第41話 望みの果て


 荒野を走るガウの背中で、ラムエラは考えた

 ルシフェラさんや大司教様は、どうして自在に転移出来るのだろう?


 今回だって、自分達がルシフェラさんの魔力を特定出来ていれば、さっさと目的を果たしてお母さんのもとへ帰れた筈だ


 大気圏外に転移した時は、目に見える大空の更に上を想像して転移出来た

 バラキエラと二人で、認識を共有出来ていたのも、互いに手を繋いでいたのも良かったのかもしれない

 (慌てて動かずに、もっと転移の練習してから来れば良かったのかな……?私のせいでバラキエラもアーシュ母さんも大変なことに巻き込んじゃった……)


 実際は、ルシフェラの思惑を察したペンティアムが、面白がって先走った結果なのだが八歳のラムエラは、そこまで考えが至らない


 (魔力を感じるのは何となく分かるけど、ハッキリと場所の特定や、誰の魔力なのか迄は分からない……でも、アーシュ母さんは、お母さんの魂を感じられるって言ってた……魂って、魔力の根源だよね?)


 ラムエラの後ろに座るバラキエラは、ラムエラが珍しく考え事をしているのに気付いて、邪魔しない様に黙っている


 短絡的に見えて意外と正義感の強いラムエラが、何を悩んでいるのか、産まれた時からずっと一緒のバラキエラには良く分かる


「んーー、今は仕方ないかな

 ガウ、ちょっと止まって待ってて?」


 考えが纏まらないまま、気持ちを切り替えたラムエラはガウから飛び立つと、岩場の影から自分達を狙っていた蛇の様な魔物に向かって行く


「地獄丸!」

 聖剣がラムエラの掌に顕現し、勢いのまま魔物目掛けて斬り付けた

 ヒュッッ!

 しかし、ラムエラの木刀は躱され、逆に蛇の胴体が絡み付いてきた

 しかも、大きな岩だと思ったのは、象の様な巨大な魔物の身体で、蛇だと思ったのは象の鼻だったのだ


「うそっ?分からなかった!」

 地獄丸を取られまいと、強く握りしめるが、巨大な魔物に引き寄せられ口元へ運ばれそうになる


「ラムエラ!」

 バラキエラが援護しようと魔力を練るが、それより早くアシュタローテが飛び込んで、手刀で魔物の鼻を切り落としラムエラを抱えて離脱する


 「ヴウオオオーーーーーッ!!」

 鼻を切られた魔物が暴れながら突進して来るが、アシュタローテが片手を翳すと魔力弾を撃ち込み、呆気なく倒してしまう


 ズズゥン!

「あ、ありがとうアーシュ母さん……」

「どういたしまして」

 優しく微笑むアシュタローテは、ラムエラの様子が少しおかしい事に気付く


「どうかした?ラムエラ?」

「……私、あんなに大きな魔物の気配に気付けなかった」

「そうね、巧く擬態してたわね、

 本体の魔力を隠蔽して、鼻先を疑似餌の様に使い貴女を誘き寄せたのよ」


 何でも無い事の様に語るアシュタローテだが、己の未熟さをさらけ出してしまった様で恥ずかしかったのだ


 アシュタローテは優しくラムエラを抱き寄せると、輝く銀髪を撫でる

「貴女達はまだ子供なんだから、恥ずかしがる事は無いわ、遠慮無く大人を頼って良いのよ」


「ラムエラ!大丈夫?」

 バラキエラが慌てて跳んで来た

「うん、お母さんが助けてくれなきゃヤバかった」

「私も、援護が間に合わなくてご免なさい」


 しかし二人共、地獄へ来る以前より、遥かに強くなっている事をアシュタローテは理解している


「さて、コイツを解体して、ご飯にしようかしらね」

「あっ、アーシュ母さん!私にやらせて?」


 ラムエラは地獄丸を手に、小山の様に大きな魔物の死体に近寄る

 巨大な象の様な魔物の脳天に、拳大の孔が開き、後頭部が無くなっていた

 (凄いな……正確に急所を一発だ)


 少し離れた場所からラムエラが地獄丸を振るうと、堅そうな魔物の身体が細切れになる


 バラキエラが手頃な岩を熱し、魔物肉を焼き始めると、ガウが盛大に涎を滴し出した

 おそらく、この魔物は美味しいのだろう


 ハーディがバラキエラに近寄り聞いてくる

「今の、どうやって火を着けたの?」

 

 バラキエラが母親の顔を窺うと、黙って頷いたので、太陽の熱を岩の内部へ転移させた事を伝えると大層驚かれた


「何と!?熱エネルギーそのものを転移させたと言うの?そんな事が可能なのか……」

「加減しないと、岩が爆発しちゃうから難しいんだけど」

「ううむ……発想が素晴らしい!この子達は天才だわ!」


「当然よ、私の子供だからね」

 


 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る