第59話 どうにもとまらない


「ヤだ風邪?

 て言うか変な病気じゃ無いでしょうね?」


 テイッシュを渡しながらペンティアムが聞く

「失礼ね、ミカエラちゃんが私の噂してるのよ、人気者はツラいわ?」

 ちーーーーーーん!

 鼻をかむ音も可愛らしい魔界の支配者である


「……俺様をどうする積もりだコノヤロー」


 足元で虫の息のロキが唸る

「あらヤだ、折角助けてあげたのに酷い言われようね?」

「ふざけんな」


「ほら見なさい、日頃の行いが悪いから信用無いのよ?」

「ケッ、そりゃテメーも同じだ」

 

「ルーシー、こいつミカエラの所へ送り返して」

 

「いや、あの……ご免なさい、許して」


 一度助かると、死ぬのが恐くなるようだ


「仕方ないわね、貴女みたいなのでも、居ないと困るから治してあげるわ」

 ルシフェラが指をパチンと鳴らすと、ロキの身体が一瞬で元通りに復活する


「有難え、恩に着るぜ」

 

「いつか回収させて貰うわね♡」

 

「テメーのそう言う処が気に食わねえんだよ

 まあ良い、一つ借りだ」


 ロキは右腕をグルグルと回して、調子を確認する

「それにしても、何だあの力は?死ぬかと思ったぜ」

「あの子が、魔剣だけを狙ったから、貴女助かったのよ?やろうと思えば貴女の身体を消し去る事も出来た筈……」

「……冗談だろ」


「私が昔、月を消したの覚えてる?あの子、アレと同じ事をヤったのよ」

「マジか……」

 ペンティアムの説明に、改めて敵を過小評価していた自分に気付くロキ


「ああーーーーっ、元々勝てるとは思って無かったが、そこ迄とはな!チクショー!」

 頭を抱えて天を仰ぐロキだが、ふと気付く


「アイツ等って、ペンティアムの関係者だよな?テメーが仕込んだのか?」

「あんな危険な技、子供に教える訳無いでしょ?自分で考えたのよ、あの子達」


「ふうん……本当に天才って事か

 もし、ハーディがテメーに弟子入りしたいと言ってたら、どうする積もりだった?」

「来る者は拒まないけど、逃がしはしないわ」


地獄オレ様を敵に回しても?」

「私には関係無いもの、邪魔するなら、排除するだけよ」


「つくづく嫌なヤローだ」


「壊滅した冥王軍は、自分で何とかしなさい?

 雇用も生まれて、丁度良い活性剤に成るわよ」


「ほざいてろチクショーめ、俺あ帰る!」

 ロキが自力で転移して居なくなった


「さあ、問題もクリアしたし、後はあの子達の到着を待つばかりね!」


「じゃあ、私も地上に帰るから」


「何よ、つれないわね?一緒に楽しみましょう?」

「生憎、貴女と違って悪趣味じゃ無いのよ

 それに、仕事も残ってるし

 こう見えて、忙しいのよ?大司教って」


「大変ねえ人間の振りして生きるのも……

 もうカミングアウトしたら?」

「全人類の信仰の対象が、実は私でした~♪なんて、冗談じゃ無いわ、文明崩壊するわよ」


 ペンティアムは信仰を利用して人類を巧くコントロールしたいが、人間は信仰の為に人を殺す事も有る


「原罪かぁ、だからエヴァだけで良かったのに……あの馬鹿親父!」

 大聖堂執務室にもどったペンティアムは独りごちる


「大司教様の御父君ですか、どんな方ですの?」


 てっきり独りだと想って油断したら、大聖女ウリエラが新調された机に向かい、書類の山と戦って居た


「へっ?あ、居たのウリエラ?

 て言うか留守にしてご免なさいね」


「お帰りなさいませ、お疲れ様でした

 お姉様の様子は如何でしたか?」


「ああ、元気よ元気過ぎるくらい」

 (まさか神様二柱を、半殺しにしたなんて言えないわよ)


 ペンティアムはテーブル上のケースから煙草を取り出すと、火を着けて一服する


 薄紫の煙を吐き出しながら、ウリエラの事を考える

 三歳の時に、ペンティアムが才能を見極め、以来ミカエラと共に手元で大切に育てた結果、僅か十二歳で聖女の試練に合格した天才少女も、今は二十三歳

 

 ペンティアム自ら寵愛と加護を与え、素晴らしい聖魔法の才能を開花させて久しい

 いずれは聖教会を導く存在に成るか、もしくは昇神するかも知れない逸材だ


 (この娘が、私の正体を知ったら、どうするのかしらねぇ……)

 

 


 


 

 

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