第67話 イミテイション・ゴールド
季節は巡り、蒸し暑い聖都の夏が終わり、肌を触る風が涼しく感じられる頃
ルシフェラが企画した子供達の成長カリキュラムは、当初の目標は達成されたとして、何とか無事に修了した
引き替えに地獄の冥王軍も魔都も、散々な目に合った訳だが、それすらルシフェラは利用して、魔導兵器に頼らない獄卒の練度向上を目指して再建を図って居た
魔都に暮らす、数百万の魔族の安全保障に関しては、冥王軍とは別に、魔導兵器を活用した治安部隊を組織させ対応する
「為政者って、思ったより忙しいのよねぇ」
聖都に在るミカエラ宅のガーデンテラスで、モーニングワインを楽しむ余裕を見せるルシフェラに、説得力は見出だせない
「どうせ、ロキに丸投げして来たんでしょ」
「適材適所ってヤツよ♪」
ミカエラの指摘に、悪びれる様子も無く答えるルシフェラ
ルシフェラが造ったガーデンテラスは、一年中色とりどりの様々な花々が咲き乱れる
神気溢れるミカエラの家は、ご近所さんの礼拝パワースポットと成って居た
何しろ、隣接する西方支部教会よりも、聖女ミカエラの家に参拝する人数が圧倒的に多いのだ
人気の一つは、参拝者が自由に花を持ち帰る事が許されているせいかも知れないが、実はそのお陰でミカエラの神格も爆上がりしてる事実に、本人だけが気付いて居ない
子供達は朝食を食べ終わり、亜空間通路を抜けて本部教会大聖堂のペンティアムの元へ勉強に出掛けている
とは言え、以前の様にペンティアムの講義を聴いて過ごすのでは無く、地獄から亡命して来たハーディに、子供達が物理学の基礎と魔法定理の応用を教える形で授業は進む
主に語るのはバラキエラ
要所で実践して見せたり、発想の転換を促すのがラムエラ
ペンティアムは、特に口出しもせず、子供達の成長を優しく見守っている
ハーディは、冥界で天才と呼ばれて居ただけあって、馴染みの無い物理学も天文学も、持ち前の好奇心もあって、素晴らしい理解力を発揮するのだが、子供達に比べるとやはり柔軟性に欠けた
しかし、子供達より遥かに長い人生経験は、子供達と異なる視点からの発見も見出だし、お互いに善い刺激となっていた
ハーディと共にやって来たツマツヒメは、アガリアとデュアルコアと共に、ミカエラの屋敷でメイドとして忙しい毎日を過ごしている
ただ、毎夜繰り返されるミカエラと妻達の乱痴気騒ぎには、未だに慣れずに居た
アガリアとデュアルコアとサリエラは、それぞれ目立つ様になって来たお腹の膨らみを愛おしげにさすり、やがて産まれ来る子供の名前を考えたり、マタニティドレスを仕立てたりと、楽しく過ごす
セレロンは、豊満な胸の谷間で卵を温めながら、揺り椅子に揺られながら赤ちゃんの為に手編みの何かを編んだりしている
さて、問題はクレセントである
一緒にルシフェラの奇跡を授かった他のメンバーは、順調にお腹も大きくなり、セレロンに至っては、その場で産卵してしまった訳だが、地獄から帰って来てから数ヶ月
クレセントは未だに卵を産んでいなかった
まだ暑い夏、海に遊びに行ったついでにリヴァイアサンを討伐した時には、余裕があった
少し日差しが傾いて来た頃、アガリアとデュアルコアが「つわり」に苦しみ出した頃も、まだその内に、と思ったものだ
アガリアとデュアルコアとサリエラが、夜の営みを外れる様になって、ようやくコレはヤバいと焦り出した
ムーンドラゴンのクレセントは、産卵して卵を孵化させる必要が有ると、ルシフェラも言っていた
セレロンは、その場で産卵して以来、ずっと卵を温め続けている
口から卵を産むのが普通なのか知らないが、どう頑張っても、何も出ない
「妾の知り合いは、生殖器から産んだと聞いた記憶が在るがのう」
相変わらず首だけの、ヨルムンガンデの言葉に希望を持ちつつ、自分の生殖器のピンク色を揉み解して居た所をミカエラに見付かり、そのまま熱い夜を過ごして朝を向かえたのは、つい先日の事だ
「はあ……、一体どうしたら卵を産めるんだろ?」
ペッタンコのお腹をさすりながら黄昏れていると、後ろからミカエラに抱き付かれた
「ねえ、ベッドに転がってたこの卵って、クレスが産んだのじゃ無いの?」
「へっ、え?卵?」
ミカエラの手には、金色に輝くウズラの卵サイズの小さな小さな卵があった
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