったよう!」

「えっ?ちょ、何で裸……?まさか!」


「医者なんて、真っ赤な嘘でしょ?この変態野郎!」

 アシュタローテが床に転がっていた注射器を拾う


「血を寄越せって、迫って来た……」

「血?」

「不老不死のドラゴンの血は、同じく不老不死の霊薬の材料と言われてるのよ」

アガリアが説明してくれる


「ドラゴン専門の研究家とか言ってたけど」

「え?ドラゴン専門の医者じゃ無いの?」


「そんなの聞いた事無いわよ、そもそもドラゴンが病気する訳無いからね」

 ミカエラの天然ボケに、アシュタローテが呆れながら突っ込む


 

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