第62話 夜へ急ぐ人


「お願い!目を覚まして!!」

 ミカエラの必死の願いは、狂ったミラクラには届かない


 ミラクラはミカエラの手を振りほどくと、宙に浮かび距離をとった


「ブレスが来る!障壁を!!」

 ミカエラ以外の面々が、各々魔法障壁を展開すると、予想通りミラクラがブレスを吐いて来た

 

 バウッッ!ズバオオオーーッ!

 アシュタローテもブレスを吐いて、相殺を狙うが、僅かに力負けして、吹き飛ばされた


 ドドオオーーーーン!!

 

『キイヤハハハハハハーーー!』

 奇声を上げたかと思うと、不意にミラクラの姿が消える


 どうやら、何処かへ転移してしまった様だ


「皆、大丈夫!?」

 アシュタローテが安否を確認する


「ええ……何とか」

「こっちも無事よ」

「生きてます……」

 クレセントとサリエラとデュアルコアが応える


 少し遠くまで吹き飛ばされたミカエラの所に、ミカエルとアガリアが居た


「ミカエラ!」

 全員が集まって来る


 魔法障壁すら展開せず、モロにブレスの余波を食らってしまった様だ


 美しかった銀髪も焼け焦げ、全身が火傷と打撲で血塗れの、満身創痍だ


 ミカエルとデュアルコアとサリエラが必死に治癒魔法をかけ、徐々に回復して行くが、右目だけはドロリと濁った色のまま、元に戻らない上に意識も戻らない


「……駄目ね、右目が元に戻らない」

 サリエラがポツリと呟くが、ミカエルとデュアルコアは泣きながら治癒魔法を使い続ける


「ミカエラ、ミカエラ!死んじゃ駄目です?」

「ミカエラ様、目を覚まして!」


「……火を起こして、暖めてあげて

 警戒しながら夜営するわよ」

 状況を判断したアシュタローテが指示を出し、サリエラとクレセントとアガリアがそれに従う


 離れた岩影に退避していたガウが、怪我をしたのかヒョコヒョコと近寄り、咥えていたヨルムンガンデの首を下ろすと、くぅーんと鼻を鳴らす

「大丈夫よ、お前の主人は必ず取り戻すから……」

 そう言うと、横たわるミカエラの隣に寝そべり、顔をペロペロと舐め続けた


 デュアルコアがガウの怪我を治療してやる間も、ミカエルはずっとミカエラに覆い被さり泣き続けていた


「あの子供達、ウアジェテの毒に犯されておるな」

 ガウが咥えて来たヨルムンガンデの首が言う


「毒だと?」

「うむ、妾の竜眼に見透せぬ物は無いのじゃ、間違いない」


「毒なら解毒法とか在るんじゃないの?

 一体、何の毒?」

 クレセントが聞くがヨルムンガンデは否定する


「無理じゃの、ウアジェテは悪魔セトの飼う毒蛇で、一度体内へ入り込むと、存在の根源を書き換えてしまう呪いに変わるのじゃ」


「セトなら解呪方法を知ってるかしらね?」

「不可逆の呪いじゃから、あ奴にもどうにも成らぬじゃろ、どうにも厄介な毒じゃて」

 アシュタローテの問いかけを否定する


「そんな……」

「じゃあ、あの子達はずっと、あのままだって言うのか!?」

 サリエラが食って掛かるが、ヨルムンガンデは答えない

 答えを知らないからだ


「この世の理をひっくり返す事が叶わぬ以上、どうにも為らぬのじゃ」

 続く言葉を聞いてハッとするアシュタローテ

 アガリアとサリエラも気付いた


 彼女達は、この世の理をひっくり返す存在に心当たりが有る

 と言うより、その為に遥々地獄までやって来たのだ


「アギー、イザと言う時にはお願い……」

 

「分かってるわ、今はミカエラの側を離れたく無いもの」


「……ううん」

「ミカエラ!気をしっかり!」


 ミカエラが目を覚ました様だ


「ミリー……お姉ちゃん……」

「大丈夫?ミカエラ」

 (大丈夫、お姉ちゃんに任せなさい!)

 セレロンの根拠の無い自信に溢れた笑顔が、どんなに頼もしかったか


 自分を覗き込むミカエルの顔に、セレロンの幻が重なる

 ミカエルの流す涙が頬に伝わり、ようやく意識を取り戻した


「ミリーは!?」

 


 

 

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