第44話 譲れない優しさ
「相手が誰だろうと、ヤる気が有るなら受けて立つわよ!」
ミカエラがマントを脱ぎ捨て、アシュタローテと並んで腕組みする
クレセントとセレロンも前に出るが、ミカエルとサリエラは子供達とデュアルコアを護る位置に動く
「この魔族は誰?敵じゃ無さそうだけど」
サリエラが油断無く聞く
「亡命希望者……って言うか人質かしら?」
ツマツヒメは別に逃亡する気は無かったが、既に共犯として指名手配されている
ガウはしきりにミカエルの臭いを嗅いで甘えている
「ガウ、私のお母さんだよ?お母さん、この子は友達のガウ!」
「新しい家族ね?宜しくねガウちゃん」
「ガウッ!」
「動かないわね……ヤる気有るのかしら?」
「あれは偵察よ、戦う価値すら無いわ
ここで待ってれば、そのうち大将が出て来るわよ」
「面倒臭いから、ブレスで片付けちゃう?」
全黒眼になったセレロンが、一歩前に出るが、
「セレロンおばさん、殺しちゃ駄目だよ?」
バラキエラが止める
「あら、そうなの」
しゅんとして、普通の顔に戻った
「まあ、このメンツなら地獄を更地に変えられるけどね」
「冗談は止めて、私の実家も在るんだから」
アシュタローテの軽口に、転移して現れたアガリアが文句を言う
背負っていた大きな荷物を拡げると、デュアルコアに声をかける
「地上で食料を調達して来たわ、どうせロクな物食べて無いでしょ?デュオ、手伝って頂戴」
「はい、喜んで!」
アガリアは組み立て式の簡易竈と、鍋やフライパンに各種調味料まで持って来てくれたので、かなり本格的に料理が出来る
水はバラキエラが、以前立ち寄った泉そのものを転移させた
数分後、折り畳みテーブルと椅子を並べて、ちょっとしたディナーが用意された
「ミカエラ様には、こちらをご用意致しました」
アガリアが神気ワインのボトルを開け、グラスに注ぐ
「アギー!愛してるわ♡!!」
グラスを手渡してくれた、アガリアの唇にキスをする
「私も頂こうかしら?」
アシュタローテもワインを貰い、ミカエラとグラスを合わせ乾杯した
クロスの敷かれたテーブルには、魚介のパスタやステーキ肉にサラダ等、時間をかけずに簡単に調理出来る料理が美しく盛り付けされ、並んでいる
子供達のグラスに葡萄ジュースを注ぐと、デュアルコアが音頭をとる
「皆さん、お待たせしました、どうぞ召し上がってください!」
「「頂きます!」」
ラムエラとバラキエラは食前の祈りを捧げると聖印をきり、ナイフとフォークを手に一心に食べ始める
「美味し~い♪」
「やっぱり母さんの料理は最高!」
「あら、ありがとう♡」
地獄へ来てから、巨大ミミズ肉と巨象の魔物肉を焼いただけの物しか食べていない
ミカエラ達も、こっちに来てから何も食べていなかった
荒野の真ん中で突然始まったディナーパーティーに、冥王軍の偵察部隊に駆り出されたオオヤツヒメは唖然とする
「何なの?アイツ等……信じらんない!」
妹のツマツヒメはテロリストの共犯として指名手配されているが、一緒になってご馳走を食べている
ヴォルカノとイフリースの炎竜コンビにボコられてる筈が、何故か逆賊ハーディ大佐と共に笑っているのは、姉として我慢ならなかった
(妹の分際でナマイキなのよ!)
彼女は、魔力を隠蔽するマントを被ると、岩影からミカエラ達の付近へ転移する
マントは特殊な繊維が編み込まれており、対面の反対側の景色が見える様になっている、熱光学迷彩仕様だ
透過率が非常に高く、影さえ出来ない
大きな音さえ立てなければ、発見は不可能と思われた
オオヤツヒメは腰から鋭利なナイフを取り出すと、こっそりハーディの後ろに近付いて行く
気付かれる事無くハーディを暗殺し、憎たらしい妹もついでに始末する積もりだった
何時でも転移魔法で逃げられる彼女は、自分の成功を信じて疑わない
最初に気付いたのは魔力では無く、気配を知覚出来るガウとクレセントだった
食事中でも警戒を緩めないサリエラとセレロンが次に気付き、ハーディの背中まで後一歩というところで、クレセントが不審者のマントを剥ぎ取った
バサッ!「えっ!?」
驚いて動きが固まった隙に、セレロンが尻尾でオオヤツヒメを転がし、サリエラが取り押さえた
「糞ッ糞ッ糞ッ!?何故分かった?」
「魔力を遮断出来る透明マントかぁ、良く出来てるけど、アンタ自分の足跡丸見えよ?」
言われて足元を見ると、確かに砂の上に足跡がくっきり残っている
「お姉ちゃん?何してるの!」
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