第61話 何故にお前は


「この子、堕天したのよ!」

 アシュタローテが叫ぶ


 堕天

 神に支える者として産まれた天使が、神に叛き敵対する者として墜ちる事を言う


 アシュタローテは文字通り、ペンティアムの父たる創造神に反抗して堕天した経緯が在るが、今回、この子達が堕天する要素は全く無かった


 バラキエラは元々、堕天使アシュタローテと人間の聖女ミカエラとの間に産まれたハーフ堕天使として、その因子は持っては居たが、母親達の愛情と類い希な優秀な「師」の導きにより、真っ直ぐな素直な子供に育っていた筈だ


 ラムエラにしても、聖女ミカエラと守護天使ミカエルの間に産まれたハーフ天使で、聖なる加護を与えられ、堕ちる要素が見当たらない


 敢えて言えば、二人とも天才過ぎる感性の持ち主で、多感な思春期の入り口に差し掛かって居た事だろうか


「堕天って……どうして!」

 ミカエラは、現実を受け入れられずに居る


 人型に戻ったクレセントとセレロンが、飛び出そうとするミカエラを押さえる


「魔界の瘴気に、長く充てられたからかしら?」

 アガリアが言うが、そんな事で堕ちる程ヤワな子供達では無い


 デュアルコアはサリエラに縋り付いて、ようやく立っている状況だ


「グルルルルル……」

 獣の様な低い唸り声をあげると、ミラクラは魔力を解放し、絶対領域を展開構築する


 夜空に浮かぶ月が真っ赤に染まり、紅い月光と混ざり合った魔素の影響で、世界が幻想的な紫色に照らされる


「神域を展開されたわ、皆気を付けて!」

 サリエラが叫ぶ


 ミラクラが周囲の魔素を吸収する

 一気に魔素が希薄になる


 ミラクラの眼が妖しく輝いたと想った瞬間、ミラクラと皆の間に太陽が出現する

「!?伏せ……」

 アシュタローテが叫ぶ間も無く、太陽はその熱量を一気に解放する


 !!!!!!!!!!


 余りの圧力に鼓膜は役に立たず、音すら聞こえない

 凄まじい光量に、瞼も役に立たず、何も見えない

 何より余りの熱量に、大地も空気も生命も、全てが一瞬で燃え尽き、閉鎖された空間の中で解放された、爆発的なエネルギーの暴力の後には何物も残さない凄まじさだった


 …………

 ……………………


 堕天したミラクラが、後先考えず、自身も巻き込んで核爆発を起こした瞬間、セレロンは太陽に覆い被さり、障壁を展開していた


 死ぬのが怖くない訳では無かったが、大好きな妹と、家族を護る為に命を投げ出す事に後悔は無かった


 自慢の黒鱗が融け、肉が蒸発し、信じられない程の痛みと苦しみがセレロンを襲い、その命を散らす迄、彼女は後悔しなかった


 凄まじい超質量を誇るセレロンの肉体と魂は、太陽が消え去るまで耐え抜き、そして消えた


 跡には、小さな二本の角だけが転がっていた

「……お姉ちゃん?」

『キシャアアアアーーー!』


 暴走したミラクラは、状況を理解する時間さえ与えてくれない


 ミカエラ目掛け襲い掛かるミラクラを、アシュタローテが防ぐ

「ミカエラ!しっかりなさい!」


 アシュタローテもかつては魔王と恐れられた存在だ

 理性を失い、闇雲に暴れ回るだけのミラクラに後れはとらない


 ミカエルが慌ててミカエラに憑依しようとするが、何故か弾かれる

「!?憑依出来ない!どうして?」


 今、ミカエラはセレロンを失った驚きに、心を閉ざしてしまっていた為に、ミカエルさえ憑依出来なくなっていた


「お姉ちゃん……」

 (もっと褒めて♡)

 セレロンの声が聞こえる気がする


「ミカエラ!」

 クレセントが泣き叫ぶ


 ミカエラはアシュタローテを押し退け、ミラクラを捕まえる

「どうして!」

 ミラクラは構わずミカエラに殴りかかるが、殴られるままにミカエラは続けた

「何をヤッてんのよ、アンタは!?」


「キイアアアーーーーー!」

 会話は成り立たない

 狂ったミラクラはミカエラを殴り、蹴り、鋭い爪で引っ掻く


 聖剣鎧装すらしていないミカエラは、あっという間に血塗れになるが、それでもミカエラは決してミラクラに手は出さない


「ミカエラ!何ヤッてるの?死ぬ積もり!?」

 サリエラとミカエルが、ミカエラに治癒の聖魔法をかけ続けるが、ミカエラは引かない


「どきな!アタシが相手する!」

 見かねたアシュタローテが割って入ろうとするが、ミカエラはミラクラを捕まえた手を離さない


「お願い!目を覚まして!!」

 


 

 

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