第47話 純潔


「憑依合体って……二人共、肉体が在るから無理なんじゃ?」

「大司教が二人に聖剣を与えたのよ」

 ミカエラの疑問に、アシュタローテがため息混じりに答える


「聖剣!師匠が?」


 驚くミカエラに、子供達が事情を説明する

「あのね、私達を地獄へ送ってくれた時に、先生が私達にって聖剣を渡してくれた!」

「ラムエラのは木刀で、私は指輪なの」


 バラキエラが自分のブレスレットに魔力を流すと、右手の人指し指に指輪が顕現する

「私のは地獄丸、バラキエラのは極楽丸って名前なの!」

 ラムエラが木刀を顕現させたとたん、ミカエラは凄い勢いで顔を背ける

 良く見ると、肩が細かく震えているのがわかる


「お母さん?」

「……ゴメン、十秒待って!………………ヨシ!」

 勢い良く振り返ったミカエラは、最高の笑顔でラムエラを抱く


「あー、ゴメンね?カッコいいじゃ、ない!

 ラムエラの体格にぴったりねぇ!」


 ラムエラの前で大笑いしなかったのは、ミカエラなりの精一杯の愛情なのだが、どう考えてもバレバレである

 ラムエラは母親の気遣いを無駄にしたく無かったので、ミカエラが笑いを堪えたのを、気付かぬ降りをした


「大司教が何故、聖剣を用意出来たのかはともかく、この子達は聖剣のお陰で確実に強くなってるわよ」

 アシュタローテがウインクしながら、さりげなくサポートしてくれた


「ふーん……ヨシ!ヤってみようかラムエラ!」

 

「えっ?」

 

「アンタが地獄へ来て、どのくらい強くなったか、お母さんに見せて!」


 ミカエラは卍丸を呼び出すと、木刀に変化させた

「これくらいは、ハンデあげないとね」


 地獄丸で斬った魔力は吸収されて消えてしまうが、卍丸も聖剣なので、恐らくは鍔競り合いになっても大丈夫だろう

「心配しなくても、ちゃんと寸止めしてあげるわ、ラムエラは遠慮無く、全力で来なさい」

 

「え~、お母さん卍丸使うのズルくない?」

 

「女の子はグダグダ言わない!

 さっ、かかって来なさい?」

 相変わらず男前なミカエラである


「じゃあ、行くね?」


 そう言うと、脇構えのラムエラは一瞬でミカエラの懐へ飛び込むと、地獄丸を逆袈裟に振り上げる

 地上で稽古していた時よりも、遥かに速い踏み込みにミカエラは驚きながらも、身体は勝手にラムエラの剣を捌いていた


 半歩下がると、刀身を滑らせ、地獄丸の剣を紙一重で横へ流し、卍丸の剣先をラムエラの喉元にあてがう


 木刀同士が当たる音さえしない、滑らかな動きだ


「くそっ!もう一回!」


 ラムエラは距離を取り直し、今度は地獄丸を霞の位に構える

 対してミカエラは卍丸を正眼に構えた


 ミカエラの正眼は無敵の位だ

 どんな攻撃に対しても、自然体で捌き、一瞬でカウンターを見舞う


 体格も聖剣のリーチもミカエラが圧倒的に優位

 しかし、ラムエラも地獄へ来てからの実戦経験で、自分が強くなった手応えは感じていた


「ラムエラ

 私に勝ちたいなら、正眼の上段で来なさい」

「!……はい」

 珍しくミカエラがラムエラにアドバイスした


 普段はラムエラの天賦の才を尊重して、滅多な事で口を出したりしないのだが、ラムエラは素直に母のコトバに従う


 (驚いたわね、踏み込みの瞬間にトップスピードじゃない?考えて動いてたら間に合わないわ)

 

 (お母さんが正眼の上段でと言った……だとしたら、この太刀筋しか無い筈!)


 何時も、稽古の時は待ちに徹するミカエラが、正眼中段に構えたまま、半歩踏み出る

「!?」

 ラムエラは母の気迫に押される様に一歩下がってしまうが、ミカエラは更に半歩前に進む


 数秒なのか、数分かすら分からない、無言の睨み合いの末、ミカエラはスルスルと前へ出た

「!」

 ラムエラは、自分へ向けられた明確な殺意に当てられ、踏み込みながら思わず地獄丸を突き出す


 神速の突き


 しかし、ラムエラの突きは、ミカエラの構えただけの卍丸に絡んだ瞬間、手を離れ宙を飛ぶ

「!?」

 卍丸の切っ先がラムエラの額にピタリと止まる


「悩んだわね?」

 ミカエラが地獄丸を拾い、ラムエラへ渡す

「私の殺気に怯んで、タイミングを逸してたわ

 敵が何時も待ってくれる訳じゃ無いのよ?」

 

「……ごめんなさい」

 

「馬鹿ね、怒ってる訳じゃ無いわ」

 ミカエラはラムエラを抱き締める


「ラムエラには、無限の可能性が有るのよ?

 それこそ、私なんか足元にも及ばなくなるわ」

 

「そんな事……」

 

「悩む暇が有ったら、剣を取りなさい」


 ミカエラはラムエラの手に地獄丸を握らせる


「答えは自分の中に在る、答えが欲しければ、自分自身で掴みとるしか無い、ラムエラなら出来るわ、私の自慢の娘だもの!」


 耳元で囁く母の言葉に、胸が熱く滾るラムエラ


「……脳筋母娘よね、血筋かしら」

 アシュタローテが呆れるが、あながち間違っていないかも知れない


「それはそうと、この娘達の純潔は大丈夫なんでしょうね?アーシュ?」


 

 

 


 


 

 


 


 

 

 


 


 

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