第52話 俺の涙は俺が拭く


折角のシリアスが色々と台無しになりかけたが、アシュタローテがバラキエラに対して念話を送る


(多重魔法障壁を展開して置くから、維持をお願いね?)

「お母さん?」


「ヤバくなったら、全員を転移させて逃げなさい、まあ、負けないけどね!」

 ミカエラがとびきりの笑顔で振り返り、サムズアップする


「負けたら許さないから……」

 クレセントが小さな声で呟くが、ミカエラには届いていない


 セレロンが無言で黒鱗鎧装し、ミラクラの前に立つと、フンス!と気合いを入れた

「私の家族は私が護る!」


 ミカエラの背中には、白と黒の二色の翼が煌めいている

 三身合体で戦うのは、初めての経験だ


「ほう、人間が天使と堕天使と合体しよったか

 ようやく準備が整った様だの?待っておったぞ」

 

「何だか知らねえが、売られた喧嘩は買うのが信条でね!」

 

「良い心掛けじゃの!」


 両者が同時に飛び出し、激突する

 互いのパンチが顔面に決まり、衝撃波が辺りに響く

 ドッゴオオオーーーーーン!!


 ミカエラの身体が数百メートル吹き飛ばされる


 ヨルムンガンデが実体を持たない、魔力だけの存在であっても、中々の破壊力だ


「そんなモノじゃ無かろう?ホレ!」


 ヨルムンガンデの指先から、再び閃光が迸る

 気配を読んでいたミカエラはホーリーブレスと暗黒のブレスをミックスして吐き出した


 バオオオーーーーッ!

 ズドオオオーーーーーーーーンッッ!!

 チューーーーンッ!


 相殺し損ねたエネルギーが、魔力障壁を突き破り、ミカエラの右肩を貫く

「うぐっ!」

 

 すぐさま治癒魔法で回復させるが、ヨルムンガンデが飛び掛かって来る

 ドカカカカカカカバキャッ!!

 手足の打撃は何とか防いだものの、尻尾の一撃で、再び吹き飛ばされてしまう


 ぎゅーーーーん、ズズン!

 かなり飛ばされて、岩にめり込む形でやっと止まった


「お母さん!?」

 ミラクラが悲鳴をあげる


「舐・め・る・なあーーーー!」

 ミカエラが岩山から飛び出し、ヨルムンガンデ目掛けて突っ込んで行く


 ズガガガガガガガガガガッ!

 激しい打撃の応酬の最中、ミカエラはヨルムンガンデの鳩尾に掌をあてがい、思い切り闘気を放出する

 ズン!

「ぐはっ!?」


 ヨルムンガンデが怯んだ隙に、空へ飛び上がり距離を取ると、数千発もの魔力弾を叩きつける

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドーーーーーー!

 (ミカエラ、思うのだけど……)

 突然、アシュタローテの意識が語りかけてくる

「なっ、何よ?今忙しいんだけど!」

 (聖剣鎧装したままで、光の刃を使えないかと思って……)


 そんな事が出来たら無敵だろうが、それが出来なくて、九年前はアシュタローテ相手に苦戦したのだ

「卍丸の両立って出来るのかしら?」

 (魔法はイメージの具現化よ、貴女のイメージで可能性は無限に広がる筈……貴女、双剣も使えるじゃない)

「んんっん、ヤッてみる!」


 魔力弾が着弾した土埃の中から、また閃光が走るが、野生の勘でこれを避けた

 とてもじゃ無いが、見てから反応したのでは間に合わない


 逆に、中途半端なこちらの魔法攻撃は効いていない様だ


 あの閃光はヤバい

 さっきは、聖剣鎧装を貫いて来た

 ほんの指先ほどの穴だが、卍丸の無敵モードを貫通されたのは初めてだ


 しかも、一瞬で血肉が蒸発し、出血さえしなかった

 余程の高温なのだろう


 とか思っていたら、同時に幾筋もの閃光が宙を舞う

「!ヤバっ?」

 咄嗟に手で急所を庇おうとしたら、光の刃で閃光を吸収していた


「あれ?出来た!……なら!」


 ミカエラは、更に撃ち出される閃光を、全て打ち返す

 チュドドドドーーーーン!!

 ゴオウッ!


 見て反応しているのでは無い

 恐るべき野生の勘である


「全部出来たっ!良いわ、アゲて行くわよ!」


 

 

 





 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る