第63話 たどりついたらいつも雨ふり


「師匠とお揃いだわね」

 治らない右目を布で覆い隠したミカエラが、ふざけて言うが、微笑みを返したのはアシュタローテだけだ


 焼けて縮れた銀髪を、デュアルコアに切って貰い、少しスッキリした印象だ


「呪いを絶つには、ルーシーに会うしか無いのよね、グズグズしちゃ居られないわ」

 直ぐにも出立しようと立ち上がるが、流石にフラ付くミカエラを、ミカエルが支える


「死にかけの怪我人が、無理すんじゃ無えよ、

 今は大人しくしてろ」

「冗談じゃ無いわ、何があっても、命に代えても、あの子達を助ける為に、ここへ来たんだもの!」

 ミカエラの瞳は諦めていない


「テメーの代わりに、アタシが探すから、先ずは身体を労えよな」

「こんなの、酒呑めば治るわよ!

 それより、アーシュに任せたら、子供達に手を出すでしょ?駄目よ!どんな事が有っても、親が子供に手を出すモンじゃ無いわ!」

「……」


 痛い処を突かれたアシュタローテは、黙ってしまう


 ミカエラは親の顔どころか、何処の誰の子かすら分からない

 産まれて直ぐに、聖教会の入り口に棄てられて居たらしい

 以来、ペンティアムが母親代わりに面倒を見て育ててくれた

 勿論、一度として叩かれるどころか、叱られた事すら無い


 一方、アシュタローテはミラクラが堕天したとしても、理性と分別を保っていれば、それでも良いと考えていた

 自身が堕天使なのだから当然である


 そして、言って言うことを聞かないなら、殴ってでも言うことを聞かせるのも、親の愛情だと信じている

 まして今のミラクラは魔獣と同じだ

 厳しい躾は当然だろう


 何より、セレロンを殺してしまった責任を教えなければならない


「セレロンは、ミカエラの為に命を投げ出したのよ、その落とし前は着けさせないとね……」

「……」


 今度はミカエラが黙ってしまう

 涙腺から大粒の涙がポロポロと溢れ落ちる


「あの糞ガキ共、今度会ったらブン殴ってやるわ!」

 クレセントは怒りが収まらない

 

「お尻ペンペンです!」

 ミカエルも怒っている様だ


「……あの子、今魔都に居るわね」

 突然居なくなったミラクラの魔力を探っていたアガリアが言う


「魔都?」

「ああー、パンデモニウムの別称よ

 私達、魔族はそう呼ぶの」

 サリエラの問いにアガリアが答える



「キシシシシシ」

 魔都の鐘楼の上に異形のミラクラが居た


 ルシフェラの魔力を探していたせいで辿り着いたのか、魔素の多い場所へ、偶々転移したのかは不明だが、眼下には月明かりに照らされた魔族の大都市が広がって居る


「クエアアアーーーーーッッ!」

 月夜にミラクラが吠える


「あ、何だ?」

 路地を歩いていた男が、見上げると、首が宙を舞った

 鮮血が激しく吹き出し、路地を赤く染める


「ヒイッ!な、何だ?」

 最初の犠牲者の身体が倒れるまでに、八人の首か跳んだ


「うおっ!何だ?」「きゃああ!」

 悲鳴と死の連鎖が通りを駆け巡る


 冥王軍の獄卒が魔導兵器を構えて駆け付けた

「アレだ!」「逃がすな!」

 ミラクラは魔力を凝縮すると、ブレスを吐きながら一回転する


 ズドドドドドーーーー!

 建ち並ぶ家屋や人々を見境無く巻き込んで、半径五十キロが焼け野原となる

 巨大なキノコ雲が月を隠し、急激な上昇気流に伴う、ダウンバーストと共に黒い雨が降り注ぐ


 動くものは、ミラクラだけだ


「ハアアアア」


 殺す相手が居なくなった為、再び転移しようとしたミラクラに声がかかる

「随分、派手に暴れてくれたわねぇ

 ラムエラ?バラキエラ?どっちかしら?」


「グルッ?」


 黒いボディスーツに身を包み、目元を隠すマスクを着用した謎の女が、そこに居た


「明星仮面サテナ参上!

 悪い子はお仕置きしちゃうわよ♡」


 

 

 


 

 

 

 

 


 

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