第64話 とおく群聚を離れて


「右も左も分からない子どもだからって、許される事と許されない事が有るのよ?」


 明星仮面と名乗った謎の女(バレバレ)が、指をパチンと鳴らすと、周囲の景色が一変する


 暴走するミラクラごと、別の場所に転移したのだ


「グルルルル……」

 異常な魔力に警戒するミラクラが、低く唸る


「フッフ~ン♪取り敢えず、お座りから躾ないと駄目かしらねぇ?」

 明星仮面が鼻唄混じりで、楽し気に喋ったところで、横から声がかかる


「……ルーシー?」

「え?」


 明星仮面と満身創痍のミカエラが、暫し目を合わせる


「だっ、誰の事かしら?私は魔界のプリンセス!明星仮面!」


「…………………………」


「でっ、では皆さま!ごきげんよう!はぁーはっはっはっはっ!」

「逃がしちゃ駄目よーーーーっ!!」


 全員がルシフェラに殺到し、取り押さえる


「ちょっ、放しなさいよ!やだ、どこ触ってんの?あんっ、誰よ、変なトコ触らないで!?」

「観念なさい!ミリーが大変なのよ、何とかして!」

「ミリー?ああ、変身すると別人の人格に成るのは直しておいたわよ?」


「ウアジェテの毒で呪われたのよ、あの子!」


「GAAAAAA!!」

「そっか、呪いで堕天したのか、成る程ね」


 ミラクラが、再び熱核攻撃をしようと、小さな太陽を出現させるが

「ホイッと」

 ルシフェラが指をパチンと鳴らすと、太陽は輝きを失い、急速に縮んで黒点と成り消滅した


「お利口さんんだから分かるかな~?

 大司教から、対消滅って習ったかしら?」


 ルシフェラが更に指を鳴らすと、消えたと思った黒点が白く輝く円盤に変化して、中から黒い人影が浮かび上がる


「……そんな……!?」


 キラキラと細かな星屑が人影の周りを舞い、やがて、ゆっくりと眼を開ける

「お姉ちゃん!?」


「ただいま……かな?」

 ニッコリと笑ったセレロンが、円盤から降り立つと、光は消える


「太陽ほどのエネルギーを無駄に消滅させちゃ、勿体無いからね♪」


 ミカエラがセレロンの胸に飛び込むと、ギュウッと抱き締める


「グルアアアッ!!」バシッッ!

 ミラクラがセレロンの背後から襲い掛かろうとしたが、セレロンの尻尾の一撃で吹き飛ばされた


「おいたは、メッ!だよ?」

「?????」

 ミラクラは魔法が使えなく為っている事に気付き、戸惑っている


 身を守る障壁も展開出来ず、身体強化も出来なくなっていた


「おい」

 パシッ!パアン!

 クレセントとサリエラがミラクラを捕まえると、一発づつビンタする


「止めて!叩かないで!?」

 ミカエラがミラクラを庇い、抱き付いた


「ガアアア!」

 ミラクラが暴れるが、身体強化したミカエラの力に敵わない


「大丈夫よ、辛いね?苦しいね?もう、大丈夫だから、お母さんが付いてるからね」

 ミカエルとアシュタローテも、左右からミラクラを抱き締める


「ルーシー!お願い、呪いを解いてあげて!」

「だから、私は明星仮面だって……まあ良いわ」


 ルシフェラは少しの間、ミラクラを見詰めると、集中する

「……魂の根源まで書き換えられて堕天してるのね、この子達はこれまで知らなかった破壊衝動や闇に触れて、自分が何者かさえ分かっていないわ」


「このまま解呪しても、全て元通りに戻るとは限らんと言う事じゃな?」

 ヨルムンガンデが続けると、ミカエラは慌てる


「どういう事?ルーシーなら何だって出来るじゃない!」


「無かった事にするのと、元に戻すのは、ちょっと違うのよ」

「お願い!助けて!」

 ミカエラは泣きながらルシフェラに頭を下げる


「……この子達に関して言えば、何も無かった事にすれば、魂の汚染も残らないわ

 但し、この子がヤッてしまった事が、全て無かった事に成る訳じゃないの」

「なら!」

「最後まで聞いて?

 この子達が犯した罪の記憶を残したまま、解呪した方が、魂は救われる……自分の罪と向き合う事で、堕天と向き合い、自身でケリを着ける事が出来る様になるわ

 いずれ大人に成った時、この二つの選択は大きな意味を持つのよ」


「……お姉ちゃんを生き返らせてくれて、ありがとう、でも私の傷は治さなくて良いわ」


「子供達は、ミカエラを見る度に傷付く事になるわよ?」

「あの子達を助けてあげられなかった、情けない母親としてのケジメよ」


「はあ……相変わらず男前ねえ」


 ルシフェラはため息を吐くと、指をパチンと鳴らした


 


 

 


 

 

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