第56話 悲しみにつばをかけろ


「本物の天才ってのは、この子達の事さ、覚えておきな!」


「天才……だと?子供じゃ無えか」

「まあだ理解出来無えのは、テメーがボンクラだって証明だ!凡夫にゃ何言っても意味無えか」


 ミカエラは深いため息を吐くと、もうロキに興味は無いとばかりに背を向けると、手をヒラヒラと振る

「テメーの出る幕じゃ無えよ、顔洗って出直して来な」


 流石にここまでコケにされて、ロキも黙っては居られない

 が、自分より格上のヨルムンガンデがあっさり殺られたのも事実だ

 ぐうの音も出ないとは、まさにこの事だろう


 何が正しいかは、常に勝者の言葉が優先される

 それが魔界のルールだ


「ハーディさんにも言ったんだけど、私達の知識は地獄には必要無いと思うんだ」

 ミラクラがロキに語り出す


「私は、ヨルムンガンデさんがヤった攻撃を再現出来るけど、地獄の皆が同じ様に出来たら、貴女は嬉しい?」


 そこまで言われて、ロキはようやくハーディの置かれた立場に思い至る


 (だからって、全ての責任すら放り出して地上へ逃げようってのは違えだろーが!?)

「やっぱり、テメーとは落とし前を付け無きゃ俺様の立場が成り立たねえ!四の五の言って無えで、ヤるしか無え!」


「ミカエラ様、ロキが居なくなっては、地獄が消滅して、地上に亡者が溢れかねません」

 アガリアがとんでもない事を耳打ちする


 (アーシュ、どうしよう?)

 (脳筋には脳筋が対処なさいよ?)


「要は、殺さない程度に負かせば良いって事よね?」

 指をポキポキ鳴らしながらサリエラが前に出ると、クレセントとセレロンも続いて並び立つ


「ヴァルキュリアに精霊龍の使徒か……三人なら俺様に勝てるとでも思うのか?舐めんなよ?」


 (アギー、あの三人でイケそう?)

 (ロキ様には独自の権能が有るので、力押しでは正直難しいかと……)


 ロキは落ちていた魔剣レーヴァテインを拾うと、ヴォルカノとイフリースに声をかけた

「何で、テメー等がそっち側に居るのか知らねえが、取り敢えず返して貰うぜ?

 喰えくらえ、レーヴァテイン」


 ロキが手にした魔剣を、ヴォルカノとイフリースへ向けると、二人の炎竜の姿が魔剣に吸い込まれて消えた

 魔剣が怪しく煌めく


「「「!?」」」

「二匹の魂を魔剣に籠めた、これで三対三だ」


 ズキューーーーーーン!

 いきなりクレセントが金色のブレスを叩きつけるが、魔剣に吸い込まれて無効化されてしまう


 サリエラは神剣を抜き放ち、魔力の刃で斬りかかるが、ロキは魔剣でこれを受け止める


 ロキがレーヴァテインを振るうと、炎の剣筋が大地を切り裂く


「ナニあれ、神器なの?」

「只の炎属性の魔剣じゃ、持つ者の力に左右されるから、貴様にとっては脅威でも何でもあるまいて、それにしてもショボイのう、あれでは魔剣が泣くぞよ?」

 ミカエラの疑問に、首だけのヨルムンガンデが答える

 どうやら、レーヴァテインが宝の持ち腐れだと言いたいらしい


「聖域展開、神雷トールハンマー!!」

 バリバリバリバリ!!

 サリエラの雷撃に対し、魔剣を避雷針にして避けるロキ

 雷撃は全てレーヴァテインに吸収されて消えた


「月光眼!」

 クレセントの、金色の眼からビームが迸るが、これも魔剣に吸収されてしまう

 どうやら、魔力による攻撃は全て無効化される様だ


 黒鱗鎧装したままのセレロンが飛び掛かり、タコ殴りにするが、ロキも魔剣を巧みに使い、対抗する

 セレロンの鱗は、魔剣の斬撃も炎も通さない


 セレロンがロキを組み伏せ、魔法障壁を展開すると、全黒眼になり物理属性の暗黒のブレスを叩き込んだ

 ズバオオオオオーーーーーッッ!!


 障壁に囲まれた結界の中で、凄まじいエネルギーの暴力が荒れ狂い、天空に巨大なキノコ雲が立ち昇る


「あれ、死んだんじゃ無えの?」

 

「ロキがあれしきで、くたばったら誰も苦労せんのじゃ」


 


 


 


 

 

 

 

 

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