第51話 憎みきれないろくでなし


ヨルムンガンデは数億年の永い眠りを妨げられて不愉快だった


 しかも、眠って居たのを良い事に、まんまと召還したのが格下のロキとあって、機嫌の悪さに拍車をかけている


「今さら、何の用で呼び出したのじゃ?」

 炎神闘エンシェントドラゴンのヨルムンガンデの本体は、未だに冥界の深層地下深くに眠ったままだ

 今、ここに立っている燃える様な赤毛の女性は、ヨルムンガンデの精神体が擬人化したものに過ぎない


「フン、用が無けりゃ、テメーの顔なんぞ見たくも無えよ」

「良い度胸じゃの、例え実体を持たぬと言え、貴様ごときに遅れをとる妾では無いぞ?小娘!」


 ヨルムンガンデの魔力が爆発的に膨れ上がり、周囲の空間を圧倒する

 召還陣の刻まれた洞穴の壁面がひび割れ、今にも崩れ落ちそうだが、ロキは怯む事無くヨルムンガンデの紅い瞳を見据えて言う

 

「悪いが手を貸してくれねえか?

 テメーじゃ無けりゃ話にならない化け物が現れやがった!悔しいが、俺様じゃ太刀打ち出来無え……!」


「なんじゃ、何かと思えば泣き言かえ?

 妾が貴様ごときに手を貸す云われは無いがの、 ……その化け物とやらは、そんなに強いのかえ?」


「地獄どころか冥界も魔界さえも、纏めて消し去りそうになった」

 

「ほう……」

 ヨルムンガンデの紅い瞳がギラリと煌めく

 彼女の瞳も、ハーディと同じ真理を見通す竜眼だった


「その様な強者が、現れるとはのう……長生きはするものじゃな、で、どんな奴じゃ?」


「人間と天使と堕天使の子供だ」

「はあ?ふざけておるのか?」


「マジだ、俺様の命に賭けて嘘偽りは無え」


「ふむ、貴様に手を貸す積もり等、毛頭無いが、その化け物とやらに興味が湧いた」

 ヨルムンガンデは眼を閉じ、ロキの言う魔力の存在を感知しようとする


「む……これか?なんじゃ、人間も天使も肉体を保ったまま、地獄で生きておるでは無いか?

 どうなっとるのじゃ?」


「だから、規格外の化け物だと言っただろうが」

「ロキよ、貴様は本当にろくでもない奴だが、今回は大目に見てやらんでも無いぞ?

 どれ、ちょっと遊んでやるとしようかの」


 ヨルムンガンデは獰猛な笑みを浮かべながら、ミカエラ達の元へ転移する



「何か来る」

「「「!!」」」「「?」」「「げっ!」」


 ずっと魔力を探っていたラムエラが最初に異変に気付いた

 ミカエラ達も地獄全体を覆う様な、強大な神気に気付き、咄嗟に空を仰ぎ見るが、空に異変は見当たらない


「お母さん、ソコ!」

 ラムエラが指差す方を見ると、一キロ程離れた岩の上に一人の赤毛の女性が立っていた


「……何よアレ、神様?」

 サリエラは珍しく畏れていた


「冗談でしょ?」「……」

 クレセントとセレロンは相手の正体に心当たりが有るらしい

 何時も、ノホホンとした雰囲気のセレロンが、眉間に皺を寄せて睨んでいる


 ヴォルカノとイフリースの二人は、白眼を剥いて気絶していた


 アガリアは震えながら名前を口にした

「ヨルムンガンデ様……」


「誰?」

 ミカエラが知らなくて当然だ

 ヨルムンガンデが顕現して暴れたのは、遥か数億年も昔の話しだ


「魔界でも既に伝説となって久しい、炎神闘エンシェントドラゴンよ、私も実物を見るのは初めてだわ」

 アシュタローテは相手の魔力量を測ろうとするが、世界全体を覆い尽くす様な、馬鹿げた存在であるとしか把握出来ずにいる


「誰だろうと、相手をするのは私しか居ないわね!」

 ミカエラが左手に右拳を打ち当てて、立ち上がると、ヨルムンガンデがこちらを指差した


 突然、閃光が走った様な気がするが、知覚出来なかった

 光速の数倍の速度で放たれたエネルギーは、ハーディと隣に居たツマツヒメを一瞬で蒸発させ、跡には消し炭すら残っていない


「裏切り者の処分は済ませた、借りは返したぞよロキ」

「……テメーッ!?」


 何も言わずもともミカエルが憑依合体し、卍丸を聖剣鎧装させる


 ラムエラとバラキエラも、ミラクラに変身し、無言で対峙するが、アシュタローテがミラクラの前に立つ

「貴女達は下がってなさい」

「でも!」

 クレセントとサリエラとセレロンの三人がミラクラを捕まえ、デュアルコアの所まで下がらせた


「ミカエラ、私も入るわよ」

「え?何言って……」

「ヤッた事は無いけど、ミカエルに出来るなら私も出来る筈だわ」

 そう言うと、アシュタローテはミカエルと憑依合体したミカエラに、更に合体する


「んんっ、そりゃ……出来るかも知れないけどっ?昼間から三人一緒ってのは初めてだわね♡」

 

 (ハァ、相変わらず気持ち良いわね、貴女の中)

 

「ああん、お願いだから戦闘中は黙ってて!」

  

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