第65話 未完成


「相変わらず男前ねえ……」

 

 ルシフェラが指をパチンと鳴らすと、異形のミラクラの姿は消え、元通りのラムエラとバラキエラが横たわる


「ほう、流石は「明けの明星」じゃの、見事に呪いが解かれておるのじゃ」


「フフン、明星仮面に不可能は無いのよ♪」


 一度死んだセレロンは生き返り、子供達の呪いも解けたが、ミカエラの右目は失われたままだ


 パンデモニウムでミラクラが鏖殺した人々も、破壊された都市も、元通りだと聞かされる


「……鏖殺って何ヤッたの?」

 ミカエラが恐る恐る聞くと

「ブレスを吐き散らしながら、一周回ってくれたのよ、半径五十キロが焼け野原になったわ」


「ご免なさいーーーーっ!!」

 ミカエラが土下座して、ルシフェラに謝る


「お詫びに、この腹かっ捌いて……!」

「しなくて良いから!」

 正座したミカエラが法衣の裾を捲り上げ、お腹を晒すと卍丸を召還して逆手に握る


 ルシフェラとアガリアが慌てて止めなければ、間違いなく切腹していた勢いだ


 子供達の側について居たアシュタローテが、呆れながらやって来る


「貴女が責任取って死んだりしたら、あの子達、後追いして自殺しかねないから、止めなさい」


「だって……」

「そもそもあの子達が、誰の為にここまで来たと思ってるの?」


「そうなのじゃ、明けの明星にお願いがあるのじゃがの?」

 ヨルムンガンデがルシフェラに声をかける


「貴女が私に?……嫌な予感しかしないけど」

「失礼じゃの、なに、難しい話しでは無い

 妾が「うっかり」殺してしまった二人も生き返らせてやってはくれんかの」


 うっかりと言ってるが、確信犯である

「ついでと言っては何じゃが、妾の身体も復元してくれると有難いのじゃ」


 何とも図々しいお願いであるが

「ルーシー、出来るならあの二人は地上へ連れて行ってあげたいのよ」

 アシュタローテが頭を下げた事にルシフェラは驚いた


(アーシュが私に頭を下げるなんて驚きだわ!

 母親になって変わったのかしら?)


「ロキを助けたでしょ?ルーシー」

「あら、バレてたか」

 ペロッと舌を出すルシフェラは、イタズラがバレた子供の様な表情を見せる


「え、そうなの?」

 ミカエラはやはり気付いていなかった


 今回の件を仕組んだルシフェラは、堕天使の遺伝子を受け継いだバラキエラが、最初から人を殺さない様に振る舞っていた事を知っている


 地獄の悪魔でさえ、裸足で逃げ出す様な好戦的な母親達と合流してからも、それは変わらなかった


 過酷な環境に曝されて、バラキエラが変わってしまう事があっても、それは仕方の無い事だが、呪われて堕天するまで、彼女から人を殺す事はしなかった事実にルシフェラは満足していた


 むしろ危なっかしいのは、力の加減が巧く出来ないラムエラの方かも知れない

 理屈が分からなくとも、結果を導きだしてしまう彼女は、母親や仲間を助ける為にムチャをする傾向があった


 一緒に見守っていたペンティアムも、それに気付いているから、兵器開発担当のハーディと共に学びを重ねる事は、ラムエラにとって良い方向へ働くだろう


 神の孫たるミカエラと、その娘達を導く試練は、概ねルシフェラの満足出来る結果だと言える


「仕方ないわね、アーシュに頭を下げられちゃ断れないわ」

 ルシフェラが指を鳴らすと、ハーディとツマツヒメ、それにヴォルカノとイフリースの二人組も現れた


「おや?」「え?」「主様!」「姉御!」

 四人共ルシフェラに気付くと、慌てて跪き臣下の礼をとる


「貴方達、アシュタローテに感謝なさい?」

「「「「はっ!」」」」


「本来、死はすべからく平等に訪れるもの……

 自然の摂理をねじ曲げて、貴方達を甦らせるのは間違ってるのよ

 その事は決して忘れないで?」


 深く大地にキスして、最大の敬意を表する四人組はこれで地上へ向かう許可を得る事になった


「待ってたもれ?妾の身体はどうなっておるのじゃ?」

 相変わらず首だけのヨルムンガンデが慌てる


「貴方、仮にも神の一柱なのだから、自分で何とかしなさいよ」


「酷いのじゃ、明けの明星は薄情なのじゃ!」

「……封印されたいの?」

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