第66話 唇よ熱く君を語れ


「ミカエラ!」

 子供達を見ていてくれたクレセントがミカエラを呼ぶ


「目を覚ましたわ!」

 慌てて子供達の元へ駆け付けると、起き上がったラムエラとバラキエラを抱き抱える

「良かった!!」

 左目から大粒の涙を流しながら、二人の頭を撫で続けるミカエラを、他の母親達は優しく見守っている


「お母さん……」

「私達……」

「ご免なさい、情けない母親で本当にご免なさい……辛い想いをさせたわ」


 セレロンが横に立つと、二人の子供達も慌てて立ち上がる

「あ、あの……」

 何と言えば良いのか分からずに、口篭っている二人にセレロンが二本の角を渡す


 ミラクラの核攻撃で一度死んだ時に残った角を、拾っていたのだ

「二人にあげる、お守りにして」


「……」

 何と答えたら良いのか分からず、泣き出した二人を、セレロンは優しく抱き締める

「無事で良かった……おかえり?」


「「ご免なさい!うぐっ……うああーーん」」

 大泣きし始めた子供達を見て、ミカエラと、ミカエルも大泣きしだした


 アシュタローテは優しげな眼差しで見守っている

 サリエラ、アガリア、デュアルコアも子供達の無事を喜んでいるが、クレセントは何故か微妙な表情だ


 クレセントはとててとルシフェラの側に行くと、控えめに袖を摘まんで、何か言いたそうにしている


「何、どうかした?」


「ルーシー、あのね?何でも出来るのよね?」

 クレセントは頬を赤らめながら、ルシフェラに問う


「まあ、一応?不可能は無いけど……ナニよ、気味悪いわね?」

 クレセントは背伸びして、ルシフェラの耳に口を寄せると、こそっと小さな声で

(私もミカエラのが欲しいな……)


「えっ?子供?」

 これには、流石のルシフェラも驚いて、思わず聞き返した


 何事かと、全員の視線が集まり、クレセントの顔が真っ赤になる


「なっ、そんな大声で!」

 慌ててルシフェラの口を押えるが、もう遅い


「へ~え」「ふ~ん?」

 アシュタローテが、ニヤニヤと笑い、サリエラとアガリアとデュアルコアが、クレセントを取り囲む

 三人共、口の端は上がっているが、目は笑っていない


「な~に独りで抜け駆けしようとしてるのよ?」

「そりゃ女同士で子供は出来ないけどね?」

「ミカエラ様の子供が欲しいのは、皆同じです!」


 普段、口には出さないが、肉体を持たないミカエルとアシュタローテだけが子供を授かった事を、ずっと羨ましく思っていたのだ


「ちょっと待ちなさい、貴女達も子供が欲しいの?貴女達は子供を産むって話しよ?空から振って来る訳でも、キャベツから生える訳でも無いのよ?」

「「「「ミカエラとの子なら!!」」」」

 一切の迷い無く即答する、ミカエラの妻四人組


「呼んだ?」

 空気を読めない張本人が現れると、アシュタローテがミカエラの首根っこを捕まえて、邪魔しない様に子供達の所へ引き戻す


「えっ?ちょ、ちょっと何よアーシュ?」

「良いから、アンタは子供達と一緒に居なさい」


「……私、弟が欲しいな」

「私は妹でも構わないわよ」

 耳聡い子供達は好きな事を言ってるが、ミカエラには何の事か分かっていない


「え?弟?

 アーシュ、まさか又、子供が出来たの?」

「私じゃ無いわよ」

 アシュタローテはクスクス笑って答える


「えっ、じゃあミカ?」

「残念ですけど、違いますぅ」


「ええーー?どういう事?」

 首を傾げるミカエラを余所に、パチンと指が鳴り響く


「はい、これで数ヶ月後には目出度く産まれて来る筈よ!アギーとデュオとサリーは、普通に妊娠周期を待つけど、クレスは卵を産んで、孵す必要があるからね?……ムーンドラゴンの卵って、どのくらいで孵化するのかしらね?」


 四人共、お腹に手を当てて幸せそうな表情でウットリしている


「ほう、眷属が増えるとは目出度いのう、産まれたら妾が祝福を与えてやるのじゃ!」


 いつの間にか、セレロンがルシフェラの後ろに立って、物欲しそうに指を咥えて袖を摘まんで居た


「……誰か、この駄龍に倫理観を教えてあげて?」

「姉と妹の禁じられた愛の結晶……」

「何処で覚えてくるのよ、そんな台詞?」


 セレロンは膝を抱えて蹲ると、「シクシクシク……」と哀愁たっぷりに落ち込んで見せてから「チラ」とルシフェラの顔を伺う


「メソメソメソ……チラ」

「ハァ……分かったわよ、仲間外れは嫌よね?」

 ため息を吐いて、指をパチンと鳴らすと、セレロンはスックと立ち上がり、上を見上げる


「?」

 皆が見守る中、セレロンは「うぐっ」と喉を逆流させ、口から小さな卵を吐き出した


「「「ええーーーーーーーっ!?」」」


「私の宝物」

 そう言うと、セレロンは小さな卵を大切そうに胸元へ仕舞い込んだ


「えっ、嘘っ?ドラゴンって口から卵産むの!?」

 クレセントがパニクっている

「貴女、ドラゴンの癖に知らないの?」


「だって、龍種って滅多に産卵しないし……でも、えええ?」


「あら、お姉ちゃん、卵産んだの?」

「禁断の愛の結晶♡」

 何も知らないミカエラがやって来ると、セレロンはミカエラに抱き付き、唇を奪う

 

 


 

 

 


 

 

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