第58話 急げ風のように
「……」
「……嘘でしょ」
水鏡で観ていたルシフェラとペンティアムは言葉が続かなかった
特にペンティアムは、世界を造り、世の理の全てを統べる者として、教え子達が自力で核分裂反応を見出だした事実に驚愕していた
確かに幼い頃から、この世界では誰も知らない物理学の基礎を始め、量子力学や天文学に至るまで、それこそスポンジが水を吸う様に知識を吸収し、魔法の定理と合わせて独自の理論を確立するまでになった八歳児には、驚くしか無い
だからこそ、禁呪を産み出しかねない理論や定理については、敢えて触れずに居たのだが、子供達は空白の矛盾を自ら補完してしまった
「有り得ない事をサラッとヤッちゃうのは、母親譲りかしらね、まさかロキを倒すとは想わなかったわ」
「感心してる場合じゃ無いわよ、ミカエラがロキに止めを刺しちゃうわよ?」
いま、まさにミカエラが光の刃をロキに突き立てようとしていた
「あらヤダ」
指をパチンと鳴らすと、ルシフェラ達の足元にロキが現れる
一方、いきなりロキが消えて、ミカエラは怒る
「?土壇場で転移して逃げやがったアイツ!」
敵わぬ敵と知りながら、示しが付かぬと立ち向かって来た武人としてのロキを、少しだけ気に入っていたのである
「超裏切られた気分だわ!」
「そんな余裕は無かったと思うがの……」
キレるミカエラに、首だけのヨルムンガンデがそっとフォローを入れる
ヨルムンガンデは、冥界のバランスが崩れるのを嫌ったルシフェラの仕業だろうと、見当は付けていたが、余計な口を挟む勇気は無かった
(この子供達は神に昇神するやもしれんのう……)
ヨルムンガンデは空を仰ぎ見る
(もっとも、天界の神々が、己を滅する程の存在を認めれば、の話しじゃがのう)
力こそが正義の魔界と違い、神々はとても狭量だった
(母親も神気に満ちて居るが、……どうにも素行が乱暴よの、どちらかと言うと魔王の器なのじゃ)
突然、ミカエラがグルンッと勢い良くヨルムンガンデへ振り返る
「アンタ、今何か失礼な事考えて無かった?」
「なっ、何を言うておる?見事にロキを退けた子供達を祝福しておったのじゃ!」
「ふうん、……まあ、良いけど
て言うか、アンタいつまで首だけなの?再生出来ないの?」
「流石に首だけになっては、魔力が足りなくての、身体を再生するには数億年はかかるかのう……」
「面倒臭っ!そんなに面倒見切れ無いわよ?」
「いや、別に面倒見て貰う積もりは無いがの?」
「ナニ言ってんのよ、仮にも神さまなんでしょ?神に支える身として放っとける訳無いじゃない!」
その神様を首チョンパしたのは棚に上げて、意味不明な持論を展開するミカエラに、ヨルムンガンデだけで無くその場に居る全員がため息を吐くのだった
アシュタローテとミカエルがミカエラから離れると、早速アシュタローテが小言を言う
「貴女、まさかこの生首の面倒見る積もり?」
「ん?当たり前でしょ?だって神様よ?神様!」
「はあ……(駄目だこりゃ)」
「こんなに(生首)しちゃったのは、私の責任だしねえ、アッハハハハ!」
あっけらかんと笑うミカエラに、罪の意識は微塵も感じられない
「はあ……て言うか、神様なら貴女、殺したハーディ達を生き返えさせられないの?」
アシュタローテがヨルムンガンデに問うが
「如何に神とて、死者蘇生なぞ無理じゃの
じゃが、神の祝福を得たお前達の方が、専門分野であろ?」
確かに、ペンティアムかウリエラならば死者蘇生も可能だが、死体すら残っていないのでは、どうしようも無い
「んーまぁ、ルーシーなら何とかなるんじゃ無い?」
「へっくちん!」
パンデモニウムの奥で、盛大にくしゃみするルシフェラだった
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